2014年9月2日火曜日

クサカ[日下]と クサカ[草香]

『古事記』解釈のキーワード①





『古事記』用語の 音韻感覚
夏休みが 終わり ました ので、こちらの ブログも 再開 いたします。

テーマと しては、このあと しばらく 『古事記』に 出てくる コトバに しぼって 考えてみる ことに します。

ブログ「いたち川散歩」で ご紹介した とおり、4月から 古事記を読む会」に 参加させて いただいて いる のですが、『古事記』を 読んで いると、おなじ ヤマトコトバとは いいながら、現代日本語とは かなり ちがった 音韻感覚 コトバが ゾロゾロ 出てきます。

たとえば、序文に 出てくる 人名 クサカ[日下] タラシ[]、上巻に 出てくる 神名イザナキ・イザナミ・ヤチホコ・スクナビコナ・アヂスキタカヒコネ、人名マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ・コノハナサクヤビメ など。どんな 意味が こめられた ナマエ なのか、国語辞典を しらべても まともな 解説が えられない コトバの 行列です。

しかし、地名・人名・神名など 固有名詞には、命名当時の 重要な 情報知識や 願いごとなどが こめられて いるは ずで、この点を おろそかに した まま では、まともに 『古事記』を よみつくす ことは できない でしょう。

そこで、このあと しばらく『古事記』 解釈の キー ワードと 考えられる ものを ひろって、その 音形と 意味の 関係を たしかめて みたいと 思います。

 

クサカ[日下・草香] タラシ[帯・足]
「古事記を 読む 会」では、すでに「序文」と 「上巻」を 読みおわって、「中巻」に さしかかって います。しかし、この ブログでは きょうが 初回 なので、まずは 「序文」に 出てくる クサカ[日下] タラシ[] 表記法の 問題に しぼって 考えて みます。

この 表記法に ついて、執筆者の オホノ ヤスマロ[太安萬侶] わざわざ こう 記しています。

ウヂ[]におきてニチゲ[日下]をクサカと謂ひ、名におきてタイ[]の字をタラシと謂ふ。かくの如き類は、本のまにまに改めず。

「本のまにまに改めず」と いう のは、「(現在は) [日下] [] 以外の 表記法が おこなわれて いるが、ここでは 当時の 表記法の ままに しておきました」と いう こと です。

そこで 念のため、『古事記』の 本文を たしかめて みます。たしかに「タラシ」の ナノリを もつ 天皇名が 4件、皇后名が 1 記録されて います。

第6代 孝安 オホヤマトタラシヒコクニオシビトノミコト[大倭帯日子國押人命]

12代 景行 オホタラシヒコオシロワケノスメラミコト[大帯日子淤斯呂和気天皇]

13代 成務 ワカタラシヒコノスメラミコト[若帯日子天皇]

14代 仲哀 タラシナカツヒコノスメラミコト[帯中()日子天皇

(仲哀の皇后) オキナガタラシヒメノミコト[息長帯日()賣命]

そして これらの タラシ[]が、『日本書紀』では タラシ[] 表記されて います。

「クサカ」に ついても、『記』では つぎのように 表記されて います。

オホクサカノキミ(ミコ)[大日下王] *仁徳の 子。安康に 殺される。

ワカクサカノキミ(ミコ)  [若日下王] *仁徳の 子。雄略と 結婚。次項と 同人。

ワカクサカベノミコ [若日下部王] *大日下王の 御名代として 大日下部が 定められ、若日下部王の 御名代として 大日下部が 定められた。

ワカクサカベノミコト [若日下部命] *前項と おなじ。

そして これらの クサカ[日下]が、『日本書紀』では クサカ[草香] 表記されて います。

 

歴史認識の ちがい
クサカ[日下] でも、クサカ[草香] でも、どちら でも よい では ないかと いわれる かも しれません。しかし「本のまにまに改めず」と した ところに、ヤスマロ[安萬侶] 言語観や 歴史観が 表明されて いると、わたしは 考えて います。

オホクサカノキミ(ミコ)[大日下王]は、安康や 雄略との 権力闘争に 敗れて、天皇に なりそこねた 大王です。クサカ[日下] とは、ク[] サカ[] あり、やがて ヒノモト[日下・日本] 通じる、ほこらしい ナノリです。雄略が 若日下部王を 皇后と した のもクサカ氏が もっていた 名声を とりこむ ための 策略です。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

『日本書紀』の ばあいは、[大日下王] [大草香皇子] 表記する ことに よって、クサカ[日下](=日本) イメージ から クサカ[草香] イメージへ 転換を はかったと 考えられます。クサカ[草香]は「草の香り」ですが、クサカ[草処] 解釈すれば、やがて「草葉のカゲ=墓場」の イメージです。ハカを 表わす 漢字 []太陽が 草の中に 沈んで 隠れる ことを 示す 会意文字)を 連想させる 用字法です。

 

『古事記』を 読む 姿勢
日本と いう 国は、いつ・どんな ふうにして うまれた のか?日本人・日本民族とは、いつ・どこから、どう やって 日本列島 まで たどりついた のか?國づくりの 過程で、だれ・どんな 勢力が どんな 役割を はたした のか?

そうした 好奇心に かられて、『古事記』や『日本書紀』や『萬葉集』などの 古典資料を読む ことに なります。ところが、資料と なる 作品は それぞれ ちがった 条件の もとで 作成された ため、同一の 事実に ついて まるで ちがった コトバで 記録される ことが あります。「クサカ[日下・草香] タラシ[帯・足]」も その 例です。資料 相互間の 微妙な ズレ(クイチガイ) とことん 追求する ことに よって、記録の かげに かくされている「歴史の真実」に たどりつく ことが できる わけです。

文献資料 だけで およばない 面に ついては、考古学の 資料に たよる ことに なるで しょう。

 

次回 予定は ヰヒカ[井氷鹿]
クサカに ついても タラシに ついても、まだ いろいろ 議論したい ことが ありますが、時間が タリ ません。上巻に 出てくる コトバは しばらく さておき、次回は さっそく中巻、「神武東征」に 出てくる コトバを おいかけます。
さしあたり、「シッポ[尻尾] はやした 人物=ヰヒカ[井氷鹿]」の ナゾを さぐる 予定です。

1 件のコメント:

  1. 姚伟嘉(樱美林大学孔子学院)2014年9月4日 16:52

    尊敬的泉先生,您好!我叫姚伟嘉,是一名来自中国的汉语教师,现在在东京樱美林大学孔子学院工作。 非常抱歉,我的日语阅读还可以,但无法写出漂亮的敬语。只好用中文给您留言。
    来日本工作以后,我一直在研究日本近代中国语教育。从您的blog“七ころび八おき”中了解了很多关于东京外国语学校在第二次世界大战中汉语教学的情况,非常感激!看了您其他的blog,了解了您的人生轨迹,更对您充满了敬意!如果可以的话,不知是否有幸能与您通信,我的邮箱是:yedda_83@163.com ,希望能得到您的回复。
    祝您身体健康,全家幸福!

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