『古事記』解釈のキーワード④
「カード64」p-k
「カード64」 s-r
画像に
ついて
「カード64」から p-k,s-rの 2点を 引用しました。イラストは、切り絵 作家 梶川 之男さんの 作品です。
パクパク・パクル姿
日本語のpak-音 擬声・擬態語と して、パカパカ・ハキハキ・バキバキ・パキパキ・パクパク・パクリ
などが
あります。こまかく
いえば、それぞれ
ちがった
ニュアンスの
コトバですが、基本的には「パクル姿」=「口を 大きく 開閉する 姿」を 表わす コトバと 考えて よい でしょう。語源的には「ハ[刃‣歯]+ク[來]」の 構造と 分析する ことが できます。
動詞 ハク・ハグ・ハカル・パクルや 名詞 ハカ・ハケ・ハコ・ハカリ なども 同系の コトバでは ないかと 見当を つけ、このあと 具体的に 検証作業を すすめます。
ついでに、漢語や 英語のp-k音語との 関連も さぐって みます。
『古事記』に出てくるpak-音語
『古事記』に 出て くる pak-音語は、動詞 ハク「吐・佩」・ハグ[剥]・ハカル[謀・議・量]、名詞 ハカ[陵]・ハカシ[刀]・ハカマ[褌]・ハカリコト[謀] など です。
『広辞苑』には、動詞 ハク「吐・佩・掃・著・帯・履・穿・化・(捌)」・ハグ[剥・禿・矧・接]・バク[化]・ハガス・ハガツ・ハカドル・ハカナム・ハカル・ハカラフ・ハカル・ハガル・ハグル・パクル・ハゲマス・ハゲム・ハゲル・ハコブ
などが
出て
きます。
このこと から、どんな ことが いえる でしょうか?
Pak-音の コトバが、もともと
日本列島で
生まれた
もの
か、それとも
海外
から
伝来した
もの
か、それは
まだ
断定できません。しかし、『古事記』や『萬葉集』の
中の
pak-音語と 現代の 国語辞典の 中の pak-音語を 比較する だけ でも、pak-音語が 時代と ともに 成長・発達して きた ことが 推察できます。「必要は 発明の 母」。時代が すすみ、生産技術が 発達するに つれて、技術用語の 面 でも、(同音の ままで)あらたな 意味用法が うまれたり、より 複雑な 音形のpak-音語が 生まれたり したと 考えられます。
ハク「吐・佩・掃・著・帯」姿=ハグ[剥・禿・矧・接] 姿
パクパクを ふくめ、ハクは「ハ[刃‣歯]+ク[來]」の 構造で、「パクリと パクル」姿。
ハク[吐・掃]は、いずれも 「口の 中や 床の 上に ある モノを ハギとり、外へ ハキ出す姿」です。
ハク「佩・著・帯」は、腰(帯)の あたりに 空間を つくり(ハグル[撥])、そこへ タチ[太刀] などを パクリ・パクル
姿。
ハク[穿・履]は、木・皮・衣料 などを ハグリ、できた 空間(キモノ・クツ)に
カラダや足を
イレル・ツツム・パクル 姿。
ハグ[剥・禿・矧・接] 姿は、基本的に ハク[吐・掃・佩・著・帯] 姿。ハグは、ハクの 交替音。たとえば、木の 皮を ハギ[剥] とれば ハゲ[禿]の 姿。
ハグ[矧]は、竹に 羽を つけて 矢を つくる こと(=ハク[佩・著・帯])。
ハグ[接]は、「つけ合わす。つぎ合わす」(=ハク[佩・著])姿。
紙面の つごうで、これ 以上の 解説は 省略させて いただき ますが、2音節 動詞 ハクがネッコに なって、さらに おおくの 動詞や 名詞 などが うまれ、pak音 単語家族が 組織されたと 考えられます。
ハク
ものが、ハカ[墓・量]・ハケ[刷子]・ハコ[箱]
さきほど 指摘した とおり、「ハク=ハ[刃‣歯]+ク[來]」。また、ヤマトコトバの 組織原則に したがって、ハク ものが ハカ、ハク ことが ハキと なります。また、ハケ・ハコは
ハカの 交替形と 解釈 できます。
ハカ[墓]は、ハコ・ハカマ などと 同系の コトバ。ハク[掃・著・佩] 作業に よって 死体を ハク[佩・著](収容する・パクル) ことが できる ように つくられた 装置。
ハカ[計・量]は、ハク・ハカル・ハカリ・ハケル などと 同系。ハク・ハケル[捌] (流通する) 分量。→ハカドル・ハカバカシ。
ハコ[箱]は、ハカ[墓]の 語尾子音 交替。パクル もの。pack, boxの 姿。フクロ[袋]は、bagの 姿。
ハク[掃・剥] から ハク[白・迫・剥・伯] まで
ここで、ヤマトコトバの ハク[掃・剥]と 漢語 ハク[白・迫・剥]との 関係を 考えて みましょう。たとえば、ヨゴレ などを ハク・ハガス 姿は、日漢語とも ハクです。また、人間は
年を
とると、クロカミ
から
色素が
ハギとられ、シラガに
なります。どんぐりの実は
茶色ですが、その
ハカマの 部分を ハギとると、そこだけ
色がハ ゲて、白っぽくみえます。
漢語
ハク[白]は、上古音 bak、現代音 bai, bo。この 字形に ついて、漢和字典の
解説をチェックして
おきましょう。
どんぐり状の実を描いた象形文字で、下の部分は実の台座。下の部分は、その実。柏科の木の実のしろい中みを示す…(『学研漢和大字典』)
なお、ハク[白]には、「しろ・しろい」「しらむ」 などの ほか、「もうす[申]」の 意味用法が あり、「敬白・告白・自白・白状」などと いいます。日本語で「ドロを ハク」(自白・告白) などと いう のと おなじ 感覚です ね。
ハク[迫]に ついっては、辞典に「辵+音符白の
形声文字で、ぴたりと
ひっつく
こと。白の
原義(しろい)とは 関係が ない」と 解説されて います。しかし、ハク[色]の 字形を「どんぐりの 実が ハカマを
ハク 姿」と 解釈すれば、日本語の
ハク[吐・掃・剥] から 漢語の ハク[白・剥・迫] まで、すべて「ハ[刃‣歯]+ク[來]」の 姿を 共有して いる ことは 事実です。
ハク[剥]は、上古音pluk、現代音bao, bo。モノの 表面が ポロポロ ハゲ落ちる
さま。また
動物の
表皮を
ハギとる さま。
ハク[伯]に ついても、「人+音符白の
形声文字で、しろいの
意とは
関係が
ない」と
解説されて
います。「昔、父と
同輩の
年長の
男を
パと
いい、それに
当てた字」との
こと。それに
しても、どうして
ハクや パの
語音が つかわれた ので しょうか?わたしは、日本語・漢語とも ハクに「吐く・掃く・佩く・剥ぐ」姿が
見られる
ように、ハク[伯]に ついても「どんぐりの 実が(ハゲ茶色の)ハカマを ハク」姿を 認めて よいと 考えています。どんぐりの
実は、いまでも
天然の
食料資源で あり、日本語 キミ[君・公] なども、食料 キミ[黍]の 姿 からの 連想かと 推定されます。
つまり、ハク[白] : ハク[伯] = キミ[黍] : キミ[君・公]と いう わけ です。
ウシハク[領] 人が ハク[伯] か?
おなじ ハクでも 正体を つかみにくい ハクに ウシハク[領]が あります。『古事記』でも上巻「大国主神の 国譲り」の くだりに「汝が ウシハケル
葦原の
中つ国は、我が
御子の
知らさむ 国…」という 用例が 見られます。文脈
から「ウシ=ヌシ[主]」、「ハク=[佩]」と 判断し、「ヌシ[主]として 土地を
領有する」と 解釈されて いる よう です。
また、スサノヲ命が「天の
フチコマ[斑馬]を サカハギに ハギて…」という 記述も あります。牛や 馬を 飼い、その 皮を ハギとり、着物や ハキモノ[履物]に 利用して いた 人たちが いた ことも 考えられます。「牛の 皮を ハク[剥・佩・穿・履]人」の 姿 から、同音の ハク[伯]を 連想した 可能性も ない とは いえません。
『萬葉集』では、カナ書きの ほかに ウシハキ[牛吐]・ウシハキ[牛掃] などと 表記した 例も あります。
ハク[白・剥] から シル[知・汁]・シロ[白・城] まで
ここまで、日本語と 漢語の ハクpak-音に しぼって 考えて きましたが、日本語の pak-音は「ハク・ハガス・ハゲル」姿を
表わすに
とどまり、白色を
表わす
には、まったく別の
語音で
シロと いわなければ なりません。その 点、漢語では、もともと「ハク・ハガス・ハゲル」姿を
表わす ハク[白]が そのまま 色彩を 表わす 語音と なって います(「白砂・白紙・白髪」など)。
p-k音の ハク[吐・掃・佩]や ハク[白・剥]と s-r音の シロ[白]と では、音韻面からの つながりが ありません。日本語の シロ[白]は、動詞 シル[知]・スル[擦]や 名詞 シル[汁]・シロ[城・代] などと 同系の コトバと 考える ほうが 分かりやすい です。たとえば、大根の
味を
シル[知] には、大根を スリ[擦] おろして、その シル[汁]を 飲んで みる こと です。
「袖スリ[擦] あうも、多生の 縁」。道を 行く とき、スレスレに
なったり、たがいに
手と
手を
スリあわせたり(握手 )する こと から、やがて シリアイ
関係に
なったり
するわけ
です。
また、腰の 左右の 筋肉が スリあう・シリあう ところが、シリ[尻]。シリ[尻]を おろして、その あたりを シル[知・領] ことに なる、その 場所が シロ[城・代] です。
動詞 シル[知・領]と 名詞 シロ[白] との 関係は、漢語で 動詞 ハク[剥]と 名詞ハク[白]との 関係と そっくり です。「どんぐりの 実の 色」・「その ハカマの 色」・「ハカマを
ハガした
部分の
色」を
ひきくらべる
こと
から、「ハク[白](ハゲた色)」が 生まれた ように、「スリ[擦] 減る」・「シル[知・痴(ぼける)]」姿 から、シロ[白]という 意味用法が 生まれたと 考えられます。
シル[知・汁]・シロ[白・城] からsilk, silver まで
このように 見て くると、シロ[白]と ハク[白]は、おなじ ひとつの コトを sir-音と pak-音 という 別系統の 語音で いい分けた もの です。
シル[知・汁]・シロ[白・城]と 同系と 考えられる コトバを いくつか あげて みます。]
シラ[白] 動詞シル[知・痴]の名詞形。スリへリ、ボケル姿。 シロ[白]は、その交替形。
シラカ[白髪] シロ[白]く なった 髪。
シラギ[新羅] 鉱石をシラグ[精](他下二)技術をもつ国の意。→シラキヲノ[新羅斧]
シラク[白斑](自下二) 白くなる。しらける。
シラグ[精] (他下二) 白くする。精製する。むちうつ。
シラス[知・令知] (他下二) 知らせる。教える。
シラヌヒ[白縫] 枕詞。ツクシ[筑紫]に かかるが、未詳。*「シラ[領]ヌ ヒ[霊] ツク[憑]」とする 説が 注目されて いる よう ですが、「白い (シラギ[新羅]製の) ヒ[梭](針)で ツク[突]」と 解釈する ほうが すっきり するかと 思います。
シラヒゲ[白髭] 白い ヒゲ。*ヒゲは、クイ[杭]・ピケットの 姿。
シラヒゲ明神
猿田彦神と いい、また、新羅の 神と いう。*鉱物の 採掘や 精錬に かかわる 神 か?
シルス[記] (他四) 書きつける。*スル・シル、シル[汁]をスリつける姿。
シルシ[験・印] 動詞 シルス[記]の 名詞形。
シルシ[知・灼](形) 著しい。*シル→シルス→シルシ→イチシルシ。
シロカネ[銀] 白金の 意。シロガネ とも。
シロシメス[所知食] シロス[知]の 尊敬語。シラシメス とも。
さて、シラス[知・令知]・シラグ[精] ・シラギ[新羅] まで たずねて きましたが、ここまで
くると、英語のsilk, silverや salt, salad など との 関係も 気に なって きます。Silk(絹), silver(銀)や salt(塩), salad(サラダ) などは、たしかに シロ[白]・シラグ[精]の イメージを もって いて、わたしも 今回の ブログで 「シロ[白]と silkとの 関係」を つきとめたいと 考えて いました。しかし
いざと
なると、英語では
s-r音語と s-l音語を ひととおり チェックし、その
基本義を さぐる 作業が 必要で、とても この ブログでは 間にあい ません。
またしても 申しわけ ありませんが、つぎの 機会に まわさせて いただきます。
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