…k-n音の漢語①…
「漢字物語」253イラスト
山ほど ある k-n音 漢語
前回 見てきた とおり、日本語の k-n2 音節 動詞は カヌ[兼]と カヌ[不勝] だけ です。しかも、ともに 下二段活用で、もとは 1語かと おもわれる ほど です。キヌ・クヌ・ケヌ・コヌ
などと
いう
動詞は
成立して
いません。
これに くらべて、漢語では k-n単音節 動詞が カン[干・刊・敢・勘・甘・感・串・貫・観・巻・官・管・缶・冠・完]・キン[近・欽・緊・欣・勤・謹・均・禁]・クン[訓・薫・軍・群]・ケン[研・懸・建・見・検・顕・遣・検・験・牽・献・現・兼・謙]・コン[昏・婚・墾・困・恨‣跟] など、ちょっと 数えきれない ほど あります。
ひとくちに「k-n音 日本語との 比較」と いっても、日本語
カヌ[兼]と
音韻的に 対応する漢語が あるか どうか、どこから
手を
つければ
よいか、見当が
つき
カネ
ます。
さしあたり、なるべく 単純明快と おもわれる 用語 から はじめる ことに します。おなじk-n音語 でも、カン「甘・感」・キン[禁]・ケン[兼・謙] などは もと k-m音語と されて いて、話が ややこしく なります。これは、あとまわしに
しましょう。また、いまの日本漢字音
カンの
中には、kan[干・刊・敢・勘] だけ でなく、kuan[串・貫・観・巻・関・官・管・缶・冠・完] なども ふくまれて います。これも あとまわし。
ここでは まず、日本語 カヌ[兼]の 音形に もっとも 近いと おもわれる 漢語 カン[干・刊・敢・勘] あたり から 比較作業を はじめ ましょう。
Kan[干] グループの 漢字
さて、漢語 カン[干・刊・敢・勘]と 日本語カヌ[兼]との あいだに、なにか
共通基本義がみつかる
でしょうか?一見した
ところ、意味の
うえでは、なんの
関係も
なさそう
です。しかし、はじめから
アキラメル
わけには
ゆきません。
さいわい、「漢字物語253.刊の字編」で、小山鉄郎さんが カン[干・刊・竿・幹・肝]に ついて 解説して おられます。はまむらゆうさんの イラストと あわせて、小山さんの 解説要旨を ご紹介させて いただきます。
「干」は武器の一つで長方形の楯の形です。元の意味は「ふせぐ」でしたが、うまくふせぐ武器ということから「おかす、みだす」の意味もできました。「干渉」という言葉もあります。「ホス[干]」の意味は「カン[乾]」と音が同じなので、できた意味です。
カン「刊」は、木をおかし、削る意味。版木を刀で削り、印刷するのがカン「刊」です。
カン「干」は楯で、真っすぐ立つものの意味。その意味をふくむのがカン[竿]。
カン[幹]のカン[干]も竿の意味で、旗竿の根幹のこと。
カン[肝]は、カン[干](ホコ・タテ)のように強い臓器。
カン[汗]は、身体(身幹)から出る水分のこと。
カン「干」グループの
音形
小山さんの 解説で、カン「干」グループの 漢字 カン[干・刊・竿・幹・肝]が 成立した 経過が わかって きたと おもいます。ただし、それは 漢字という 表意文字の
世界の はなしです。
ここでは、もう 一歩 ふみこんで、そのような コトガラ(概念)を どうして カンkanという 音形で あらわす ことに なったのか という 問題に ついて 考えてみます。
そこで まず、カン「干」グループの 音形を たしかめておきましょう(日本漢字音・上古漢語音・漢字・現代漢語音の 順)。
カンkan干gan// k’an刊kan// kan竿gan// kan幹gan// kan肝gan//
ごらんの とおり、字形の 面では すべて [干]を 共有し、音形の 面では すべてkan (gan)と なって います。きわめて
単純明快な
姿です。
ただ、もうすこし くわしく 見ると、[干]の 古代文字の 頭部は ただの [一]では なく、V, U字形 だった ことが 分かります。U字形の ホコと いえば、現代でも アルミ製の サスマタ[刺又] という 武器が つかわれて います。あれと そっくり ですね。
カン[干]の 意味用法
念のため、漢語 カン[干]の 意味用法を たしかめて おきます(『学研・漢和大字典』による)。
①
ほす。かわかす。カン[乾]に当てた用法。→干物。
②
ひる。かわいて水気がなくなる。→干潮。
③
ほこ。武器にするこん棒。また、敵を突くための柄つきの武器。→杆(たて)。
④
たて。敵から身を守るたて(盾)。→干戈。
⑤
おかす。障害を越えて突き進む。→干犯。
⑥
もとめる。むりをして手にいれようとする。→干禄
⑦
かかわる。他者の領域にまではいりこむ。→干渉。
⑧
まもる。→干城。
⑨
その他…→欄干(手すりの棒)・十干(えと。干は、幹の意)など。
kan音の 基本義
たった 1語の カン[干]に、これだけ おおくの 意味用法が ある とは、ちょっと おどろきですが、どうして こう なるのか、じっくり
考えて
みましょう。
日漢英を とわず、いっぱんに kanという 音形で、どんな 「事物の姿」を 表わす ことが できる でしょうか?イズミ仮説に
したがえば、語音
kanが 表わす ことが できる 基本義は 音素 k, a, nが もつ 基本義の
総合 であり、その 範囲を こえる ことは できません。
また、漢語や 英語では kan だけで 単音節語を つくりますが、日本語では
子音
どまりの
音節は
成立
しません。語尾に
かならず
母音が
つく
ので、カナ・カニ・カヌ・カネの
ような
2音節語と
なります。
kanと いう 音形構造を どう とらえるかに よっても、意味用法が 変化します。「kaの n」、「kの an」、「kaが anする」、「kが anする」など、さままざまな 構造タイプが 考えられます。たとえば、日本語の
動詞
カヌ[兼]は、「kaがnする」姿。名詞カナ[金]・カネ[金・鐘]は、①「kaのna(ne)(ナリモノ)」、②「動詞カヌの名詞形」。いずれにしても、「カネと撞木とのカネアイでネ[音]がナル[生・成・鳴]」という原理です。
漢語kan干の基本義
この 原理をkan干 グループの 漢語に 適用して みたら どう なる でしょうか?
カン[干]は、もと 木や 竹の ミキ[幹]の 姿。農作業用具 でも あり、防御用と 攻撃用を カネた武器 でも あります。
そして、この カン[干]を どんな 場面で、どんな ふうに つかうか、その カネアイで、どんな
結果に
ナルかが
きまります。農作業
などで
ふりまわす
サオと
しては、カン[竿]。ホコ・タテ など 武器と して つかわれた こと から、カンカ[干戈] ・カンショウ[干渉]・カンパン[干犯] などの 用法が うまれました。
カン[干]が カン[乾]に 通じる と いう のは、ナゼ でしょう か?これ には、日本語 カ[日](フツカ・ミッカ・トオカ)の 意味用法が 参考に なります。「kaが nする」=「日光が ヌ・ナル」→[水分が なく なる]=kan[乾] と いう ことに なります。
カン[幹] = カナメ
カン[幹]は、樹木の ミキ。枝や 葉や 根を 生みだす 基本部分。やがて 花を さかせ、実を むすばせ、種族繁栄の 望みを カナエさせる。生命体の カナメ
です。
カン[肝]は、カンゾウ[臓臓]の こと。「肝腎 (心) カナメ」と いわれる とおり、腎 心)臓と ならんで 生命活動の カナメの 役割を はたして います。
カン[関]も カナメ
ここ まで きたら、「アトマワシ」に して おいた カン(クヮン) kuan関guan なども 共通感覚の コトバと 考えて よさそう です。セキショ[関所]も、カンセツ[関節]も、「カネテA・B双方と 関係し、双方の 要求が カナウ
よう カネアイを はかる」姿 であり、まさしく
カナメの 役割です。…またしても 時間 切れ。次回も、k-n音 漢語を とりあげます。
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