…t-r音英語の基本義をさぐる…
t-r音の擬声・擬態語
日本語でも、tr音の擬声・擬態語はごくわずかでした。漢語でも、そうでした。英語では、どうでしょうか?
英語のtr音の擬声・擬態語は、まだ1語も採集できていません。和英辞典でt-r音日本語に対応する英語音をさがしてみると、ほぼこんな具合でした。
タラタラ(流れる)→drip down. *タル・シタタル姿。
ダラリ(とタレル)→dangle.
チョロチョロ(流れる)→trickle down.
チラチラ(散る。飛ぶ)→flit.
チリヂリ→(run away)in all directions. *散り散り、バラバラな方向へ。
ツルツル(すべりやすい)→slippery. *スル[擦・摺]・ズル(ズレル)姿。t-r音とs-l音は交替関係。
(道路が)ドロドロ→slushy. *雪解けなどでぬかるみの状態。ツルツル・ズルズル、滑りやすい。
t-r音語根と派生語
A.H.D.フロク「インド・ヨーロッパ語の語根と派生語」から、t-r音の語根と派生語をひろってみます。
dail- (to divide分割する). deal1分配する, ordeal神判。*タチ[断]キル姿。 ⇔チル・チラス[散]・タル・タラス[足・垂]。
del-1. (long長い). long1長い, long2あこがれる, length長さ, Lent大斎節, longitude経度, lunge突き刺し, prolong長引かせる。*長くツキデル姿。long は dlon-gho の頭子音d-脱落か。
del-2 (to count数える) tell語る, tale物語, talk語りかける。*デル姿。⇔デル・カタル。
der- (to split裂く) tear1ちぎる, tart2辛辣な, turd糞, drape垂れ布。*ダス・タラス・チラス・チギル姿。
deru- (to be firm安定した), tree樹木, true真実の, truth真実, trust信用, tray皿, trim切りとる, endure耐える。*タル・ツル・デル・トル姿。ドッシリ構える、ツラヌク姿。
dher- (to hold firmlyしっかり支える) farm農場, firm安定した, confirm確認する, throne玉座, dharmaダルマ。法。*タル・タラス[垂・足・帯] 姿。また、ノットル[乗取・則・法]姿。
dhers- (to venture危険をおかす) dareあえて~する。*デル姿。デル姿. ⇔デル・テル・テラウ[衒]。
dhreg- (to draw引き出す, glide滑るように動く) drink飲む, drenchずぶぬれにする, drownおぼれる。*ツルツル・ズルズル・ツレコム・ズラス姿。
dhreibh- (to drive追いやる, push押す) drive, drove2大群衆, drift圧力。*ツル・ツレコム・タラシコム姿. ①クギやクイをウチコム= drive. ②driveされ, ツラナル家畜= drove2. ③波のツラナリ・ウネリ= drift.
dhreu- (to fall落ちる, flow流れ出る, drip滴る) drizzleしとしと降る, drearyものうい, drowseまどろむ, dropしたたり, drip。*タラタラ・タル・タレル姿。drowse = マブタが垂れる姿.
dreary = うな だれる心。
tele- (to lift持ちあげる, support支える, weigh重さを量る) toll1鐘を鳴らす, tolerate許容する, Atlas アトラス, talent才能,
translate翻訳する, extolほめたたえる。*(手を)アテル[当]・デル姿. ⇔テル=デル。talent=ツキデル才能. extol=テラシ出す姿 。Atlas = ツキデル手で地球を支える姿。
tauro- (bull牡牛) Taurus牡牛座, toreador闘牛士, torero闘牛士。*ツノがツキデル・ツラヌク姿。
tere-1 (to rubこする, turnまわす) trite古臭い detriment損害, thrashむち打つ, thresh脱穀する, threshold 敷居,turnまわる, contour 輪郭, return引返す, drill1きり, throwなげる, thread糸, trauma 外傷。*ツル・ツルリ・ツキデル・ツラヌク姿. ⇔ツル[釣・吊・連・蔓・鶴]・ツラ[絃・列・葛]。
tere-2 (to cross over交差する, pass throughよこぎる) thrillぞくぞくさせる, nostril鼻孔, thorough まったくの, through~を貫いて, trans-(接頭辞。across, beyond, throughの意), transient長続きしない, trench 堀, trunk 幹。*ツキデル・ツラヌク姿。
ters- (to dry乾く) thirstかわき, terraceテラス・台地, terrain地形, terrierテリア犬, territory領土, inter埋葬する, Mediterranean地中海の, toast1トースト, torrent急流, torrid炎熱の。*デル・テル姿。
treb- (dwelling住宅) thorp村, trave桁。*ツラナル姿(家並み, 村落= thorp)。ツラネル・ツラヌクもの(横梁=trave)。
trei- (three三) three, thrice三度, thirteen13, thirty30,
trio三つ組, third第三の, tertiary 第三紀の triple三重の, testament遺言, contest競争, detest憎む, protest抗議。*ツルリ・ツキデル利器の姿。(ヤジリ・ツルギ・ツリバリなどの) 先端部分は 三角形。 ⇔ツル・ツルギ・ツリバリ。
trep- (to turn) trope修辞, contrive考案する, retrieveとりもどす, trophyトロフイ・ぶんどり品, tropic回帰線. *ツル[蔓]がハエヒロガル姿. trope
= コトバのツラナリ。retrieveや trophyは、所有権・占有権をマゲル姿。⇔ツル・トル・トラフ[捕]。
treud- (to squeezeしぼりとる) threatおどかす, thrust押しだす, intrude押入る, protrude突き出る.*ツリ針でツル・ツラヌク姿。
正面から日漢英の音形比較を!
ここまで3回にわたって、t-r音の基本義をさぐってきました。t-とd-、r-とl-など、こまかなチガイはありますが、おおまかな視点から見て、日漢英のt-r音語は共通の基本義をもっているといえそうです。日本語(ヤマトコトバ)でいえば、タル・チル・ツル・デル・トルなどの姿です。
スズメやニワトリなど、トリのクチバシやクビのあたりはツルッとした感じですが、胴体部分はいきなりデル・デッパル姿です。その姿をうつした漢語上古音がtiuer(現代音zhui)、漢字(象形)が[隹](日本漢字音スイ)で、[雀・隼・雞・雁]などの字形を構成しています。(下方向に)デル姿がタル[垂]で、漢語ではdhiuar垂chui、英語ではdrip(シタタル)やdrop(シタタリ)となります。このdrop(シタタリ)の姿は、さきほどの漢語tiuer隹zhui(トリ)とソックリです。そういえば、tree(樹木)も体型が△形で、どっしりした安定感があり、true(真実の), truth(真実), trust(信用)などと同根(deru-)のコトバとされています。
「インド・ヨーロッパのコトバが日本語や漢語と同源のはずがない」と考えること自体、ふるい迷信かもしれません。漢字の字形にたよるのは便利な方法ですが、漢字は事物の姿を表わすだけで、コトバの音形を表わすモジではありません。
コトバの基本はオトですから、そろそろ「漢字の字形一辺倒」を卒業して、コトバの音形を中心に日漢英3言語を比較してみてはいかがでしょうか?もちろん、コトバの音形は時代とともに変化しますから、それぞれの言語について、時代別の音形をたしかめておくことが前提条件になります。複雑な作業が必要ですが、そのかわり「現代音では、まったく関係のないコトバにきこえるが、古代音までさかのぼれば、あきらかに同族語と分かってくる」可能性があります。1例でもおおくの音形資料をもちよって、おおぜいの研究者の目で検討してみたらと願っています。
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