2013年6月26日水曜日

カラがカラダをクルム


ネオ・漢字ものがたり⑨


[]の甲骨文


 
 
 []の銅器銘文
 
 
 
 []グループの漢字A



[]グループの漢字B
 
 
 
 


k-r音の漢語
前回はk-r音日本語を とりあげました。今回はk-r音の 漢語を とりあげます。現代漢語にk-rの音節は ありませんが、上古漢語には たくさん あった ことが 分かって います。

おもな ものを ざっと ひろって みると、こんな ぐあい です(日本漢字音・上古漢語音・漢字・現代漢語音の順)

k’arke//   カkarge//   カhar河・何・荷he//   カharke//

kar加・枷・嘉jia//   カkuar過・渦guo//   カhuar化・貨hua//  

kuar果・菓・裹guo//   カk’uar顆・課・窠・科ke//   カhuarhuo//  

huarhuai//

huar禾・和he//  

カイkarjie//  カイkuerguai//  カイk’uerkuai//

カイhuer壊・懐huai//  カイhuerhui//

kiarji//

giar奇・騎qi//  キkier幾・機ji//  キkier几・机・肌・飢ji//

kiuer癸・鬼・帰gui//  キkiuerkui//

giuer揆・葵kui //  キhiuarhui//

ngiuarwei//

hiuarwei//  イhiuer違・囲・偉wei//

ただし、語尾の -r子音が 早い時代に 脱落した ため、日本漢字音(漢音・呉音など) 見ても、その 痕跡が 見あたりません。

 

コロコロした果
これだけ たくさんのk-r音語が あると、どれから 手を つければ よいか、判断に まよいますが、さいわい 「白川静文字学入門」(241, 242)(北日本新聞429日号、56日号) []グループの漢字 紹介されて いましたので、まずは この グループから とりあげる ことに します。

画像として、[] 甲骨文と 銅器銘文(高明編『古文字類編』)、および [果・課] イラスト(はまむらゆう作) 借用させて いただきました。

小山さんは、[果・菓・顆・夥]などの 字形に ついて、分かりやすく 解説して います、

[]は木の上に果実がある様子をそのまま文字にしたもの…[]の部分()…田んぼの区画ではなく、果実の形…クダモノ[果物]が第一番目の意味…花から実が結実するので「はたす、結果」の意味となった…

[]のもともとの文字が、このカ[]…昔の菓子は木に成る果物を砂糖漬けなどにして、加工したもの…

小さな粒状のものをカリュウ[顆粒]と言い…カ[]には丸いものの意味があって、カ[]は「つぶ」の意味…

ものの多いことをカタ[夥多]と言い…(つぶらなものが)密集している状態がカ[]で、「多い、オビタダシイ[]」という意味です。

白川さん、小山さんは、漢字の字形 中心に して、漢字・漢語の意味を 解説して おられます。わたしは、漢字の音形 たずね、音形を たよりに 漢語の意味を たしかめ、できれば さらに 日本語音や 英語音との 対応関係 さぐりたいと 考えて います。これまでの ところ、予想以上に テゴタエが あります。

漢語 [果・菓・顆・夥] 上古音kuar, huarなどは、日本語 ツチクレ[土塊]・イシコロ[石塊]などの クレ・コロ よく にて います。クダモノの カラ[] 中に 小粒の 果実がつまって いる 姿は、やがて 原野に コロコロ・ゴロゴロ、ツチクレ[土塊]・イシコロ[石塊] コロがって いる姿に 通じます。

上古漢語や 上代日本語の 時代 まで さかのぼれば、日本語・漢語とも かなり 共通の感覚で k-r音語を つかって いた こと が推定されます。

 

カラ[]からカラ[]まで
小山さんは [] [] 関係に ついて、こう 解説して います。

「果」はクダモノ[果物]のこと…「果」をふくむ字には「ある部分にものが密集し、しかも区分がある状態を示す」ものが多い…

こんな理由から、「課」という字には一つ一つの項目に分かれているものの意味、その一つ一つの部分を責任もって引き受ける意味(があり)

「課税」は税を割り当て、取り立てること。「日課」は1日ごとに割り当ててする仕事です。

ここで いちど、字形中心の 見方から 音形中心の 見方に 切りかえて みましょう。字形中心の 見方では、字形[] 言ベンを つけた 字形が []なので、双方が []の基本義を 共有する いう 論理に なります。これが 音形中心の 見方では、カkuar果と k’uar課の 上古音は もともと 語頭子音が 無気音 と有気音の ちがい だけ ですから、[]の基本義を 共有する のは 当然と いうことに なります。

漢語 kuar果と k’uar課の対応関係は、日本語の カラ[] カラ[] 対応関係とよく にて います。果実、たとえば ミカンの ばあい、それ自体 コロコロした カタマリ(k’uer) であり、表面を あつい カワ=カラ[殻] ツツミ(クルミ) こまれて います。いいかえれば、カラの 中に カラッポ 空間が できた カラ[] こそ、そこで ミカンの身が コロコロ そだって きた わけです。日漢語 とも、k-r音が 原因と 結果 あらわすコトバに なって います。

 

クル・エグル姿、クルム姿
地面に ある スアナ[巣穴] あらわす 漢語に カ窠k’uarke あります。字形から 見ても、木の上の [] たいして、「アナ[] なかに  [](コロコロした もの) ある」姿です。

すこし だけ 見方を 変えれば、カリカリ・ガリガリ、地面をクル・エグル姿。その 結果として、コロッと 丸い 姿の スアナ[巣穴] うまれる わけです。 

クル・エグル 姿は、見方に よっては クルム姿にも 見えます。漢語 kuarguo(つつむ) その 例です。字形は、「コロコロ、コロガル実を コロモ[] クルミ つつむ」姿。そういえば、日本語の コロモ[] コロ[] []、「カラダを クルクル、クルム、巻きつける」姿でした。

 

穀物を マスで はかり、等級を つける
k’uarkeは、「禾(イネ)+(マス)」の 会意文字。穀物を マスで はかり、等級を つける 姿。 マスで ハカル ことは、やがて 数量や 品質を クラベたり、等級を つけたり する ことに なります。クラシムキ クラスわけ される わけです。

病院の 内科・外科・耳鼻咽喉科 など いう のも、診療内容を こまかく キリわける ことに よって、専門分野の ごとに、より 高度の 治療が うけられる ための シクミです。