ネオ・漢字ものがたり⑨
[果]の甲骨文
[果]の銅器銘文
[果]グループの漢字A
[果]グループの漢字B
k-r音の漢語
前回はk-r音日本語を とりあげました。今回はk-r音の 漢語を とりあげます。現代漢語にk-rの音節は ありませんが、上古漢語には
たくさん
あった
ことが
分かって
います。
おもな ものを ざっと ひろって みると、こんな ぐあい です(日本漢字音・上古漢語音・漢字・現代漢語音の順)。
カk’ar可ke// カkar歌ge// カhar河・何・荷he// カhar苛ke//
カkar加・枷・嘉jia// カkuar過・渦guo// カhuar化・貨hua//
カkuar果・菓・裹guo// カk’uar顆・課・窠・科ke// カhuar夥huo//
カhuar踝huai//
カhuar禾・和he//
カイkar皆jie// カイkuer怪guai// カイk’uer塊kuai//
カイhuer壊・懐huai// カイhuer回hui//
キkiar寄ji//
キgiar奇・騎qi// キkier幾・機ji// キkier几・机・肌・飢ji//
キkiuer癸・鬼・帰gui// キkiuer愧kui//
キgiuer揆・葵kui // キhiuar毀hui//
ギngiuar偽wei//
イhiuar為wei// イhiuer違・囲・偉wei//
ただし、語尾の -r子音が 早い時代に 脱落した ため、日本漢字音(漢音・呉音など)を 見ても、その 痕跡が 見あたりません。
コロコロした果実
これだけ たくさんのk-r音語が あると、どれから
手を
つければ
よいか、判断に
まよいますが、さいわい
「白川静文字学入門」(241,
242)(北日本新聞4月29日号、5月6日号)に
[果]グループの漢字が 紹介されて いましたので、まずは
この
グループから
とりあげる
ことに
します。
画像として、[果]の 甲骨文と 銅器銘文(高明編『古文字類編』)、および [果・課]の イラスト(はまむらゆう作)を 借用させて いただきました。
小山さんは、カ[果・菓・顆・夥]などの 字形に ついて、分かりやすく
解説して
います、
[果]は木の上に果実がある様子をそのまま文字にしたもの…[田]の部分(は)…田んぼの区画ではなく、果実の形…クダモノ[果物]が第一番目の意味…花から実が結実するので「はたす、結果」の意味となった…
カ[菓]のもともとの文字が、このカ[果]…昔の菓子は木に成る果物を砂糖漬けなどにして、加工したもの…
小さな粒状のものをカリュウ[顆粒]と言い…カ[果]には丸いものの意味があって、カ[顆]は「つぶ」の意味…
ものの多いことをカタ[夥多]と言い…(つぶらなものが)密集している状態がカ[夥]で、「多い、オビタダシイ[夥]」という意味です。
白川さん、小山さんは、漢字の字形を
中心に
して、漢字・漢語の意味を
解説して
おられます。わたしは、漢字の音形を たずね、音形を たよりに 漢語の意味を たしかめ、できれば
さらに
日本語音や 英語音との
対応関係も さぐりたいと 考えて います。これまでの ところ、予想以上に
テゴタエが
あります。
漢語 カ[果・菓・顆・夥]の 上古音kuar, huarなどは、日本語 ツチクレ[土塊]・イシコロ[石塊]などの クレ・コロと よく にて います。クダモノの
カラ[殻]の 中に 小粒の 果実がつまって いる 姿は、やがて 原野に コロコロ・ゴロゴロ、ツチクレ[土塊]・イシコロ[石塊]が コロがって
いる姿に
通じます。
上古漢語や 上代日本語の 時代 まで さかのぼれば、日本語・漢語とも かなり 共通の感覚で k-r音語を つかって いた こと が推定されます。
カラ[殻]からカラ[故]まで
小山さんは カ[果]と カ[課]の 関係に ついて、こう 解説して います。
「果」はクダモノ[果物]のこと…「果」をふくむ字には「ある部分にものが密集し、しかも区分がある状態を示す」ものが多い…
こんな理由から、「課」という字には一つ一つの項目に分かれているものの意味、その一つ一つの部分を責任もって引き受ける意味(があり)
「課税」は税を割り当て、取り立てること。「日課」は1日ごとに割り当ててする仕事です。
ここで いちど、字形中心の 見方から 音形中心の 見方に 切りかえて みましょう。字形中心の 見方では、字形[果]に 言ベンを つけた 字形が [課]なので、双方が [果]の基本義を 共有する と いう 論理に なります。これが 音形中心の 見方では、カkuar果と カk’uar課の 上古音は もともと 語頭子音が 無気音 と有気音の ちがい だけ ですから、[果]の基本義を 共有する のは 当然と いうことに なります。
漢語 カkuar果と カk’uar課の対応関係は、日本語の
カラ[殻]と カラ[故]の 対応関係とよく にて います。果実、たとえば ミカンの ばあい、それ自体
コロコロした カタマリ(k’uer塊) であり、表面を あつい カワ=カラ[殻]で
ツツミ(クルミ) こまれて います。いいかえれば、カラの 中に カラッポの 空間が できた カラ[故] こそ、そこで ミカンの身が コロコロ そだって きた わけです。日漢語 とも、k-r音が 原因と 結果を あらわすコトバに
なって
います。
クル・エグル姿、クルム姿
地面に ある スアナ[巣穴]を あらわす 漢語に カ窠k’uar>keが あります。字形から
見ても、木の上の
[巣]に たいして、「アナ[穴]の なかに [果](コロコロした もの)が ある」姿です。
すこし だけ 見方を 変えれば、カリカリ・ガリガリ、地面をクル・エグル姿。その 結果として、コロッと
丸い
姿の
スアナ[巣穴]が うまれる わけです。
クル・エグル
姿は、見方に
よっては
クルム姿にも 見えます。漢語 カkuar裹guo(つつむ)が その 例です。字形は、「コロコロ、コロガル実を コロモ[衣]で クルミ つつむ」姿。そういえば、日本語の
コロモ[衣]も 、コロ[塊]の モ[裳]、「カラダを クルクル、クルム、巻きつける」姿でした。
穀物を マスで はかり、等級を
つける
カk’uar科keは、「禾(イネ)+斗(マス)」の 会意文字。穀物を マスで はかり、等級を つける 姿。 マスで ハカル ことは、やがて 数量や 品質を クラベたり、等級を
つけたり
する
ことに
なります。クラシムキも クラスわけ
される
わけです。
病院の 内科・外科・耳鼻咽喉科 など と いう のも、診療内容を こまかく キリわける ことに よって、専門分野の 科 ごとに、より 高度の 治療が うけられる ための シクミです。
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