ネオ・漢字ものがたり⑦
[浸]の甲骨文
[浸]の銅器銘文
スミノエはツエ[杖]の姿
日漢英s-m音語の共通基本義
これまで、日漢英のs-m音語に ついいて、それぞれの基本義を
たしかめて
きました。ひとくちにs-m音語と いっても、日漢英それぞれ サマザマのs-m音語が うまれています。たとえば日本語では、サム[覚・醒・冷]・シム[浸・滲・沁・染・凍]・スム[住・澄・済]・セム[攻・責]・ソム[染]という2音節動詞が あり、すべてのs-m音語の語根に なっていると 考えられます。さらに
もっと
しぼりこめと
いわれれば、シム(シミこむ)・スム(スミこむ)姿が すべてのs-m音語の基本だと いいきっても よいでしょう。
このように考えて くると、漢語のs-m音語サム[三・参]・ザム[斬・暫・慙]・シム[心・沁・滲]などに ついても、共通基本義として
シム(シミこむ)・スム(スミこむ)姿を みとめることが できます。
英語のs-m音語についてもおなじです。スミ[炭・墨]の微粒子が シミだし シミコム姿が smear(シミ)。できたシミは、もとのスミ[炭・墨]とsame(おなじ)、similar(よくにた)、simple(単一の)姿に 見えます( seem)。木が もえる とき、火力に セメつけられて シミでる気体が smoke(けむり)。つまり、超smallな微粒子です。
シミコム姿
ここで もういちど、漢字シム[浸]の字形や発音を確認して おきましょう。『古文字類編』(高明編・中華書局)から、シム[浸]の甲骨文と銅器銘文を借用して画像に
かかげました。
シム[浸]の字形、右半分は
サウ[帚]と よくにて います。
サウ[帚] は、もとtiog>zhouで、ソウジ[掃除]に つかうホウキ[箒]のこと。サキが ほそくサキ分かれた部分を部屋の スミズミまで ツキいれ、シミ・ヨゴレをトク[解](トリのぞく)ことが できる シカケに なっています。
サウ[帚]の字形、下半分にフ[布]の字形が ありますが、シム[浸]では、その部分が ユウ[又](手)の字形に なっています。つまり、トッテ[取手・把手]のついたホウキに 水や酒をシミこませ、部屋のスミズミまで 湿気や酒気を シミこませたり、シミ・ヨゴレを
シメ出したりする姿と解釈できます。
シミこむものは、水や酒に かぎりません。シム[心]は、血液が シミこむ、シミわたる姿。ザムtsam斬zhanは、ハモノが シミこむ姿。シム[侵]は、人がチカラづくで
シミこむ、スミこむ、セメこむ姿。やがて先住者をシメ[締・閉]だし、ひとりジメ[占]にする姿です。
Smallなほど、シミこみやすい
まわりから シメつけ、セメつけられた、セマイ地形を スミ[隅・角]・スマ[隅]と いいます。英語で
いえば、smallの姿です。くちを おおきく あけて ワラウlaughに たいして、くちの
ひらきが
smallなワライが smileです。
固体は かさばるので、シミこみにくい のですが、液体や気体は 粒子がsmallなので、どんなに セマイ ところでも スイスイ シミこむことが できます。ニオイ(気体)が鼻にシミル姿をsmell(ニオイがする)と いい、鉱石を
メロメロの姿まで とかす作業をsmelt(ing)(製錬)と いいます。そして
このsmelting作業の過程で、スミ(炭。炭素)のシミこみ具合が
決定的な役割を 果たしたことも 事実です。シンタン[浸炭]という専門技術用語も
うまれています。またsmeltingの作業を やりやすく するため、あらかじめsmite(打撃)、smash(粉砕)して、smallなかたちに する作業が おこなわれます。
スミをシミこませる技術者、Mr. Smith
smashした鉄鉱石をsmeltするとき、スミ[炭](炭素)をシミこませることで、良質の鋼鉄がつくられます。その技術者をMr. Smithとよびます。
日本語では、カヌチ[鍛]、カヂ[鍛冶]などと いいます。カッチン・カッチン、カネを
ウチキタエル姿を
表わすコトバです。その点から見ても、smithは やはり スミがセメつけ、シミこみ、スミこむ姿を 表わすコトバと 考えられます。
日本人の姓に スミスさんは いない ようですが、そのかわり スミヨシ[住吉]さんなら、たくさん います。スミヨシ神社も 全国いたるところに
あります。
いまは[住吉]と書いて スミヨシと よんでいますが、もとは
スミノエと
よんでいました。漢字では
[須美乃江・墨之江・墨吉・墨江・清江]とも かかれていました。漢字[墨]を えらんだのは、スミ[墨]で かかれた文字や 水墨画などが もつ スミきった姿をイメージしていたたから でしょう。あるいは、それは
タチ・ツルギなど
ハガネ[鋼]の色だった からと解釈するほうが 正しいかも しれません。
スミノエのイメージと実像
鉄利器を生産。使用することで 人々の生活が ゆたかに なりました。同時に、もともと金属精錬の技術用語だった語音が 日常生活の面でも
ひろく
つかわれるように
なりました。たとえば、さきほど
とりあげたカヂ[鍛冶]はk-t音語で、もとは技術名ですが、やがて職業名となり、さらには姓を
あらわす
コトバに
なっています。
日本語では、この生産技術を開発した人たちを崇拝し、神として マツルうごきも でてきました。スミノエの神も
その一例です。
『古事記』神功皇后の新羅征討のくだりに「新羅の国は御馬甘と定め…そのミツエ[御杖]を、新羅の国主のカド[門]に衝き立てて、すなはちスミノエ[墨江]」大神の荒御魂を、国守ります神として祭り鎮め…』という記事があります。ここでいう
ミツエ[御杖]は、ただの木製の棒だった はずが ありません。ツエは
ツキサス[突刺]エ[柄]であり、ここでは タチ・ツルギなど、鋼鉄製のツエだったと 考えられます。
ツエに ついては、『記』(応神)のくだりにも「ミツエ[御杖]をもちて大坂の道中の大石を打ち玉へば、その石走りサリ[避]」き。故、諺に『堅石も酔人を避く』といふなり]の記事があります。このミツエ[御杖]も、ただの木製ツエ
ではなく、鋼鉄製、タガネ[鏨]や ピッケルのたぐいのツエと 考えれば、話のツジツマが
あってきます。
スミノエはツエの姿
地名スミノエがどんな地形だったか、考えてみましょう(画像参照)。[墨江・清江]という用字法からみれば、それはイリエ[入江]だったと
考えられます。また[住吉・墨江] という用字法から
みて、それは「海水面が内陸部に
むかって
ツキススム・スミこむ姿」のイリ[入江]ということに
なります。そこで、もういちど
見なおして
みると、スミノエ=イリエ=ツエ[杖]の姿です。そういえば、スミは[角]とも書き、ツノやツエに つながるイメージです。
スミノエ神はMr. Smith
まだまだ論じつくせない感じ ですが、予定のスペースを こえました。このへんで、s-m音語と金属製錬との関連に ついて。いちおう まとめて おきましょう。
s-m音語は、漢語では サム[三・参]・シム[浸]や シムタン[浸炭]などのコトバを うみだしました。
英語でもsmall, smash, smoke, smelt, smithなどの コトバを うみだしました。
日本語では、どう だったか?「スミをシミこませて鉄をつくる」技術の伝来に あわせて、動詞サム・シム・スムを はじめ、おおくのs-m音語がうまれ、古代国家ヤマト政権をささえました。
ミスマル[御統](首や腕のかざり)、スミノエ神、スメラミコト[天皇]なども、 おなじ ながれの なかで うまれたコトバです。
スミノエ神は金属製錬smeltingの魔術師であり、スミ技術者集団のリーダー,Mr. Smithだったといってよいでしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿