…p-k音の漢語④…
「漢字物語」176, イラスト
「漢字物語」215, イラスト
ボウ[暴]・ヒョウ[標]グループの漢字
これまで 3回に わたって p-k音漢字を とりあげて きました。てもとに ある 「漢字物語」 スクラップの 中に、この ブログで まだ とりあげて いない p-k音漢字が あるので、それを
ご紹介する
ことで、いちおうの
まとめに
したいと
思います。
きょう とりあげる のは、「漢字物語」176「暴の字編」と 215「標の字編」の 漢字です。
それでは、まず 小山鉄郎さんの 解説を 要約して ご紹介します。
「太陽に
さらされた
死がい」(暴の字編)
「被爆」と「被曝」は、どこが どう ちがうか? 爆弾の
被害者が「被爆者」で、放射能に さらされた 被害者が「被曝者」。基本に
なる字は ボウ[暴]。獣の 死がいが 太陽に
さらされて いる
姿。そこから「さらす[曝]」や「あらい[暴]」の 意味用法が
生まれた。
バク[曝]は、日光(放射能)に さらす姿。
バク[爆]は、火力で 爆発する
姿 (爆竹など)。
バク[瀑]は、「あらく、はげしく」水が
流れ落ちる 姿。
高く
伸びて
揺れる
梢(標の字編)
ヒョウ[票]の 字形は、もともと
人の 死体を
火葬に する
時、火の 勢いで
体が 浮きあがり、飛びうごく 姿。そこから「軽く 高く 浮いて 動く」の
意味用法が 生まれた。
ヒョウ[標]は、木の 梢が
高く 伸びて
揺れて いる
さま。そこから「しるし、しめす、はしら」などの 意味が 生まれた(標識・標柱・標示
など)。
ヒョウ[漂]は、水面に
浮かび 動く こと。ただよう 姿。
ヒョウ[飄]は、軽く 高く 動く つむじ風の こと。
ボウ[暴]も ヒョウ[票]も、もとは p-k音語
小山さんは「白川静文字学」の 立場 から 漢字の 字形を しらべ、分類して おられる ので、「暴の字編」(第176回)と「標の字編」(第215回)とは まったく 別々の グループと して 分類して います。しかし わたしは、モジ では なく コトバ(音声言語)の 実態を とらえ、比較する
立場
から、「暴の字編」と「標の字編」、さらには さきに とりあげた「包の字編」や「福の字編」も いっしょに、「p-k音語」として 分類すべき だと 考えて います。もちろん 個別の チガイは ありますが、もともと
大同の
中の
小異
であり、おなじ
p-k音語の なかの バリエーションと 見ています。
前回も 指摘した とおり、ホウ[包]・フク[福]・ホ[浦] など には 共通して「フクム」、「フックラ、フクラム」、「パクリ、くわえる」姿を 見る ことが できます。ホ[捕]・バク[縛]などは、「警官が
犯人を
パクル」姿 そのもの です。
パクパク
する
のは、口に
くわえる
とき
だけ
では
ありません。口から
ハキだす ときも あります。バク[曝・爆]は、「光線・熱線を うけて、死がいが パクパク、ハキダス、フキダス」姿。ヒョウ[標・漂]は、風や 波に パクラレ、フキとばされ、ヒョコヒョコ ウゴキまわる コズエ[梢]・小船の 姿。そんな ふうに 解釈する ことも できます。
p-k音 漢字の 身元 しらべ
「ボウ[暴]も ヒョウ[票]も、もとは p-k音語」と いいましたが、それは
「上古漢語
まで
さかのぼれば」と
いう
意味です。つまり、もと
バク・ボクの ような CVC型 だった ものが、語尾子音- k, -gが 脱落して 母音化した ために、 ボウ・ ヒョウの ような CV型(母音終り)に 変化したと推定されているからです。日本漢字音 ボウ・ ヒョウ などは、 そのような音韻変化の歴史の
証言でも
あります。
日本語と 漢語の 音韻を 比較する には、現代音 だけ 見て いても 精密な 議論に なりません。このあと できるだけ 精密な 議論が できる ように、いま 問題に して いる 漢字の 発音を チェックして おきましょう(日本漢字音・上古漢語音・漢字・現代漢語音の
順に
しるす)。
「暴の字 編」
ボウ・バクbog, buok暴bao, pu// バクbuok曝bao, pu// バク・ホウpok, pog爆bao, // バク・ボウbuk瀑bao, pu//
「標の字 編」
ヒョウp’iog票piao// piog標biao// p’iog漂piao// p’iog飄piao//
ごらんの とおり、漢字の ヨミ(発音)は 時代と ともに 変化して きましたし、中には 1字で 2とおりの ヨミを もつ もの も あります。たとえば
ボウ・バク [暴]の ばあい、上古音 bogが 日本漢字音 ボウや 現代漢語音baoに つながり、上古音buokが 日本漢字音 バクに つながったと 考えられます。
日本漢字音との 対応関係に しぼって いえば、上古音で 語尾子音が -kの ばあいは、日本漢字音でも
そのまま
-k子音を のこして バクの ように なりますが、上古音
語尾子音が -gの ばあいは、日本漢字音は -g子音が 脱落して ボウの ように なります。
ハゲシク、フキデル、アバク姿
小山さんんは ボウ[暴]に ついて「獣の 死がいが 太陽に さらされて
いる
姿…そこから「さらす[曝]」、『あらい[暴]』、『はげしい[激] などの 意味が 生まれた」と 解説しています。わたしは、p-k音の 漢語は できるだけ p-k音の ヤマトコトバで あらわして みたいと 考えました。
死がいを 太陽や 火力に サラス[暴・曝・爆] 姿は、「なにも かも ハキダス」、「放射能や熱線を
ハゲシク、フキツケられ、死体が フキデル、フキトブ、ハジケル」姿。視点を
変えれば、「ハグ、アバク」姿です。
ヒョッコリ、ウカブ、フキトブ
姿
小山さんは「軽く 浮いて 動く 意味を 一番よく 表しているのは ヒョウ[漂]」と 解説して います。つまり「ヒョッコリ ヒョウタン島」が 波に 浮かぶ 姿です。そう いえば、この ウカブ[浮]も、もと フカブfukabuの 語頭子音 f-の 脱落 かと 思われます。さらに、漢語フ[浮]もbiog浮fuのp-k音語。日本語 ヒョコヒョコ・ピョコピョコと うりふたつのコトバ
です。「軽くて、ウカブ」姿は、「ハゲシイ風がフクと、ヒョコヒョコ フキトブ」姿 でも あります。
さらに つけくわえて いえば、日本語 ウゴク[動] なども ウカブと 同類で、fugokuの 語頭子音 f-の 脱落 かも しれません。そこまで つっこんで 考えると、ますます
おもしろい
ことに
なりそう
ですが、これ
以上
脱線する
わけ
にも
ゆきません。この
問題は、またの
機会に
ゆずります。
次回はp-k音の英語
ここまで、日本語と 漢語の p-k音を とりあげ、音形と 意味との 関係を 比較して きました。それぞれの
言語の
語彙体系の
中で、かなり
多様なp-k音 単語家族が 組織されて いる ことが 分かりました。また、双方の
あいだに 偶然とは 考えにくい 対応関係を しめす 例も 見つかり ました。いつ・どこで・どうして・どんな
対応関係が
生まれたか?
にわかに
断定は
できませんが、このあと
さらに
研究を
つづける
ネウチは
あると
思います。おそく なりましたが、次回は、いよいよ p-k音の 英語を とりあげる 予定です。
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