2014年9月28日日曜日

ハク[吐・掃][白・剥]からシロ[白]・silkまで 


『古事記』解釈のキーワード④

 
 

「カード64p-k
 
 
 
「カード64 s-r  
 
 
 
画像に ついて
「カード64」から p-ks-r 2点を 引用しました。イラストは、切り絵 作家 梶川 之男さんの 作品です。 

 

パクパク・パクル姿
日本語のpak- 擬声・擬態語と して、パカパカ・ハキハキ・バキバキ・パキパキ・パクパク・パクリ などが あります。こまかく いえば、それぞれ ちがった ニュアンスの コトバですが、基本的には「パクル姿」=「口を 大きく 開閉する 姿」を 表わす コトバと 考えて よい でしょう。語源的には「[刃‣歯]+ク[]」の 構造と 分析する ことが できます。

動詞 ハク・ハグ・ハカル・パクル 名詞 ハカ・ハケ・ハコ・ハカリ なども 同系の コトバでは ないかと 見当を つけ、このあと 具体的に 検証作業を すすめます。

ついでに、漢語や 英語のp-k音語との 関連も さぐって みます。

 

『古事記』に出てくるpak-音語
古事記』に 出て くる pak-音語は、動詞 ハク「吐・佩」・ハグ[]・ハカル[謀・議・量]、名詞 ハカ[]・ハカシ[]・ハカマ[]・ハカリコト[] など です。

広辞苑』には、動詞 ハク「吐・佩・掃・著・帯・履・穿・化・()」・ハグ[剥・禿・矧・接]・バク[]・ハガス・ハガツ・ハカドル・ハカナム・ハカル・ハカラフ・ハカル・ハガル・ハグル・パクル・ハゲマス・ハゲム・ハゲル・ハコブ などが 出て きます。

このこと から、どんな ことが いえる でしょうか?

Pak-音の コトバが、もともと 日本列島で 生まれた もの か、それとも 海外 から 伝来した もの か、それは まだ 断定できません。しかし、『古事記』や『萬葉集』の 中の pak-音語と 現代の 国語辞典の 中の pak-音語を 比較する だけ でも、pak-音語が 時代と ともに 成長・発達して きた ことが 推察できます。「必要は 発明の 母」。時代が すすみ、生産技術が 発達するに つれて、技術用語 でも、(同音の ままで)あらたな 意味用法が うまれたり、より 複雑な 音形のpak-音語 生まれたり したと 考えられます。

 

ハク「吐・佩・掃・著・帯」姿=ハグ[剥・禿・矧・接] 姿
パクパクを ふくめ、ハクは「ハ[刃‣歯]+ク[]」の  構造で、「パクリと パクル」姿。

ハク[吐・掃]は、いずれも 「口の 中や 床の 上に ある モノを ハギとり、外へ ハキ出す姿」です。

ハク「佩・著・帯」は、腰() あたりに 空間を つくり(ハグル[])、そこへ タチ[太刀] などを パクリ・パクル 姿。

ハク[穿・履]は、木・皮・衣料 などを ハグリ、できた 空間(キモノ・クツ)に カラダや足を イレル・ツツム・パクル 姿。

ハグ[剥・禿・矧・接] 姿は、基本的に ハク[吐・掃・佩・著・帯] 姿。ハグは、ハクの 交替音。たとえば、木の 皮を ハギ[] とれば ハゲ[禿] 姿。

ハグ[]は、竹に 羽を つけて 矢を つくる こと(=ハク[佩・著・帯])。

ハグ[]は、「つけ合わす。つぎ合わす」(=ハク[佩・著])姿。

紙面の つごうで、これ 以上の 解説は 省略させて いただき ますが、2音節 動詞 ハクがネッコに なって、さらに おおくの 動詞や 名詞 などが うまれ、pak 単語家族 組織されたと 考えられます。

 

ハク ものが、ハカ[墓・量]・ハケ[刷子]・ハコ[]
さきほど 指摘した とおり、「ハク­=ハ[刃‣歯]+ク[]」。また、ヤマトコトバの 組織原則に したがって、ハク もの ハカハク こと ハキ なります。また、ハケ・ハコ ハカ 交替形 解釈 できます。

ハカ[]は、ハコ・ハカマ などと 同系の コトバ。ハク[掃・著・佩] 作業 よって 死体を ハク[佩・著](収容する・パクル) ことが できる ように つくられた 装置。

ハカ[計・量]は、ハク・ハカル・ハカリ・ハケル などと 同系。ハク・ハケル[] (流通する) 分量。→ハカドル・ハカバカシ。

ハコ[]は、ハカ[] 語尾子音 交替。パクル もの。pack,  box 姿。フクロ[]は、bag 姿。

 

ハク[掃・剥] から ハク[白・迫・剥・伯] まで 
ここで、ヤマトコトバ ハク[掃・剥] 漢語 ハク[白・迫・剥]との 関係を 考えて みましょう。たとえば、ヨゴレ などを ハク・ハガス 姿は、日漢語とも ハクです。また、人間は 年を とると、クロカミ から 色素が ハギとられ、シラガ なります。どんぐりの実は 茶色ですが、その ハカマ 部分を ハギとると、そこだけ 色が て、白っぽくみえます。

漢語 ハク[]は、上古音 bak、現代音 bai, bo。この 字形に ついて、漢和字典の 解説をチェックして おきましょう。

どんぐり状の実を描いた象形文字で、下の部分は実の台座。下の部分は、その実。柏科の木の実のしろい中みを示す…(学研漢和大字典)

なお、ハク[]には、「しろ・しろい」「しらむ」 などの ほか、「もうす[]」の 意味用法が あり、「敬白・告白・自白・白状」などと いいます。日本語で「ドロを ハク(自白・告白) などと いう のと おなじ 感覚です ね。

ハク[] ついっては、辞典に「辵+音符白の 形声文字で、ぴたりと ひっつく こと。白の 原義(しろい)とは 関係が ない」と 解説されて います。しかし、ハク[] 字形を「どんぐりの 実が ハカマを ハク 姿」と 解釈すれば、日本語の ハク[吐・掃・剥] から 漢語の ハク[白・剥・迫] まで、すべて「[刃‣歯]+ク[]」の 姿を 共有して いる ことは 事実です。

ハク[]は、上古音pluk、現代音bao, bo。モノの 表面が ポロポロ ハゲ落ちる さま。また 動物の 表皮を ハギとる さま。

ハク[] ついても、「人+音符白の 形声文字で、しろいの 意とは 関係が ない」と 解説されて います。「昔、父と 同輩の 年長の 男を パと いい、それに 当てた字」との こと。それに しても、どうして ハクや パの 語音 つかわれた ので しょうか?わたしは、日本語・漢語とも ハクに「吐く・掃く・佩く・剥ぐ」姿が 見られる ように、ハク[] ついても「どんぐりの 実が(ハゲ茶色の)ハカマを ハク」姿を 認めて よいと 考えています。どんぐりの 実は、いまでも 天然の 食料資源 あり、日本語 キミ[君・公] なども、食料 キミ[] 姿 からの 連想かと 推定されます。

つまり、ハク[] : ハク[] ­ キミ[] : キミ[君・公] いう わけ です。

 

ウシハク[] 人が ハク[] か?
おなじ ハクでも 正体を つかみにくい ハクに ウシハク[] あります。『古事記』でも上巻「大国主神の 国譲り」の くだりに「汝が ウシハケル 葦原の 中つ国は、我が 御子の 知らさむ 国…」という 用例が 見られます。文脈 から「ウシ=ヌシ[]」、「ハク=[]」と 判断し、「ヌシ[]として 土地を 領有する」と 解釈されて いる よう です。

また、スサノヲ命が「天の フチコマ[斑馬] サカハギ ハギて…」という 記述も あります。牛や 馬を 飼い、その 皮を ハギとり、着物や ハキモノ[履物] 利用して いた 人たちが いた ことも 考えられます。「牛の 皮を ハク[剥・佩・穿・履]」の 姿 から、同音の ハク[] 連想した 可能性も ない とは いえません。

萬葉集』では、カナ書きの ほかに ウシハキ[牛吐]ウシハキ[牛掃] などと 表記した 例も あります。

 

ハク[白・剥]  から シル[知・汁]・シロ[白・城]  まで
ここまで、日本語と 漢語の ハクpak- しぼって 考えて きましたが、日本語の pak-音は「ハク・ハガス・ハゲル」姿を 表わすに とどまり、白色を 表わす には、まったく別の 語音で シロ いわなければ なりません。その 点、漢語では、もともと「ハク・ハガス・ハゲル」姿を 表わす ハク[] そのまま 色彩を 表わす 語音と なって います(「白砂・白紙・白髪」など)。

p-k ハク[吐・掃・佩] ハク[白・剥] s-r シロ[] では、音韻面からの つながりが ありません。日本語の シロ[]は、動詞 シル[]・スル[] 名詞 シル[]・シロ[城・代] などと 同系 コトバと 考える ほうが 分かりやすい です。たとえば、大根の 味を シル[] には、大根を スリ[] おろして、その シル[] 飲んで みる こと です。

「袖スリ[] あうも、多生の 縁」。道を 行く とき、スレスレ なったり、たがいに 手と 手を スリあわせたり(握手 )する こと から、やがて シリアイ 関係に なったり するわけ です。

また、腰の 左右の 筋肉が スリあう・シリあう ところが、シリ[]シリ[] おろして、その あたりを シル[知・領] ことに なる、その 場所が シロ[城・代] です。

動詞 シル[知・領] 名詞 シロ[] との 関係は、漢語で 動詞 ハク[] 名詞ハク[]との 関係と そっくり です。「どんぐりの 実の 色」・「その ハカマの 色」・「ハカマを ハガした 部分の 色」を ひきくらべる こと から、「ハク[](ハゲた色)」が 生まれた ように、「スリ[] 減る」・「シル[知・痴(ぼける)]」姿 から、シロ[]という 意味用法が 生まれたと 考えられます。

 

シル[知・汁]・シロ[白・城] からsilk, silver まで
このように 見て くると、シロ[] ハク[]は、おなじ ひとつの コトを sir-音と pak- という 別系統の 語音で いい分けた もの です。

シル[知・汁]・シロ[白・城] 同系と 考えられる コトバを いくつか あげて みます。]

シラ[] 動詞シル[知・痴]の名詞形。スリへリ、ボケル姿。          シロ[]は、その交替形。

シラカ[白髪] シロ[] なった 髪。

シラギ[新羅] 鉱石をシラグ[](他下二)技術をもつ国の意。→シラキヲノ[新羅斧]

シラク[白斑](自下二) 白くなる。しらける。

シラグ[] (他下二) 白くする。精製する。むちうつ。

シラス[知・令知] (他下二)  知らせる。教える。

シラヌヒ[白縫] 枕詞。ツクシ[筑紫] かかるが、未詳。*「シラ[] [] ツク[]」とする 説が 注目されて いる よう ですが、「白い (シラギ[新羅]製の) [](針)で ツク[]」と 解釈する ほうが すっきり するかと 思います。

シラヒゲ[白髭] 白い ヒゲ。*ヒゲは、クイ[]・ピケット 姿。

シラヒゲ明神 猿田彦神 いい、また、新羅の いう。*鉱物の 採掘 精錬 かかわる か?

シルス[] (他四) 書きつける。*スル・シル、シル[]をスリつける姿。

シルシ[験・印] 動詞 シルス[] 名詞形。

シルシ[知・灼]() 著しい。*シル→シルス→シルシ→イチシルシ。

シロカネ[] 白金の 意。シロガネ とも。

シロシメス[所知食] シロス[] 尊敬語。シラシメス とも。

さて、シラス[知・令知]・シラグ[] ・シラギ[新羅] まで たずねて きましたが、ここまで くると、英語のsilk, silver salt, salad など との 関係も 気に なって きます。Silk(), silver() salt(), salad(サラダ) などは、たしかに シロ[]・シラグ[] イメージ もって いて、わたしも 今回の ブログで 「シロ[] silkとの 関係」を つきとめたいと 考えて いました。しかし いざと なると、英語では s-r音語と s-l音語を ひととおり チェックし、その 基本義 さぐる 作業が 必要で、とても この ブログでは 間にあい ません。
またしても 申しわけ ありませんが、つぎの 機会に まわさせて いただきます。