2016年1月17日日曜日

クネル・コネル・カネル・カナフ


k-n音の 日本語を考える…





大国主神の クニ[国]とは、どんな 意味?
 昨年12月、「古事記を 読む 会」の 研修会で、わたしは 「オホクニヌシ神の クニ[国]とは、どんな 意味か?」という テーマを 提案 しました。クニ[国]は、k-n タイプ 2音節名詞 ですが、この 音タイプの コトバは ヤマトコトバの 語彙体系の 中で 「少数派」で あり ながら、「要注意」の 存在だ という ことに、最近 ようやく 気づいた から です。

あらためて『古事記』の 用字法を チェックして みると、クニを[]と 表記した ものが 大多数 ですが、まれに [国土・地・土] もしくは [久爾・久邇] などと 表記した 例が あります。

 また、地名・国名と して、「アシハラノナカツクニ・カラクニ・クダラノクニ・シラギノクニ」、「アキノクニ・イセノクニ・イナバノクニ・キノクニ・コシノクニ・ツクシノクニ・ヤマトノクニ・ヲハリノクニ」など、51の 用例が 見られます。

 すこし こまかい ことを いえば、①で いう クニと ②で いう クニと では、その 意味内容に ズレが 見られます。②の「アキ・イセ・イナバ…」などの クニグニは、全体と して ①の「アシハラノナカツクニ」を 構成して いたと いうのが 実態です。「クニの 中にクニが ある」と いう のは、現代人の 感覚 からは 違和感を おぼえる ところです。

ぎゃくに いえば、そこに クニ いう コトバの 発生・発達の歴史」を 読みとる ことも でき そうです。21世紀の 現代でも「お国は、どちら?」などと いいます。これが 外国人に むかっての 質問で あれば、「中国・韓国・アメリカ」クラスの クニ(国家) 意味で あり、日本人 同士の 会話で あれば、「(出身の) 地方・郷土」と しての クニを 意味する ことに なる でしょう。

 

 また、クニで はじまる コトバと して、「クニグニ・(豊國の) クニサキ[国前]・クニシヌビウタ[思国歌]・クニツカミ[国神・地祇]・クニツチ[国土]・クニノミヤツコ[国造」・クニビト[国人・土人]・クニミ[望国内]」などの 用例も あります。ここでも、「国家」と いう よりは、「地方・郷土」と しての クニを 意味して いる ようです。とりわけ「クニツカミ」は、「アマツカミ[天津神]」(天上界の神)の 反対語で、「現実世界の、郷土の 神」の 意味です。また「クニシヌビ」や 「クニミ」の クニは、「(居住して いる)郷土の 風景・地形」などを 意味して います。、

 ここまで『古事記』の用字法から、「クニ[国]とは、どんな 意味か」、「どうして クニと よばれた のか」と 考えて みました。「分かりきった ことを いまさら…」と いう 感じも ありますが、もうすこし 客観的・合理的な 解説が ほしいと いう  気も します。

 

クネクネ・クネル 境界線が クニ「国」
  クニと いう 語音 だけを いくら 追いかけて みても、クニの 実態・全体像を とらえる ことは むつかしい ようです。すこし ワクを ひろげ、k-n音語 全体の 中で 比較して みる ほうが、クニの 実態・全体像が 見えやすい かも しれません。

 たとえば、「クネクネ・クネル」と いう コトバとの 関連を 考えて みましょう。「クネクネ・クネル 境界線 クニ」と 解釈すれば、「クニシヌビ・クニミ」などの 場面が 実感 できるか 思います。クネクネの 上代語の 用例は ありませんが、クナクナ・グナグナ・クニャクニャ・グニャグニャ などと ともに、『広辞苑』にも 採用され、「クナクナ=クタクタ」「たわみ しなう さま」「柔弱で 抵抗力の ない さま」「くねり まがる さま」 などと 解説されて います。イズミの 解釈を ズバリ いえば、クナクナ クタクタとは 語尾子音(t-, n- 交替関係 あり、「カツ[搗](カチワル・クダク)作業に よって、クタクタ・クニャクニャに なった」姿を 表わす コトバです。音韻の 面から、クツ[]・クダク[摧・砕]・クタス[] などとの 関連を しらべる 必要が ありそう です。ただし、k-n音と k-t音の 比較は、つぎの 機会に まわす ほか ありません。

 

クネル・コネル、やがて カネル・カナフ 
 ここでk-n 日本語の 全体像を 考えて みましょう。まず 動詞 ですが、上代日本語の 段階で 成立して いた 2音節動詞は、カヌ(動下二)だけ です。現代語でも、キヌ・クヌ・ケヌ・コヌ などの 音形の 動詞は 成立して いません。K-n音に 近いと 思われるk-m音では カム・クム・コム などが 成立して いる のと くらべて、フシギな 感じが する ほどです。

 もっと フシギな のは、この カヌが 音形も 活用形も おなじ ままで、まったく 正反対の 意味 表わす コトバと なって いる こと です。

    カヌ[兼]…(AB、両方とも)兼ねる。

    カヌ[不勝・不得]…(~するに たえない)。

  2音節動詞は、カヌ だけ ですが、3音節動詞は 上代語で カナフ[叶] 成立して おり、現代語では クネル・コネル などが あります。ここで k-n音語を つかって 古代の 食生活を スケッチして みると、こんな ぐあいに なります。

 石皿や 石臼に 食材を のせる。キネ カツ・ツク・コネル。食材が クタクタ・グタグタ・クニャクニャ・グニャグニャ なる。あるいは、コナゴナ なる。もとの 素材の ままでは 食べ カネ ものが、歯で カミ やすく、胃で コナレ やすい 食品に 変身。カネガネ「ゆたかな 食品を」もとめて いた 人々の 願いが カナフ[] ことに なる。

なお、カナフ[]は「ユメが 現実と なる できる」こと であり、k-n 英語 canとの 対応関係が 考えられ ます。このあと、k-n 英語の 項で あらためて とりあげる 予定です。

 

カナ・カネ キネの カネアイ
 ここまで 見てきた とおり、上代日本語の k-n 2音節動詞は カヌ だけ ですが、現代語 3音節動詞では カネル・クネル・コネル などが あります。

また、2音節名詞では、上代語と して カナ[金・鉇]・カニ[]・カネ[金・鐘]・キヌ[衣・絹]・キネ[杵・木根]・クニ[] などが 成立して おり、そのご クネ (境の 垣根)・コナ[]などの 用例が 見られます。そこで、これらのk-n音語に ついて 共通基本義を さぐってみたい のですが、どうで しょうか?

カナと カネは、語尾母音が 交替した だけで 同義。カナ[]は、カナ[] 特殊用法。カネ[]も、カネ[] 特殊用法と 解釈して よい でしょう。キネ[] キが 甲類の キで、キネ[木根] キが 乙類の なので、すこし ややこしい のですが、ここで くわしく 解説する 余裕は ありません。イズミの 解釈では、それほど 気にする 必要は ありません。おおざっぱに いえば、動詞形 [來・消] 名詞形が [鹿・髪・香・蚊・日]・キ[杵・割・木]・ク[]・ケ[木・笥・毛・食・気]・コ[篭・子・児・粉・木]と考えることができます。

たとえば、カ=(角・髪・香・蚊・日光などが)カミツク・クイコム姿。キ=クイコム・キサク・キザム姿。

 k-n音語に ついても、キネ[木根]は「キ[] 本体から ネ[根]が ノビでる」 姿。キネ[]には、①直線型・ツキ棒型と、②折線型・ツチ[]型の 2種 ありますが、いずれも「人の ウデと キネが 連動する 姿」=「クネクネ・クネル 姿」と見て よい でしょう。

 カネ[金]と カネ[鐘]に ついても、まず ①金属物質と しての カネと、②楽器(発声装置)と しての カネの 姿が 連想され、つづいて ③カネを ツク・ナラス 人、④カネの ネ[音]などが 連想されます。そこに、いろんな ヒトや モノが かかわりを もち、その カネアイの なかで カネの ネ[音]が 生まれて います。ここでも、k-n音語の 基本義と して「クネクネ・クネル 姿」を 見る ことが できると 思います。

 

カナ・カネと カマ・カメの 関係
 さきほど、「k-n音の コトバは、k-m音に くらべて 少数派」と いいましたが、ここでもう いちど 考えて みる ことに します。K-n音の 語尾子音 –n -m 変化すると、意味用法は どう 変化する でしょうか?カヌ[]はカム[]となり、カナ[]はカマ[鎌・釜]、カニ[]はカミ[噛・髪・上・神]、カネ[金・鐘]はカメ[瓶・亀]となります。、

 いっぱんに、m-音は「ウム[生・産・埋]・ウマレル・ウメル[]」姿を 表わすと され、n-音は 「ヌ[寝]。横に なる。共寝する」姿を 表わすと されて います(詳しい 解説は 省略)。 

 カナ カマ 語音を くらべて みましょう。カナ[金]は、もと「AB カネアワセ・トメル」 姿で、動詞 カヌ[兼]の 名詞形 見る ことが できます。くらべて、カマは「カミツク もの」の 姿で、動詞 カム[噛]の 名詞形 解釈 できます。

 カネ[鐘]と カメ[瓶・亀]に ついても、同様の 対応関係が 見られます。カネ[鐘]は 楽器 ですが、もとは カメ[瓶](容器)の 用法を カネた コトバ。カメ[亀]は、カメ[瓶]の 姿を もつ 生物。

 このように 見て くると、k-n音語と k-m音語は たしかに 対立関係の 語音で ありながら、カネテ 交替関係 らしい 一面をも 見せて いる ようです。

 

m-から n-へ、音韻変化の 傾向
  カネと カメ などに からんで、ぜひ 考えて みたい 問題が あります。それは 上代語で m- だった コトバが、そのご n-音に 変化して いる という 事実です。たとえば、地名「メヒ[婦負]」が ネヒ」に、植物名「ミラ[]」が ニラ」に、動物名 ミナ []」が ニナ」に 変化して います。

 m- から n-音への 音韻変化に からんで、もう 一つ 気になる 問題が あります。それは、上古漢語の 語尾子音 -m 現代音では すべて -n音に 変化して いる 事実です。たとえば、カン[甘・柑・感]・キン[金・今・衿・禁] などが そう です。「甘い ものを に含んで カミしめる 姿」=「甘味を 感じる 姿」と 見れば、日漢 k-m音語の 対応関係を考える うえで 重要な 参考資料と なる でしょう。くわしくは、次回「k-n音漢語」の 項で とりあげます。

 

クナガヒは、ツナガル姿
 上代語に クナグ[]・クナガヒ[婚合]・クナタブレ (気が 狂って いる こと) などが あります。この クナも、「クネの 交替音」で、キネ[木根・杵] おなじく「ク(胴体)の ナリモノ」(クネルもの。男性器)と 解釈 できます。クナグ[]・クナガフ[婚合]は「男と 女が 身を クネらせて ツナガル」姿。クナタブレの タブレは 動詞タブル[](動下二)・タハク[婬・婚] (動下二)・タハル(動下二。みだらな 行為を する) などに 通じる コトバ であり、やがて「性行為中の 異常な 精神状態」を 表わす ように なったと 考えられます。
 クナグと ツナグ おなじ 姿を 表わす コトバ だと いう ことに なると、ク音と ツ音との 交替関係も 考え られます。たとえば、アルファベットABC- Cは、city, faceなど では s音、cake, cap, cup, cat, publicなど では k音、change, child, chooseなど では ts音で 読まれて います。また、現代中国語の ローマ字 表記法(「漢語拼音方案」)では、日本漢字音 シ・ジ[詞・此・刺・辞・次] ci(。ウェード式では tz’u) 表記されて います。こうした 現象に ついても、このあと あらためて とりあげる 予定です

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