『古事記』解釈の
キーワード⑥
サ[沙]の銅器銘文
サイ[西] の甲骨文
シ[死] の甲骨文
『古文字類編』(高明編、中華書局) から、サ[沙]の 銅器銘文 および サイ[西]・シ[死]の 甲骨文を 引用させて いただきました。
ザル[笊]の 目を 通りサル[去]、サラス[晒]
sar音 漢語の 代表 として、まず サsar砂・沙shaの 字形・音形を とりあげます。
漢字サ[沙]は、「水+少」の 会意文字で、水に
洗われて
小さく
ばらばらに
なった
砂のこと(画像参照)。上古音は
sarでしたが、途中で 語尾子音-rが 脱落、現代音は shaと なって います。
それでは、日本語で
スナsunaと 呼ばれる ものが、上古漢語では どうしてsarと 呼ばれた ので しょうか?
単純に 考えて、「ザルの 目を サラリ・スラリと 通り サル[去] もの=sar[沙・砂]」と 解釈して みても よいかと 思います。『学研・漢和大字典』でも、「サ[沙]…サツ[殺](ばらばらに する、そぎとる)・サン[散](ばらばらに した 肉)と 同系の ことば」と 解説しています。
サsar沙・砂shaの 基本義は、「バラバラに
そぎとる
姿」とも
いえますし、また「通りサル[去] 姿」、「途中で 身を ソリ[剃] 落とされた 姿」、「(その結果) 粒が ソロフ[揃] 姿」とも いえるで しょう。
ser音の漢語…サイser西・晒・細xi// ser洒shai// サイ・セイser棲xi, qi//
サイser西は、トウ[東]の 反対語で、「太陽が 大地と セリあいの 末、地平線の 下に 沈み サル
方向」。トウ[東]の 字形に ついては、もと「袋型の モノを ツキトオル
姿」で、「トウ[棟](屋根を 通す 棟木)・ツウ[通](とおす)・ドウ[動](上下に つきぬけて 動く)と 同系」と 解説されて いました。ここで、サイ[西]の 字形に かんする 解説を 見て みましょう(あわせて画像参照)。ざる・かごを 描いた 象形文字で、セイ[栖](ざる状の 鳥の巣)に その 原義が 残る。…日の光や 昼間の 陽気が、ざるの目 から ぬける ように 流れ去る 方向、つまり「にし」を意味する ことと なった。セイ[洒](さらさらと流し去る)・セン[遷](形を 残して 中身がうつり去る)と 同系の ことば(『学研・漢和大字典』)。
サイser晒は、日光や 水の 流れに サラス こと。食材や 衣料などの 一部(ヨゴレ など)を サラス[去] 姿。
サイser洒は、さらさらと 分散して 水を 流す こと。西・細・四・洗と
同系。
サイser細は、こまかく 分かれる さま。
サイser栖は、ザル状の 鳥の ス[巣]。やがて スマイ[住居]・スム[住]の 意に。
サイser棲は, 栖が 本字。ねぐらを 設けて スム[住] こと。
sier音の 漢語…シsier死・私si //
シsier死は、「歹(ほねの
断片)+人」の
会意文字で、人が
死んで
骨きれに
分解することを
あらわす(画像参照)。サイ[細] などと 同系の ことば。⇔サラバフ(雨露に サラサレ、骨だけと なる)。
シsier 厶は、三方から 囲んだ 姿を 示す 指事文字。私の 原字で、細かく わけて自 分の分だけ 囲いこむ こと。「(他の ものと 区別して)トリサル[取去]、セリダス[競出・迫出]、サラフ[浚] 姿」と 見る ことも できる。
シsier私は、「禾+音符厶」の
会意
兼
形声文字で、収穫物を
細分して、自分の
だけをかかえこむ
こと。
ソエル・ソロエル姿
dzer音の 漢語…サイ・セイ 1558 dzer斉qi// サイ・セイdzer剤ji// ザイ・セイdzer臍qi.臍//
サイ dzer斉は、もと ◇印が 三つ そろった さまを 描いた 象形文字。ととのえる。そろえる。
サイdzer剤は、薬の 材料を 同じ 大きさに 切りソロエタ もの。
セイdzer臍は、斉然 として 人体の 中央に ある 部分。へそ。
tser音の 漢語…セ・サイtser斎zhai// サイ・セイtser済ji// サイ・セイtser齎ji//
サイtser斎は、ととのえる、そろえる
こと。いつく。いつき。
サイtser済は、川の 水量を 過不足なく 調整する こと。ととのえる。そろえる。
セイtser齎は、金品を そろえて さし出す こと。もたらす。
ts’er音の 漢語…サイ・セイts’er妻・凄qi//
サイts’er妻は、「又(て)+
カンザシを
つけた
女」の
会意文字で、家事を
あつかう
成人女性を
示す。 つま。めあわす。斉と
同系。
セイts’er凄は、ヒサメ[氷雨]の 雨足が そろって 寒く、すさまじい さま。
tsier音の 漢語…シtsier姿・資zi//
シtsier姿は、「女+音符 次」の 会意 兼 形声文字で、女が ざっと 顔や 身なりを 整える さま=スガタ[素形]。ジ[次]は、「二(そろえる)+欠 (身を かがめる さま)」の 会意文字で、「ざっと 身の まわりを 整理する」、「順番に 並べる」の 意。
シtsier資は、金銭や 物品を ざっと そろえて、用立てる
こと。
次回は、s-r音の 英語
ここまで、ざっと
s-r音の 漢語を サラって みました。現代漢語には 表われ ない 語音なので、上古音で
どれほど
流通して
いたか
見当が
つか
なかった
のですが、いざ
とりかかって
みると、案外
スラスラ・スルスル・ズラリ・ゾロゾロ、おおくの s-r音語が ソロって いた ことが 分かり ました。もっと 時間を かければ、サラなる 新発見も 期待できますが、とりあえず これだけ でも、日漢英の 音韻比較の ために 多少なりとも 役だつ ことと 思います。
おそく なりましたが、次回は いよいよ s-r音 英語の 音韻感覚を さぐります。
0 件のコメント:
コメントを投稿