ツク から スク へ

『古事記』解釈の キーワード⑬

 

 

「カード６４」t-k 

 

 

「カード６４」s-k  

 

 

 

画像に ついて

「カード６４」から t-k音とs-k音の ２枚を 引用しました。イラストは、切り絵 作家 梶川 之男 さんの 作品です。 

 

ツク 姿と スク 姿

前号で、「サク・シク・スク などの s-k音は、もと タク・チク・ツク などの t-k音と 同源で、その後 分離・独立した もの では ないか」と 提言しました。そこで、あらためてt-k音と s-k音の 関係を 考えて みる ことに します。

この 問題に 気づいた 直接の きっかけは、『古事記』を よんで いて「スキを 使って 田を スク」「イネ耕作に よる 列島改造」が 全編を 一貫する 基本テーマ だと 気づいた こと です。野山に 自生する 植物の 芽・葉・花・実 などを 採集して 食べる 生活に くらべれば、ツキボウ[突棒]で 地面に アナを あけ、イモや キビ などの タネを うめこむ 作業を する ことに よって、人々の 食生活が 改善され ました。その ツキボウが 木製のスキに かわり、さらに 金属製の スキに かわった という ことは、たしかに 社会に サキワイを もたらす もの でした。

ところで、ツクと スクは どんな 関係の コトバで しょうか？ツクは t-k音、スクはs-k音。つまり、語頭子音が t-か、s-かの ちがい です。どちらも 舌の サキを 上ハグキに ツキ当てて 発声しますが、t-は ハレツ音、s-は マサツ音と いう ちがいが あり、それだけ意味の ちがいを もたらす ことに なります。

ツキボウ[突棒]の ばあいは、地面と 垂直方向に ツキサス 姿に なりますが、スキで スクばあいは、地面と ナナメ方向に、平行して ハ[刃]を ツキサス 姿に なります。ちがうと いえば ちがいますが、ほとんど おなじ 姿 とも いえます。

 

t-k音と s-k音の交替関係

t-k音でも s-k音でも、同義 もしくは ごく 近い 意味用法の コトバを ひろって みます。

ダクダク：ザクザク＝（汗や 血が 盛んに 流れ出る）：(細かい ものが 盛んに 表われる)

チクチク：シクシク＝（ツリバリや トゲが ツキサス）：（波が シキリに おしよせる）

チャキチャキ：シャキシャキ＝（よどみなく ものを サキ切る）：（手早く 切りさばく）

ツク[突]：スク[鋤]＝（ツキサス。アナを あける）：（ツキサス。スキマを あける）

トク[解]：ソク[除]＝（固まった ものを トキホドク。トカス）：（とりのぞく＝ソグ［削］）

その他；

スクスクは、「マッスグ、ツキススム」姿。スギ[杉]は、「スクスク、マッスグ 育つ 木」。ツキ[槻]（キは 乙類カナ）は、「ツの 木」で、ツク とも 呼ばれ ました。この ツクは、動詞 ツク[突・附・搗・着]の 名詞用法と 解釈して よい でしょう。

タク[長・焼]と サク[裂・割・咲]と では、一見した ところ なんの 対応関係も なさそうですが、（ヤマト）タケル・(宴) タケナハ などの 語音を きくと、すぐに (血気) サカリ・(花) ザカリ などの 姿が 連想されて きます。ナゼでしょうか？

タク[長・焼]の 基本義は タ[手]ク[來]で、「胴体 から 手が ツキデル」姿。タケノコの タケ[丈]が スクスク のびる のも、タキギを タク（煙と して ツキダス）のも、さらには アセダク (汗が ツギツギ・ツキデル) なども、基本的には おなじ 姿です。

動詞 タクの 姿を もつ もの（名詞形）が タカ [鷹・竹・高]・タケ [竹・長・丈・岳]・タキ[滝]・タコ[蛸・凧] です。

サクの 基本義は サ[箭・矢] ク[來]で、「ヤジリ などの ハモノで サク」姿と 解釈 できます。タ・テ[手]が タクミな ワザを ツカイ分けた ように、サ[矢]や シ[石]も さまざまなものを サキ[裂・割] 分け(分析)、テ[手]の はたらきを たすけて きました。

t-kの2音節動詞ではタク・ツク・トク3種の 音形が 成立して いる だけ ですが、s-k音では サク[裂・割・咲]・シク[敷・布]・スク[鋤・透・梳・好]・セク[堰・咳・急]・ソク[退・除]、5種の 音形が すべて 成立して います。

また、サク ものが サカ[坂・酒・界・逆]・サケ[酒・裂]、サク ことが サキ[裂・先・咲・幸] などの ように、シキリに s-k音語が サキわかれ して ゆきます。

「枝も サカエル、葉も シゲル」姿は、やがて ゆたかな 生活を 保証する もの でした。サケ[酒]も、イネ・ムギ・キビ など 穀物の 細胞が サケル こと から 生まれた もの です。

 

ここまで、日本語の t-k音と s-k音の 関係に ついて 考えて きました。音形の 相違点・共通点が コトバの 意味の面 でも それなりに (時には みごとに、時には 微妙に) 反映して いる ことが 見えて きたと思います。

 

このあとの 宿題

漢語や 英語のt-k音やs-k音では どう なって いるか？すこし やりかけた ところ ですが、今回は まに あいません。このあとの 宿題に させて ください。

なお、この ブログで これまで 数回に わたって t-k音やs-k音の コトバを とりあげて います。できれば、あわせて ご参照 いただければ しあわせ です。

＜参考 ブログ記事＞

2012.9.30.　コノハナサクヤヒメ

2012.10.12.　スクナ神の 誕生

2012.10.23.　カスガと クサカ

2014.9.2.　クサカ[日下]と クサカ[草香]

2014.11.22.　w-k音、s-k音の 基本義

2015.1.18.　スキ・スク・スクネ