サク[削] も scaleも、サク・ソグ 姿
漢語や 英語にも、s-k音語は たくさん あります。
たとえば、漢語 サク[削]の 現代音は xiaoですが、上古漢語音はsiokで、典型的な s-k音語です。漢字[削]の
字形も「刀
+
音符
ショウ
[肖]」の 会意 兼 形声 文字で、「刀で 細く けずる こと」と 解説されて います。その ショウ [肖]も、「肉 + 音符 小」の会意 兼 形声 文字で、「素材の 肉を 削って 原型に にた 小形の ものを つくること。サク[削]・ショウ[消・蛸]などと 同系」と されています。日本語の
文脈では
普通「ケズル」に
当てて「削る」と
表記して
いますが、ケズルの
歴史カナヅカイは
ケヅルで、もとは
k-t音の コトバ。s-k音で いえば、サク[削]は 「小サク、サク[裂・割]。ソグ[削]」姿と いう ことに なります。おなじような 現象が、英語の s-k音語に ついても 見られます。たとえば、モノサシやハカリ などを 意味する 英語 scaleは、語根skel-¹(to cut)の 派生語で、skill技能, sculpture彫刻などと 同族と 解説されて います。そこで s-k音に こだわって、これらの英語を 日本語に 訳して みると;
scale=「ウロコ。テンビンの皿。メモリ。モノサシ」=「小サク、サク[裂・割]・ソグ[削]姿」
skill=「技量。うでまえ」=「スッキリ、スク[鋤]・サク[裂・割]・ソグ[削]・シキル[仕切] 姿」
sculpture=「彫刻」=「刀で素材をサク[裂・割]・ソグ[削] 姿」
こんな ぐあいに なります。意外な
ほど
スッキリs-k音の まま おさまり、違和感が ありません。こうした状況を 観察して いると、s-k音に かぎらず、日漢英の 語音には、民族や 国家の ワクを こえて、共通の 音韻感覚が はたらいて いる のでは ないかと いう
感じが して きます。しかし、現実は それほど 単純明快な わけには ゆかない でしょう。今回は まず s-k音漢語に しぼって、その 音韻感覚を さぐる ことに します。
s-k音 タイプの
漢語
現代漢語には、s-ngの 音形を もつ 音節は ありますが、まともにs-kの 音形を もつ音節は ありません。上古漢語には 存在した s-k音語の なごりが 日本漢字音には 残されて いるので、それを
たよりに
s-k音 漢語の 実態を さぐる ことが できます。
s-k音 漢語の 数は 多すぎて、全部 ご紹介する ことは できません。これまで チェックできた ものに ついて、中間報告を
させて
いただきます。
(1) 日本漢字音として
語尾子音 -kが 残って
いる 例
サク:
siok削xiao けずる。*刀で ソグ[削](けずる)。⇔ ソ グ [削]。
sak索suo なわ。つな。引き出す。*麻の 茎を サク[裂]・ソグ[削]姿。⇔サク[裂]・ソグ[削] 。
tsak作zuo つくる。なす。 *サ[箭・矢](ハモノ)+ ク[來]の 構造で、「ハモノで
素材に
切れ目を
入れる」姿。⇔サク[裂・割・劈]。
サク・シャク・ジャク:
tsiok雀que すずめ。*チイサキ[小] トリ[隹・鳥]。ショウ[小・少]・シャク[爵]と 同系。
tsiok爵jue 酒器。爵位。*スズメの 形を した 酒器。
dziok嚼jue かむ。かみくだく。*小さく サク[裂・割](噛み 砕く)姿。⇔サク[裂・割・劈]・ソグ[削]。
シキ・ショク:
siok色se, shai いろ。顔色。色欲。*かがんだ 女性の 上に 乗った 男性が、女体の スキマに スキコム・シケコム・シコム
姿。⇔スク[鋤・助・漉・送]・シク[敷]・ソソグ[注]。
thiek式shi 様式。儀式。*式は「工(しごと)+ 音符ヨク[弋](いぐるみ)」の構造で、道具を使って工作する姿。 ⇔シク[敷]・シキモノ[敷物]。
シャク:
thiak鑠shuo (金属を)鎔かす。*鉱石や 金属を 加熱し、微粒子に
なる
まで
サク[裂・割] (鎔かす) 姿。また、「赤々と かがやく」「元気が よい」姿。→カクシャク[矍鑠]。⇔サク[裂・割・劈]。
シャク・セキ:
sek析xi 分かれる。分析する。*オノ[斧]で 木を サキ[裂・割] 分ける 姿。⇔サク[裂・割・劈]。
siak昔xi むかし。*日を シキ[敷] 重ねる 姿。⇔サク[裂・割・劈]・シク[敷・及]・シゲル[茂・繁・重]。
tsiak借jie 借りる。貸す。利用する。*Aが もって いる 金・物・力の 一部をサキ( ソギ)とり (カル[借])、不足している Bに ツケ足す (カス[貸])、タスケル[助] 姿。⇔サク[裂・割・劈]・スク[鋤・助]・タスク([手・田] + 鋤・助)。
thiak釈shi 解釈する。放す。釈放する。*シコリを サキ ほぐし、一本の 線と して 連ねる こと。ときはなす。ゆるす。⇔トク[解・説・溶]・サク[裂・割・劈]。
シュク:
thiok叔shu おじ。夫の弟。*小さい
豆や
ソバの
実を
手で
ひろう
姿
から、やがて
細く
小サキ
末の
兄弟の
意に
用いる。⇔サク[裂・割・劈]・ソグ[削]。
siok宿su 泊まる。宿泊する。*せまい 部屋で、身を スクメ[竦] 休む 姿。やど。やどる。⇔スクム[竦]。
siok縮su, suo 縮まる。縮める。*ヒモを 引き締め、チヂメル・スクメル
姿。⇔ソグ[削]・スクム[竦]。
siok粛su 慎み深い。厳しい。粛清する。*筆を 持って 深い フチ[淵]の ほとりに 立ち、身を スクメル さま。シュク[縮]・ソク[束] などと 同系。⇔ソグ[削]・スクム[竦]。
ソク:
siek息xi いき。消息。休息する。利息。息子。*鼻と いう セキ[関]所を スクスク 通り ぬけて イキ[息]を して いる 姿。休息・生息する 姿。やがて、子孫を 生む → ムスコの 意とも なる。ソク[塞]と 同系。⇔セク[塞]・ソク[退・除]・ソグ[削]。
siuk束shu つかねる。くくる。縛る。*たき木を 集め、ヒモで 束ねる(ヒキシメル・スクメル)姿。ソク[速・捉]・シュク[縮]・ショウ[竦] などと 同系。⇔スクム[竦]。
suk速su 速やかである。速度。*ソク[束]と 同系。ツカム・スクメル 姿。スクスク 歩む さま。⇔スク[鋤・漉・送]・スクスク(歩む 姿)。
tsiuk足zu 足。足る。*足の 筋肉を スクメたり ユルメたり する 姿。⇔ツク[突・附・着]・スクム[竦]。
ts’iuk促cu (時間が)短い。うながす。*ソク[束・足] と 同系。セカセカ、ツキ動かす姿。⇔ツク[突・搗・附・着]・セク[急]。
tsuk捉zhuo つかむ。とらえる。*ソク[束・足]と 同系。⇔ツク・ツカム・スクメル。
ソク・サイ:
sek塞se さしこむ。ふさぐ。栓。*屋根の カワラの 下に スキマが でき ない ように、カワラと
土を
ぴったり
ツケル
姿。いいかえれば、セキとめる
こと。ソク[即・則](ぴたり ひっつく)などと 同系。また、トリデ(要塞)の こと。⇔セク[塞・急・咳]・セキ[関・堰・咳]。
(2) 日本漢字音で、語尾子音 -kが 脱落 (母音化) して いる 例
ショウ:
siog小xiao 小さい。小さくする。*小さくサク[裂・割]・ソグ[削] 姿。⇔サク[裂・割]・ソグ[削]。
thiog少shao 少ない。不足する。若い。*同上。⇔ソグ[削]・スコシ・スクナシ。
siog肖xiao 似ている。*(肉などの)素材を ソギトル こと から、カタドル・似るの
意。⇔ソグ[削]・ソックリ。
siog消xiao 消える。消す。*ソギとり、小サク する。⇔ソグ[削。
siog宵xiao よい。よる。*太陽の 光が ソガレル 時間帯。⇔ソグ[削。
sog梢shao こずえ。*木が のびて ゆき、サキ[先]が 細く ソガレル 姿。⇔ソグ[削。
sog稍shao 少し。やや。*作物の 穂先が 細く ソガレル 姿。⇔ソグ[削。
siog笑xiao わらう。*細い 竹の 姿。やがて、スコシ
だけ
口を
サク[裂・割] 姿。⇔サク[裂・割]・ソグ[削]。
siog咲xiao 笑う。*同上。
siung竦song 敬う。竦む。ゾッとする。*二本の 足を 細く 束ねた ように 棒立ちと なる(立ちスクム)
姿。ソク[束]・ジュウ[縦](タテに 細長い)・シュク[粛] (細く 引きしめる)などと 同系。⇔ソグ[削・スクム[竦]。
sieng生 sheng いきる。いかす。うむ。うまれる。はえる。はやす。なま。*地面を サキ分け、若芽が
スクスク
生え出る
姿。⇔サク[裂・割]・スクスク。
ソ:
sag素su もと。白い。もとより。基づく。*ひとすじ ずつ サカレ[裂]、たれサガル 原糸。サク[索]と 同系。
ソ・シャ・ショ・ジョ:
ts’iag且qie しばらく。~さえ。しかも。*ツギツギ ツケル[付]、積み 重ねる 姿。⇔ツク[附・着]・ツグ[次・継]・シゲ[重]。
tsag祖zu 祖父。祖先。*世代の 積み 重ね。
tsag組zu 組みあわせる。組織する。組。グループ。*組みひも(ツギツギ、糸をツギ[継・接]タス[足])の 姿。⇔ツク(ツケル)[附・着]・ツグ[次・継]。
thiag阻zu 阻む・止める。*通路を フサグ、セキ[堰・塞]
止める。⇔セク[塞・咳]。
dziag助zhu 助ける。手伝う。*力をツケ足す 姿。⇔ツク・ツグ・スク[鋤・助]・スケ[助]タスケ[助]。
dziag鉏chu すき。鋤く。*田を スク[鋤]道具。ツキ棒に
たよって
いた
農民に
とって、スキ[鋤]の
発明は
画期的な
タスケ[助力]と
なった。⇔スク[鋤]・スキ[鋤]。
ソウ:
siog捜sou さがす[探・捜]。*部屋の スミズミ まで、灯火を かざして サガス こと。また、サグリ
出し、ソギとる
(押収する) こと。⇔サガス・サグル・ソグ[削]。
sog掃 sao はく。はらう。*ホウキで地面をヒッカク姿。 ⇔ソグ[削]。
siang相 xiang あい(たがい)。みる。たすける。姿。形。*木を対象として見る、向きあう姿。また、視線を入れる、サキ分ける姿。⇔サク[裂・割]・サガ[性・祥]。
tsug 走zou はしる。にげる。*大の字に手足を広げ(ツキダシ)、セカセカ走る姿。⇔ツク・ツグ・ツギツギ・ツカツカ・スクスク・セカセカ。
ざっと ごらんの とおり ですが、これだけの
資料
からも、いくつかの
ことが
見えて
きます。
①
上古漢語の 段階では s-kタイプの 音節 (s-k, s-g, s-ng)が 多数 成立して いたが、その後 語尾子音 -k, -gが 脱落し、現代漢語音では s-ng グループ 以外に s-kの 音形をもつ 音節は ゼロと なった。いいかえれば、すべてCVC型の 音節 ばかり だった ものが、 その 大部分が CV型の 音節(開口音)に 変化した。
②
コトバの 音形は 事実上 変化したが、意味・用法の
面では
基本的に
上古音
以来の伝統に したがって いる。
③
上古漢語の s-k音は、当然の こと ながら 日本漢字音 でも 基本的に s-k音として 表記されて いた。サク[削・作・索]・ソク[息・束・足] など。ただし、上古漢語
語尾子音が -gまたは -ng音の ばあい、日本漢字音の 語尾は 母音化して 表記された。ショウ[小・少・肖]・ソ[祖・組・阻]・ソウ[掃・捜]、または ショウ(セイ)[生]・ソウ[相]など。
④
さらに、もと t-k音と s-k音との 中間に 分類すべきかと 思われる ts-k音漢語に ついても、日本漢字音で s-k音 として 表記された。サク[作]・ソ[且・祖]・ソウ[走] など。この 現象は、さきに 指摘した「ツク から スクへ」の 流れと 一連の もの かも しれない。
日漢 s-k音語の 対応関係
日本語では、サクを 漢字で[裂・割・咲]などと
書き分ける ことが ありますが、ヤマトコトバとしては
もともと 1語でした。サクは、「サ[箭](矢の 古語)+ク[來]」の 構造で、「サ(ヤジリ
などの
ハモノ)が
クル[來・刳]」、「小サク サキ分ける」 姿を 表わす コトバです。そして
この
サクは、シク・スク・セク・ソク
などと
ともに、s-k音の 単語家族を 形成して います。
漢語でも、ショウsiog小の まわりに サク[削]・ショウ[少・肖・消] などの s-k音単語家族が 形成されて います。ソクsiuk束(ツカ。ツカネル)と ソク[速]、ソクsiuk足と ソク[促・捉]、ソtsiag且と ソ[祖・鉏・鋤] などに ついても、ほぼ おなじ 関係が 見られます。
このように 見てくると、古代の
日本語と
漢語の s-k音は、フタゴの 兄弟 ほどの 対応関係を もって いた ことが 推定されます。
次回は、「s-k音の 英語」を とりあげる 予定です。
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