…k-n音の日本語②…
カヌ[兼]と カヌ[不勝・不得]との ムジュン
前回 k-n音 日本語を とりあげた なかで、 k-n音の 基本義が しだいに わかって きました。しかし、基本的な 問題で まだ ワカラズジマイの ままに なって いる ことが あります。2音節 動詞 カヌ[兼](下二)と カヌ[不勝・不得](下二) との ムジュン関係を どう解釈するか という 問題です。
まったく おなじ 音形・活用形で あり ながら、一方は「二つの ものを 一つに あわせる」姿 であり、一方は「~するに
たえない。ガマン
できない」姿と
されて
います。同一の時代(上代)、同一の 地域社会(ヤマト地方)で、プラスと マイナス 正反対の ことを、同一の 語音 カヌkanuで あらわして います。「見のがし
カネル」問題だと おもいます。
今回は、まず「k-n音 基本義の2面性」の 問題に ついて 考えて みる ことに します。
n-音 基本義の2面性
カヌ[兼](下二)と カヌ[不勝・不得](下二)との ムジュン 関係は、どこ から きた のでしょうか?
イズミ仮説 では、「コトバの 意味は、その コトバを 構成する
音節の 意味の
連合」 です。したがって、カヌの 基本義は「カkaの 基本義」と「ヌnuの 基本義」との 連合という ことに なります。ただ、カヌ[兼]と カヌ[不勝]の ばあい、ムジュンする
基本義を
生みだした
おもな
原因は、ka音 ではなく、nu音に あると 考えられます。いいかえれば、もともとn-子音の 基本義に2面性が あり、それが ヌnuや カヌkanuなどに もちこまれた という こと です。
n-子音の
調音方法と 基本義
ここで、n-子音の 調音方法と 基本義との 関係を おさらいして おきましょう。
調音方法…①舌の先で イキの
流れを 止める。②イキの 流れが 鼻に
ヌケ、鼻腔をナラシながら 発声する。
基本義…調音方法① から「ナ[勿・莫]・ナシ[無]。No, not」の 基本義が 生まれ、② から「ナル・ニル・ヌル・ネル・ノル」などの 基本義が 生まれる。
単音節語…ナ[勿・莫]・ナ[菜・名] (ナル もの)・ニ[荷・土・丹]
(ナル・ノル もの)・ヌ[寝・去] (ヌケル・ノビル 姿)・ネ[音・鳴・根・嶺・寝](ナの 母音交替)・ノ[野・箭・笶] など。
2音節語…ナシ[無]・ナル[成・鳴・生・為・狎]・ニル[似・煮]・ヌル[塗]・ネル[寝・練]・ノル[乗・宣・罵] など。
k-n音と k-m音との 関係
カヌ[兼](下二)と カヌ[不勝・不得](下二)との ムジュン関係に ついては、「n-子音の 基本義 そのものに 2面性が ある」という ことで、いちおう ナットクできる ところ まで きました。そこで、もう ひとつ 気に かかる 問題が あります。それは、カヌkanuと カムkamu などの 語音を めぐって、そこに n-とm-の 子音交替 関係が 考えられ ないか という 問題です
カヌ[兼]と カム[噛]の ばあい、音形の 面でも 意味用法の 面 でも、いちおう はっきりと 区別が ついて いて、それ 自体 なんの 問題も ありません。しかし、k-n音 から k-m音へと 変化した と される コトバが ある ことも 事実です。
たとえば、現代語で キツネの 鳴き声は コンコン
ですが、上代語では
コム[來許武]と 表記されて いた ようです。また、童謡「雪や
こんこ」に ついても、もともと「雪や コムコム[来来]」(雪よ、降れ降れ)の 意味だ と されて います。
ついでに いえば、上代語 m-音 から 現代語n-音に 変化した もの として、ミナ[蜷]→ニナ、ミラ[韮] →ニラ などが あります。
k-m音のコトバ
ここで k-m音語に ついて つっこんだ 話を する よゆうは ありませんが、k-n音との 関連で、基本的な こと だけ チェックして おきましょう。
ヤマトコトバの k-m 2音節語には、動詞 カム[噛・醸]・キム[決・極]・クム[組・汲・酌]・コム[子産・混・籠・込]や 名詞 カマ[鎌・窯・釜・蒲]・カミ[髪・上・噛・神・紙]・カメ[亀・瓶]・カモ[鴨]・キミ[君・公・黍]・キメ[決・木目]・キモ[肝]・クマ[隈・熊]・クミ[組・汲]・クメ[久米]・クモ[雲・蜘蛛]・コマ[駒・高麗・独楽]・コメ[米]・コモ[菰・薦] などが あります、
いちがいには いえませんが、動詞を 中心に 名詞 そのほかの 品詞語が 派生し、おおきな
単語家族を 形成して いると 考えられます。たとえば;
カム(カミつく) ものが カマ[鎌・窯・釜・蒲]・カミ[髪・上・噛・紙]・カメ[亀・瓶]。
カミつかれる姿がカミ[神]。
クネクネ、イリクム[入組] 地形が クマ[隈]。そこに スミコム[住込] 動物が クマ[熊] など。
m-子音の
調音方法と 基本義
ここまで きた ついでに、m-子音の 調音方法と 基本義との 関係に ついても チェックして おきましょう。
調音方法…①いったん クチビルを とじ、クチの 中に
イキを ウメ[埋]コム(ためこむ)。②その イキをクチビル から
モラス[漏] 姿で 発声する。
基本義…調音方法①
から、ウム・ウメル[埋]の 基本義が 生まれ、② から、ウム[生・産]・ウマレル・モル・モレル・モラス などの 基本義が 生まれる。プラスの イメージと マイナスの イメージと 2面性を
もつ 点で、n-音
と よく
にている。
クネル姿、トリクム姿
ここまで 見て きた ところ、子音 n-とm-には 一定の 共通感覚が あり、それが k-n音語とk-m音語との 対応関係を もたらして いる のではと 考えられます。たとえば;
カネル 姿は、二つの ものを カミあわせる・クミあわせる 姿。
カネ[鐘]が「(撞木を カミこんで)ネ[音]を ナラス[成・鳴] 姿は、カメ[瓶]が「(穀物を カミこんで) 酒を カモシだす」姿に 通じます。
A・B・Ⅽの 地区が クネクネ クネリ あって クニ[国]づくりする 姿は、男と 女が カネアウ[兼合]・クナガウ[婚合](つながる)姿と おなじ。つまり、カミアウ[噛合]・クミアウ[組合] 姿です。
刈りとった キミ[黍]を おしい 食品に しあげられるか どうか?そえは、ウス[臼]と キネ[杵]の カネアイ・カミアワセ・クミアワセで キマル ことに なります。
キヌ[絹]と ケン[絹]、カナウ[叶]と can など
ここまで、日本語 k-n音の 基本義に ついて 考えて きました。
ただし、日本語という ワクの 中で 考えて きた だけ なので、もし 漢語・英語 などのk-n音 まで ワクを ひろげて 比較し 議論する ことが できれば、もっと
おおくの
おもしろい
ことが
発見できる
だろうと
おもいます。
さしあたり 思いつく のは、日本語音 キヌ[絹] kinuと 漢語音 ケン[絹]、あるいは 日本語音 カナウ[叶] kanauと 英語音
can など です。
どこまで 追求できるか 分かりませんが、次回は k-n音 漢語を とりあげる 予定です。
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