「漢字物語」135, イラスト
ホ[甫]系、ハク[博]系の 漢字
これまで 2回に わたって p-k音 漢字を とりあげ、そこに
共通して「フックラ・フクラム・フクム」姿が
見られる
ことを
たしかめました。いいかえれば、日本語の
p-k音も 漢語の p-k音も 共通の 音韻感覚を もって いる と いう こと です。
しかし、p-k音の 漢字は ほかにも まだ たくさん あります。「フクラム・フクム」姿とはちがった 姿を あらわす p-k音 漢字が ある かも しれません。もっと
しらべて
みましょう。
きょう とりあげる のは、北日本新聞 連載、小山鉄郎編「漢字物語」134、ホ[補]の字編、および135、ハク[博]の字編の 漢字です。
はじめに まず、はまむらゆうさんの イラストを ごらん いただき ながら、小山さんの 解説を 要約して ご紹介します。そのうえで
あらためて、音韻の
面
から、わたしの
解釈を
のべさせて
いただきます。
衣服の ほつれを 補修する(補の字
編)
ホ[甫]は、苗木の 根の
ところを 包んで いる
形。根を 包んで 植樹を
して いる文字。そこ
から、ホ[甫]を
ふくむ 字には「中に
ものを 包みこむ」や「たすける」の 意味を
もつ ことに
なった。たとえば、ホ[圃](草木を 植える 所)、ホ[補](衣服の ほつれを包みこむ ようにして 補修する)、ホ[輔](車に 添え木を
つけて、動きを たすける)、ホ[浦](丸く 入れこむ ような 地形)、 ホ[捕](捕えて しばる) など。
政令など 広く 及ぼす
(博の字 編)
ハク[博]の 右の元の
形は、「甫+寸」。苗木を
手に 持ち、植樹する
姿。古代中国では 王が
諸侯に 土地を
分け あたえ、各地で
ヤシロ[社]に 木を
植える 儀式を
した こと
から、「しく」「あまねし」「ひろい」の 意味用法が 生まれた。たとえば ハク[博]は、「平らに ひろがる」こと。バク[縛]は、木の 根を
糸で 縛る こと。やがて、人を 縛る
こと。フ[敷]は、木を 植えこむ
ときに、土を うち固める
こと。また 政令
などを 敷く こと。ハク[薄]は、うすく 平らな 姿。ボ[簿]は、うすい 竹の 札
(→帳簿)。
ホ[補]・ハク[博]グループの 漢字音
小山鉄郎さんの 解説と はまむらゆうさんの イラストの おかげで、ホ[補]・ハク[博]グループの 漢字が 成立し、発達して きた 経過が ほぼ わかって きたと 思います。ただ、「白川静文字学」では、表意文字
として
漢字の
字形 研究が 第一 です から、漢字の 発音に かんしては ほとんど 議論 されません。しかし、日本語と
漢語との
対応関係を
考えようと
すれば、やはり
両方の
コトバの
音形に ついても、いちおう たしかめて かからねば なりません。
そこで、きょう とりあげる p-k音 漢字の 語音を たしかめて おきましょう。日本漢字音・上古音・漢字・現代音の
順に
しるします。
「漢字物語」134, ホ[補]の字編。
フ・ホpiuag甫fu// pag補bu// p’ag浦pu// ブ・ホbag捕bu// ブ・フ・ホbiuag輔fu//
「漢字物語」135、ハク[博]の字編。
ハクpak博bo// バクbiuak縛fu// フp’iuag敷fu// ボbag簿bu4//
ごらんの とおり、上古音の 語頭子音は すべて p- またはb-、語尾子音は すべて –k または -gです。また、現代音の 語頭子音は p-, b-, または f- ですが、もとの 語尾子音 -k, -gは すべて
脱落して、開口音(母音 どまり)に 変化して います。
単純化の法則(pak→bo)
上古音には あった 語尾子音が 現代音に なる 途中で 脱落した のは ナゼ でしょうか?いろいろな 原因が 考えられ ますが、それだけ 単純化しても なんとか 意味が 通じた から でしょう。ひとつには、漢語は
日本語
などと
ちがって、音節と
つぎの
音節との
あいだに
トギレを
おいて
発音されます。たとえば、日本語では カンオン[観音]を カンノンと 発音しますが、漢語 では 観guan-と 音-yinが 別々に 発音され、-nin や -nonと 発音される ことは ありません。pak博boの ばあい、語尾母音
-oや 語尾の トギレに、もとの 語尾子音 -kの 感覚が こめられて いると 見ても よい かも しれません。
コトバは、おたがいに 意思を 通じあう ための 道具 です。誤解を まねかない ように、不公平に ならない ように、正確さが 必要です。その 半面、おぜいの 人たちが 朝から 晩まで 使う 道具 なので、なるべく
簡単で 便利な ことも 必要です。上古漢語の
時代にp-k音 など 比較的 複雑な 音節構造が うまれた のは、それだけ 正確さが もとめられたから でしょう。また、そのあと
音節語尾
子音の
-k, -gが いっせいに 脱落した のは、CVC型の 語尾子音が 省略されても なんとか 意味が 通じる ことが おおく、正確さ よりも 便利さが もとめられた から でしょう。また、この種 CVC型 から CV型への 変化は、p-k音 タイプの 音節 だけでは ありません。音節語尾が -n, -ng 以外の
音節が すべて いっせいに
変化して います。これも、おなじ タイプの 音節(たとえばp-k)の なかで、CV型へ 変化する ものと 変化しない ものが 混在する ような ことに なれば、語彙組織全体が
混乱して 使いものに ならなく なる から です。
フクム姿は、パクル姿
さて、ここまで p-k音 漢語 [pog包bao]、[piuek福fu]、[piuag甫fu]、[biuak博bo] などの 字形や 音形を とりあげ、その 意味(事物の姿)との 関係を 考えて きました。
コトバと いう コトバを どう 定義するか、いろいろ 分かれるかと 思いますが、現実には 音声言語と モジ言語が あります。わたし 自身は 音声言語を 中心に すえ、モジは コトバを 記録する 道具だ と 考えて います。その点で、白川さんや 小平さん と すこしちがって います。しかし、音声言語の
研究の
ため
にも、漢字の
字形研究は
もちろん必要です。
これまでの ところ、ホウ[包] グループの 漢字の 基本義は「ツツム・フクム」姿、フク[福]グループは「フックラ、フクラム」姿と 定義して みました。それでは、きょう とりあげた ホ[甫]・ハク[博]グループの 共通基本義は どう まとめたら よい でしょうか?
小平さんが 指摘された とおり、「ホ[甫]は、苗木の 根の ところを 包んで いる 形」、「ハク[博]の 右の 元の 形は、「甫+寸」(苗木を 手に 持ち、植樹する 姿)」。いずれも「ツツム・フクム」姿が 基本義と いう ことに なります。
ツツム 姿は、フクム 姿。すこし だけ 視点を 変えれば、フックラ・フクラム姿。あるいは、パクパク、パクル姿と いっても よい かも しれません。
どの 民族言語 でも、コトバとは このような もの かと 考える のですが、いかがでしょうか?
シツコイと いわれる かも しれませんが、もう 1回だけ p-k音 漢語を とりあげ させていただき、その あと p-k音英語を とりあげる 予定です。
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