これまでの 経過
前回は、ハカ[墓]と ミササキ[御陵]の 話から、日本語のp-k音語と s-k音語の 音韻感覚の 話を させて いただき ました。その あげく「このつぎは 日漢英の p-k 音や s-k音の 対応関係に かんする 議論を 提案できる ように したい」と お約束して しまいました。
日本語のpak-音は、動詞 ハク[掃・吐・著・帯・佩]・ハグ[剥]を 中心に ハカ[墓・計・量・捗]・ハカリ[秤]・ハカル[計・測・量・図]・ハケ[刷毛]・ハゲ[剥・禿]・ハコ[箱・函]・ハコブ[運]などの
単語家族を
組織して
います。Sak-音に ついて 見ても、動詞 サク[裂・割・咲・放・離・避]を 中心に サカ[坂・境・界・酒・逆・冠・尺・積]・サキ[前・先・岬・幸・福]・サケ[酒]・ササキ[狭狭城・佐佐木・陵]などの 単語家族を 組織して います。
漢語や 英語 でも、それぞれ 独特の 音韻感覚に したがって、p-k音やs-k音の 単語家族が 組織されて います。問題は、日本語の p-k音や s-k音と 漢語・英語の p-k音や s-k音との あいだに なんらかの 対応関係が 見られるか どうか です。わたしの 仮説では、もともと 人類の 音韻感覚は 大同小異の もの であり、p-k音や s-k音に ついても、民族や
国境の
ワクを
こえて
共通の
感覚を
もつ
コトバが
生まれる
のは
当然と
いう
ことに
なります。ただし
それは
頭の中で
考え出した
原理・原則の
話。現実は
どうか?
調子よく 約束は した ものの、漢語・英語の p-k音語や s-k音語を すべて チェックする と いう 作業は、95歳 老人には いささか ムリの よう です。虫メガネで
辞典の
モジを
おいかけて
いる
うちに
時間が
すぎて
ゆきます。
漢語・英語の p-k音語と s-k音語の 音韻組織に ついて 1回きりの ブログで 語りつくす ことは ムリな ので、数回に 分けて 公開させて いただきます。今回は、まず 漢語のp-k音を とりあげ、日本語
p-k音との 対応関係を さぐる ことに します。ご教示を おまち します。
p-k音の漢語
現代漢語にp-k音の 音節は ありませんが、上古漢語の
段階で
p-k音 だったと 推定される 音節は 多数 あります。現代語では 語尾の -k子音が 脱落して、すべて
母音終わりと
なって
いますが、意味の
面では
もとのk-p音 時代 そのままの 意味で 用いられている よう です。以下、これまで 採集できた p-k音 漢語(漢字)を 紹介します(日本漢字音・上古音・現代音の 順)。
① ハウ[包] グループ:
ハウpog包bao] 包む。*「妊娠した
女性の
姿」、「腹の中に
胎児の
いる
姿」。ホウ[勹]は、横から 見た 人の 形。[包]に ふくまれる[己]の 旧字形は シ[巳](胎児の 姿)。妊娠する こと=はらむ こと。やがて つつむ・いれるの
意味に
用いられた。パクパク・パクル姿でも
ある。⇔フクロ・ハコ。bag,
box, pack.
ハウbog抱bao 抱く。*手で 包む 姿。⇔パクル・ハグクム。
ハウp’og胞bao えな[胞衣]。*胎児を 包む 薄い まくや 胎盤。フクロ・オフクロ。
ハウp’og泡pao アワ[泡]。*水が 空気を 中に 包みこみ、フックラ・フクラム
姿。
ハウpog飽bao 飽きる。*食事を とって、 腹が フクレル、満ちたりる
姿。
② ハク[白] グループ:
ハクbak白bai しろ。しろい。あきらか。もうす。*どんぐり状の 実の 姿。ハカマを ハク
姿。その
ハカマを
ハグと、白い
肌が
現われる。→白状・自白。 ⇔ハク[吐・掃・佩]・ハグ[剥]。
ハクpak伯bai 年長の 男子。伯父。はたがしら。*フ[父・夫]・ハ[爸](父)と 同系。
ハクpak迫po せまる。*ドングリの 実が ハカマを ハク 姿(=ハ[刃]が クル[來・刳])姿。
ハクp’ak拍pai うつ。ヒョウシ[拍子]。*手のひらを パンと たたく。もと 擬声語。
ハクbak箔bo すだれ。金属を 薄く たたき 延ばした もの。*薄く
ハガス[剥] 姿。
ハクbak泊bo とまる。とめる。*水深の 浅い (薄い) ところに 船を とめる こと。ハク[迫・薄]と 同系。
ハクbak舶bo ふね。*ハク[泊]と 同系。ドングリが ハカマを ハク ように、海水・河水・湖水を ハカマ として ハク 姿。
ハクp’ak粕po
かす。酒かす。*ハガされ・バカされた
姿。
ハクpak柏bai かしわ。*ドングリ状の
実が
なる
木。
ハクpluk剥bao はぐ。むく。*ハモノで 表面を ハギとる 姿。
③ フク[福] グループ:
フpiueg富fu 富む。*「宀(屋根)+畐」の 字形。「先祖の 霊を 祭る ミタマヤ[廟]で、酒樽を 供えている」姿。供えものが
おおく、フクレて
見える
姿
から、「トム・ユタカ」の
意味と
なる。⇔フクフク・フックラ。
フクpiuek福fu さいわい。*フク[畐]は 「酒樽 など 下部に ふくらみの ある 器」の 姿。 シ[示・礻]は、「神様 への お供えものを のせる テーブル」の 姿。そこで、「神様へ
フックラした
ものを
お供え
できる
生活」が
フク[福](幸福)という ことに なる。
フクp’iuek副fu そえる。さく。 *「畐+刂」の
字形。フク[畐] (福・富)を 刀で 二つに 分ける・割く姿。また、副える
姿。
フクpiuek幅fuフク[幅] はば。*「畐+巾」の
字形。布の
ヨコ方向の
フクレ
ぐあい
から、やがて
すべての
ヨコハバ[横幅]を
フク[幅]と 呼ぶ。
④ ホ[甫]・ハク[博] グループ:
フ・ホpiuag甫fu 男性の 長老。はじめ。*平らな
苗床に
苗の
芽生えた
姿。苗木の
根の
ところを
包みこむ(パクル)姿。また、「中に
ものを
包みこむ」姿から「たすける」の
意味を
もつ
ことに
なる(ホ[補]・フ[傅]など)。
ホpag補bu おぎなう。*衣服の ほつれを 包みこむ(パクル)姿で
補修する。
ホp’ag浦pu うら。*丸く 包みこむ(パクル)
姿の
地形
ホpag圃pu 苗を栽培する菜園。畑。*「カコイ[囗]+音符甫」の会意兼形声文字。地面を平らにハギ[剥]とりハキ[掃]とり、そこへ 草木をハク[著] (植えつける)姿。
ブ・ホbag捕bu とらえる。*ダク[抱]・カカエル[抱] 姿。
ブ・フ・ホbiuag輔fu 助ける。*車に 添え木を つけて、動きを たすける 姿。
ハクpak博bo ひろい。ひろめる。バクチをする。*平らに ひろげる こと。また、打ち当てる
こと。
ハクbak薄bo うすい。うすれる。せまる。*うすく ハギとられた 姿。ハク[迫] (せまる)、ハク[博](平らに ひろがる)、フ[敷](うすく、平らに、敷き 広げる)ホ[舗](うすく敷き つめる)などと 同系。
バクbiuak縛fu しばる。*パクパク・パクル 姿。
フp’iuag敷fu しく。*うすく、平らに、敷き 広げる(=剥ぐ)姿。
ボbag簿bu うすい 竹の 札。→ 帳簿。
⑤ バウ・バク暴 グループ:
ボウ・バクbog, buok暴bao, pu あばく。あばれる。あらい。あらわす。さらす。*矢でハキ出す、さらけ出す姿。⇔ハク[掃・吐]・ハグ[剥]・アバク[暴]。ハク[白](白状・自白・告白)。
ボウ・バクbuok曝bao, pu さらす。*日光に さらす(パクらせる。ハギ
とらせる)姿。
ホク・バクpok, pog爆bao はじける。さける。*加熱して
中身が
ハガレ[剥] 出る 姿。
バク・ボウbuk瀑bao, pu タキ[滝]。*水流が
はじける・ハガレ[剥] とぶ 姿。
⑥ ヘウ票 グループ:
ヘウp’iog票piao 目じるしの札。*人の
死体を
火葬に
する
時、火の
勢いで
体が
浮き
あがり、飛び
うごく
姿。⇔ヒョコヒョコ・ヒョッコリ。
ヘウpiog標biao こずえ。しるし。高く かかげる。*木の
梢が
高く
伸びて
揺れて
いる
さま。フキダス・ウカブ
姿。
ヘウp’iog漂piao ただよう。さすらう。さらす。*水面に フキだし、浮かび
動く
姿。ただよう
姿。⇔ヒョコヒョコ・ヒョッコリ。
ヘウp’iog飄piao つむじ風。*軽く
高く
フキあげる
風。ヘウ[標漂] ・バク[爆] などと同系の コトバ。
⑦ ヘキ[辟]グループ
ヘキ piek辟bi きみ。召す。*「人+辛(ハリ
などの
ハモノ)」の
会意モジ。人の
処刑を
命じ、平伏させる
君主。また、平らに
横に
ひらくの
意。→
辟王(君主) ⇔ヒク[弾]・ヒコ[日子]・ハク[吐・掃]・ハグ[剥]・ヘグ[剥・折・減]。
ヘキp’ek劈pi さく。*ハモノで ヒキサク[引裂]」 姿。⇔ヒク[弾・引]。pick.
ヘキp’iek僻pi かたよる。ひがむ。*「横に
平らに
開く」こと
から、「横に
ヒキズル、カタヨル」姿。→
僻地。
ヘキpek壁bi かべ。*横に 平らに 開く 姿。
ヘキpiek璧bi たま。*薄く 平らな 玉。
ヘキp’ek霹pi ピリピリと 裂ける。カミナリが 落ちる。*ヒキサク[引裂] 姿→(晴天の) 霹靂。⇔ビクビク・ビックリ(
仰天)・ヒキサク。
ヘキbiek闢pi ひらく。さける。*戸を 横に 平らに 開く 姿。→ 開闢。
ヘキpiek躄bi いざり。*足を
横に
平らに
開く、ヒキズル」姿。⇔ヒク。アシヒキ[足病]。
ヘキp’ek癖pi くせ。*ヒガム 姿。
⑧ ホク 北グループ:
ホクpuek北bei きた[北]。にげる。そむく。*二人が
背を
そむける
姿。
ハイpueg背bei せなか・うしろ・うらがわ。そむく。せおう。* 二人の 人が 背中を 向けあう 姿。ムク[剥] 姿=ハグ[剥] 姿。
⑨ その他
ハイbuag佩pei 帯びる・はく。*ピタリ・ヒキ付ける 姿。⇔ハク[佩]。
ヒpieg卑bei いやしい。いやしむ。ひくい。*薄く ハギ とられた シャモジを もつ 姿。ヘキ[壁]・ヒ[碑] などと 同系。
ヒbieg婢bi はしため。
ヒbueg稗bai ヒエ。小さい もの。*イネ科 植物。背が 低く、粒が 小さい。
ヒpieg碑bei たていし。いしぶみ。*薄く 平らな 石。
フbiueg負fu 負う。背に する。そむく。負ける。*人が 財貨を 背負う 姿。ホク[北]・ハイ[背] などと 同系。
まとめ
ハク[白]・フク[福]・ホク[北] など、日本漢字音の
語尾に
-k子音が のこって いる ものは 比較的 気づき やすい のですが、ハイ[佩・背]・ハウ[包]・ヒ[卑]・フ[富・負] などの ばあいは、国語辞典や 漢和辞典を 見ても、上古漢語音 までは 解説されて いない ことが おおい よう です。その中で 『学研・漢和大辞典』だけは、すべての 漢字に 上古音から 現代音までの 変化を 解説して あります ので、たいへん 便利です。
今回 紹介できた のは、p-k音 漢語の ほんの 一部に すぎません。それでも「日本語と漢語は
フタゴの
兄弟か」と
考え
させられる
ほどの
対応関係が
ゾロゾロ
出て
きました。それも、断片的な
単語と
単語の
対応
だけで
なく、単語家族 まとめての 音韻対応関係が 見られる のが たのしみ です。
次回は、「p-k音の英語」をとりあげる予定です。
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