…ヤマトコトバの 発想法…
ハカ[墓]・ツカ[塚]・フン[墳]・リョウ[陵]
このまえ 「マキムクの 日代の宮」に ついて 議論した あと、ふと 気づいた ことが あります。「マキムク」は
12代 景行天皇の 皇居所在地の ナマエと いう こと ですが、「マキムクの 日代の 宮は…」と いう 長歌(記. 100)が 歌われた のは、21代 雄略天皇・「長谷の 百枝槻」の くだりです。景行~仁徳~雄略と
いえば、いずれも
前方後円の
巨大古墳を
きづいた
大王たち
です。大王たちは、「日代の
宮 = 太陽の 宮殿」に なぞらえて壮大な 宮殿を 建設する と ともに、死後の 宮殿と して 前方後円の 巨大古墳を 建設した ものと 考えられ ます。
それは それで 分かった として、この 巨大古墳の ことを 当時 なんと 呼んで いた のか? ちょっと 気に なりました。コフン[古墳]は、現代人の 目からの ヨビナ ですし、フンだけ では 日本語と して ヒビキが よく ありません。○○天皇 リョウ[陵]などと いう のも、よく 耳に しますが、これも
いかにも
漢語らしい
ヒビキで、ピンと
きません。ただ、リョウ[陵]には ミササキと いう ヨミが ある ので、天皇や 皇族の ハカに かぎって ミササキと 呼んだ ので しょうか? それに しても、どうして ミササキと呼ぶ ことに なった ので しょうか?
それとも、天皇の ハカを ふくめて、すべて ハカと よんで いた ので しょうか? ツカ[塚]と いう コトバは つかわれて いなかった ので しょうか?
『古事記』の 中の ハカ[墓]と ササキ[陵]
論より 証拠、 まずは『古事記』の 記事(神武~推古 まで33代) から、天皇 はじめ皇族の 墓に かんする ヨビナ (音形・字形)を ひろって みました。結果は
つぎの
とおりです(この
項、主として『古事記総索引・平凡社』に
よる)。
①
神武~推古 まで33人の 天皇の うち、28人の 墓に ついて 記述されて いるが、のこり 4人(清寧・仁賢・宣化・欽明)に
ついては
墓の
記述が
ない。
②
天皇の 墓に ついては、すべて[陵]または[御陵]と 表記し、ミハカと 読んで いる。そのうち5人の 天皇(神武・垂仁・仲哀・応神・継体)の[御陵]は、ミササキとも 読まれて いる。また 用明の 墓に ついては、ミハカ[御陵]と ミササキ[陵]、推古の 墓に ついては、「ミハカ[御陵]」と 「オホミササキ[大陵]」、 両方の 表記が 見られる。
③
天皇に 準ずる 皇族の 墓に ついても、ハカ[陵]・ミハカ[陵・御陵]・ササキ[陵]・ミササキ[御陵]などと 表記されて いる。ミハカ[陵](五瀬命・氷羽州比売)、ミハカ[御陵](小碓命・弟橘姫・市邊忍歯王)、ササキ[陵](五瀬命)、ミササキ[御陵](小碓命・氷羽州比売)。
④
墓に 当たる 漢字は、すべて [陵]の 字形が 用いられ、[墓]・[塚] などの 用例は ない。
参考までに、『時代別
国語大辞典・上代編』(以下『上代編』と 略称)の 解説を 見て おきましょう。
ミササキ[陵・山陵]…天皇・后妃など皇族の墓。ミササギ。[考]第三音節のサは名義抄に「山稜ミサザキ」とあるが…しばらく清音に読む。御陵を守護する部民をミササキモリという…ミとキの仮名の甲乙は不明。
『萬葉集』の 中の ハカと
ミササキ
ついでに 『萬葉集』の 中の ハカと ミササキの 用法を チエックして おきましょう(岩波・『日本古典文学大系・萬葉集』および
平凡社・『萬葉集総索引』に
よる)。『古事記』では ハカ[墓]の 用例が ゼロ でしたが、『萬葉集』では ハカ[墓]・ミハカ[御陵・御墓]・ミササキ[御陵]・ツカ[墓]・オクツキ[奥城・奥墓] などの 用例が 見られます(*印
以下は
引用者の
私見)。
ハカ[墓]…ハカのヘ[上]の 木の枝靡けり 聞きし如 血沼ヲ
トコに 寄りにけらしも(1811)。*ツカ[墓]と 読む 説も
ある。ヲトコハカ[壮士墓]・ヲトメハカ[処女墓](1809)
に ついても 同じ。
ミハカ[御陵]…ミハカ[御陵]仕ふる 山科の 鏡の山に(155)
ミハカ[御墓]…遥かに ミハカ[御墓]を 見さけまして(203)
ミササキ[御陵]…山科の ミササキ[御陵] より(155)
オクツキ[於久都奇]…大伴の 遠つ カムオヤ[神祖]の オクツキ[於久都奇]は(4096)
オクツキ[奥津城]…ナミノト[波音]の 騒く湊の オクツキ[奥津城]に(1807)
オクツキ[奥城]…ウナヒヲトメ[菟名日処女]の オクツキ[奥城]ぞ これ(1802)
オクツキ[奥槨]…真間の 手児名が オクツキ[奥槨]を(431)
オクツキ[奥墓]…オクツキ[奥墓]を 此処と定めて(4211)
p-k音・s-k音・t-k音の ちがい
ハカを あらわす コトバが いろいろ あって、わずらわしい
感じが
する
ほど
ですが、音声言語として
見なおして
みると、ハカ・サキ・ツカ
くらいに
整理でき
そう
です。つまり、それぞれ
p-k音・s-k音・t-k音の いずれかの グループに 属する コトバ です。
コトバの 基本義を とらえる には、カザリの 部分(ミハカの ミ、オクツキの オク など)の 意味は あとまわしに して、まず ハカ・サキ・ツカ などの 音形が どんな 意味(事物の 姿)を 表わすか 考える ことが 必要です。ひととおり 基本義を 設定できた 段階で、もう いちど p-k音・s-k音・t-k音の 相互関係を チェックして みると、また あらたな 発見が ある でしょう。たとえば、農耕作業の道具。原始時代の
ツキ[突]棒 から 金属利器時代の スキ[鋤]に 変化しました。つまり、t-k音語 から s-k音語への 変化です。
そういえば、ハカと 同類語の ツカ[塚・墓]も、ツカ[束・柄]・ツカフ[仕・使]・ツカム[掴]・ツク[突・付・築] などと 同系の t-k音語 です。t-k音語 から s-k音語への 流れに したがえば、ツカは スカに 変化する はず ですが、現実は スカや スカスカという 語音 から ツカ[塚]・ハカ[墓]を 連想する ことは まず ありません。ただ、スカと
いえば
空くじ。スカスカする
のは、そこに
スキマ[隙間] (空間)が できて いる から です。そう 考えれば、ツカと
スカも
まったく
無関係の
コトバとは
いえない
よう
です。
ミササキは、ミハカと 同義語 ですが、語音構造が ちがいます。p-k音語と s-k音語との ちがいと いえると 思います。まずは、ハカの
語音構造に
ついて
考える
ことに
します。
ハク[掃・吐]は、ハ[刃] ク[來]の 姿
ミハカは、「ミ[御] + ハカ[墓・陵]」の 語音構造 ですが、ミ[御]は カザリ なので、実体は ハカ。この ハカは、動詞 ハクの 名詞形と 考えると 分かり やすい でしょう。もともと p-k音語で、「ハ[刃・歯・葉・羽 ] ク[來・刳]」(パクル)の 姿。パクパク・パクル・くわえる もの (容器)が ハカ・ハコと いう わけ です。ここで pak-音の コトバを ひろって みます。
ハカ[墓]墓。*死者が 身に つける(ハク[著・帯・佩])もの・ところ。パクパク
食べる・くわえこむ
姿。また
身につける
姿。ハカと
ハコは、語尾母音
交替の
関係。⇔ツカ[塚](土を
ツキ立てる・土盛りする
姿)。
ハカ ハク 作業の 各自 分担区域(田植え・稲刈り・草刈り など)。→ハカリ[量・斤]・ハカル[謀・計]・ハカガ ユク・ハカドル。
ハク[吐](動四) 吐く。*口の 中の ものを ハギ[剥]とり、ハキ[掃]だす
姿。
ハク[掃](動四)
掃く。*地面や 床から ハギ[剥]とり、ハキ[掃]だすハキダス 姿。
ハク[著・帯・佩]動四。身に
つける。*タチ・クツを
ハク 姿は、オビ・クツが タチ・アシを パクル(クワエコム)姿と 解釈する ことも でき、ぎゃくに タチ・アシが パクル (ジャマな 部分を ハギ[剥]とり・ハキ[掃]だし、そこへ ハキ[吐]こむ) 姿と 解釈する ことも できる。→ハカマ[袴・褌]。
ハク[著](動下二) はかせる。
ハグ[剥](動四) 剥ぐ.そぎとる。→ハガス[剥]・ハガ
ツ[剥・廃]。
ハケ[刷毛] 刷毛。*ハク[著・帯]ケ[毛]。
ハゲム[励](動四)心を
奮い
おこす。*ハケ[刷子・羽毛] ム[産](ハケを かけられる)姿 か。
ハコ[箱] 箱。*ハク[著・帯・穿] もの。パクパク・パクル もの。容器。ハコに いれると、ハコビ やすく
なる。→ハコブ[運]. ⇔ハカ[墓]。// bag, pack, package,
ササキの 語音構造
ミササキ・ミササギという
語形で
通用して
いる
よう
ですが、ここでは、かざりの
ミ[御]を はずし、ササキとして とりあげる ことに します。また、ササキ
など
s-s-kの 音形に ついても、s-k音語の 例として 議論を すすめます。ササキ[陵]に ついては、ササキ[狭狭城]と 解釈する 説も あります。
s-k音の コトバは、日本語の 語彙体系の 中で 重要な 単語家族を 組織して います。上代語の 段階で、サク[割・裂・放・離・咲・開]・シク[敷・布]スク[鋤・空・漉]・セク[塞]・ソク[退・除] などの 2音節動詞が 成立して おり、その まわりに たくさんの s-k音語 (名詞・形容詞 など)が 成立して います。ここで、『上代編』から
sak- 2音節語 だけ ひろって 紹介します(各項 *印)以下は イズミの 私見です)。
サカ[坂] 坂。*動詞 サク[裂・割]の 名詞形。サカレタ[裂]
地形。
サカ[界・境] 境界。サカヒ とも。*A地区とB地区とに サ
キ[裂・割] ワカレル ところ。
サカ[冠] 鳥のとさか。*トカサ
=ㇳ(トリ)+
サカ[坂・
逆・冠]。
サカ[尺] 長さの 単位。*次項と 同系。サク 作業の 量。
サカ[積・斛] 量の 単位。[考]セキ[積]の 字音 から 成立した
語で あろう。
サカ[酒] サケ[酒]の 交替形。*サカ・サケ[酒]は、動詞サク[裂・割・咲]の名詞形。穀物がサカレ[裂]、酵母の作用でサカレテできたもの。
サカ[逆] 形状言。下から 上、後から 前 など 逆に なる 意を 表わす。*サカサマ=サク
サマ。草木の
枝や
葉は、天に
むかって
(サカサマニ)サキわかれ・サカエつづける。しかし、栄えれば栄えるほど、重力の法則で、そのサキ(先端)は垂れサガルことになる
サキ[前・先] ①前方。まえ。②先ぶれ。③先端。④以前。[考]岬の 意の サキも これに 基づく。
サキ[岬] 山・岡・島 などの 突き出した 端の 所。*サキ
[裂]分かれる地形。
サキ[幸・福] 幸い。栄え。副詞
サキク・動詞
サキハフは
これ
からの
派生。*サキヘサキへと延びる(成長する)
姿。また、財産が手にはいること。⇔サチ[幸]。
サク[割・裂](動四・他) ①ひき裂く。二つに 分ける。②目尻 などを 裂いて、入れ墨を
する。*サ[箭・矢]+ク[來・刳]の構造。ヤジリなどのハモノでカチワル・サク[裂・割]姿。
サク[咲・開](動四) 咲く。つぼみの 形から 花弁が 開く ことを 表現した もので、サク[裂]よりの 意味分化で あろう。*ヤマトコトバの動詞サクはただ1語だけと考えてよい。活用形のちがいは大同の中の小異にすぎない。漢字の字形は参考にするだけでよい。
サク(動四) 波が
くだけて
白く
見える。波立つ。[考]天然現象や 人体生理 などの、人の意志を こえた ことがらを 述べる ときに、しばしば
他動詞を
自動詞的に
用いる
表現法を
とる
ことが
ある。これも
その
一種で、前項
咲クも
同様、…*波がサケルのも花びらがサケルのも、おなじ姿。
サク(動四) 放つ。遠くへ やる。サク[放](下二)の 古形か。
サク(動上二) 裂けるの 意か。
サク[放・離](動下二) サカル[疎]四に たいする 他動詞。放
つ。離す。退ける。
サク[放・避](動下二) 離れる。よける。*サク[裂]と サク
[避]は、客観的には 同一現象。
サク[割](動下二) 二つに 割れる。
サケ[酒] 酒。キとも。サカを 交替形と する。
漢語音・英語音との
関係 など
できれば 漢語・英語のpk音やs-k音との 関係 などに ついても 議論して みたかったのですが、かないません でした。
s-k音 日本語の 語源に ついては、『上代編』でも 「サカ[積・斛]は、セキ[積]の 字音 から 成立した 語で あろう」と 指摘して います。また、ササキ[狭狭城・佐佐木]・サザキ[雀]などの 語音の カゲに、なんとなく 漢語音 サク[作・削・索] などに 通じる 姿を 感じることも ある のですが、今回は
そこまで
サグル
ことがで
きません
でした。
英語の 世界 でも、s-k音の コトバ には、サク・サケル[裂] 姿を もつ ものが たくさん あります。たとえばskin皮膚、scaleウロコ・ものさし、skiスキー、skill(裂く)技術、seekサガス、など。
このつぎは なんとか して、日漢英の p-k 音や s-k音の 対応関係に かんする 議論を提案 できる ように したいと 考えて います。
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