…k-n音の 漢語 ③…
「漢字物語」193イラスト
k-n音 漢語の
問題点
きょうは k-n音 漢語に ついて いちおうの マ トメを したいと 思います。宿題 として アトマワシに していた 問題も 二つ ありました。
①
Kan[干]と kuan[完]との 関係
②
Kam[甘](上古音)とkan (現代音)との 関係
ほかにも いろいろな 問題が あるかと 思いますが、いまは これだけでも 精いっぱい。あとは つぎの 機会に ゆずる ほか ありません。
「五十音図」と「ん」の関係
じっさいにk-n音の 日本語と 漢語の 比較作業を すすめて みると、わりきった
つもりで
いても、やはり
k-やn-で 表記して いる 日漢 両言語音の 微妙な ちがいが 気に なります。たとえば、日本語では 清音を k-、濁音をg- として 区別して いるが、漢語では有気音を
k-、無気音を g- として 区別して います。また、日本語の
母音は
「カネ=ka + ne」 などの ような 単母音用法が 基本ですが、漢語では
kan[干]・ken[艮] などの ほかに、kuan [完]・kuen[困] などの ような 複母音 としての 用法が たくさん あります。
そこで、日漢のk-n音語 比較を すすめる まえに、まず 日漢 それぞれの n-音の 実態をたしかめて おきたいと 思います。
ヤマトコトバと 漢語と では、基本に なる 音節の
構造が ちがいます。ヤマトコトバは開音節で、CV型 (母音終わり)。カヌ[兼]はka + nu です から、2音節として 計算されます。これに くらべ、漢語の 音節は すべて 閉音節で、CVC型 (子音終わり)。カン[干]kanは、前後を 子音で かこまれた 1音節と 計算されます。
「五十音図」は もともと ヤマトコトバの 音韻組織を 説明する ための 音図です から,音節モジ(カナ) だけで 用事が すみました。ところが やがて、ヤマトコトバの 撥音便(噛んで・死んで・飛んで)や
漢語kan干、san散、tan単 などの 語音を 表記するために 音素モジが 必要に なり、「五十音図」の ワクを はみだした「ん」を 設定する ことに なりました。
撥音便は、具体的には つぎの ような 音韻変化を 経過して 発生したと 考えられます。
死にて sinite → sinide → sinde
死んで。*niの 母音-iが 脱落し、後続子音 -tが -dに変化。
噛みてkamite
→ kamde → kande
噛んで。*子音m-が n-に 変化。
飛びて tobite
→ tomite → tomde→ tonde 飛んで。*子音 b-が n-に 変化。
m-子音が n- に 変化した 例に ついては まえにも 指摘した とおり ですが(1/21 「カヌ[兼]姿、カム[噛]姿」)、ここでは b-子音も n-に 変化して います。
なお、漢語では「kan干」の -nは 単なる 音素に すぎませんが、日本語では「sinde 死んで」の -nは、母音ゼロの まま、1音節
として
計算されて
いる
ようです。
[元・完]グループ
の 字形と
意味
ここから ようやくkan[干]グループと kuan[元・完]グループとの 関係を さぐることに なります。
まずは これまで どおり、小山鉄郎 さんの 「漢字物語、元の字編」(北日本新聞
連載、「白川静文字学入門」193)の解説要旨 および はまむらゆう さんの イラストを ご紹介します。
「頑固」の「頑」、「完成」の「完」には「元旦」の[元]の字がふくまれている。「元」の上の[二]はヒトの首の部分を示し、ジン[儿]は横から見た人の形。「元」の場合はその上にある「首」を強調する形。
人体で最も重要な部分なので「元首と言い、カシラ[頭]」の意味となり、さらには「もと」の意味や「時の初め」の意味にもなった(「元旦」など)。
「完]のベン[宀]はミタマヤ[廟]の屋根の形。「完」は、戦場で頭部を失わず、命をマットウ[完・全]して帰ったことを先祖に報告する儀式を表わす。
カン[冠]は廟の中で、手で頭の髪を結い、カンムリ[冠]をつけた姿。成人・元服の儀式。
ガン[頑]は重い頭を支えて曲がらない首の部分。力が強く、カタクナな姿。「頑固」、「頑健」などと言う。
ごらんの とおり、小山さんは 字形[元]を 共有する 漢字 [元・完・冠・頑]を とりあげ、字形と
意味との
関係を
分かりやすく
解説されました。この
解説を
もとに
して、こんどは
コトバ
(音声言語)と 意味との 関係を さぐる ことに します。
kuanグループ 漢語音の
基本義
[元]の 日本漢字音は 現代カナヅカイで
ゲン・ガンと なって いますが、歴史カナヅカイでは
グェン・グヮンでした。
ここでは kuanグループ 漢語音の 共通基本義を 考える のが 目的 なので、[元・完]グループ
だけで
なく、クヮン[関・官・管・巻]や コン[困・梱] などに ついても、まずその
音形を たしかめて おきます。
クヮンhuan完wan// guan冠guan// kuan関guan// kuan官guan// kuan管guan// kuan貫guan// kiuan巻juan//
グヮンnguan元yuan// nguan頑wan//
クェンgiuan拳quan//
コンk’uen困kun// k’uen梱kun//
こうして 見ると、どの 音節もk-n音という 子音の ワクで かこまれて いる だけ でなく、まん中の
母音も
uaという 二重母音であり、結果としてuanという ヒビキを もつことに なります。Uan(=wan)と いえば、ワン[椀・碗・腕・湾]などを
連想させる
音形です。
コンk’uen困・梱kunの ばあい、現代音が 短母音の ような 表記に なって いますが、じつは kuenと 表記すべき ところを 実用面 から 簡略表記した もの です。
ここで、クヮン グループ 漢字の 音形と
意味の 関係を 個別に チェックして みます。
クヮン冠は、「冖(かぶる)+寸(手) + 音符 元」。「丸い 冠を 手で カブル」姿。
クヮン関は、前述の とおり、「AとB、双方の カネアイを はかる カナメ」の 役割(1/31号参照)。また、「ヒモや
カンヌキを
通す
姿」から「クヮン官・管」にも 通じる。→関門・関節。
クヮン官は、「家屋に おおぜいの 人が 集まった さま」。クヮン館と
同系。周囲を
丸くカコム 姿。
クヮン管は、「竹+官」。(丸く 中空の)クダ(状の もの)。つかさどる。→血管・管理。
クヮン巻は、「両手を からませた 形(ザル・カゴ)に
して、ものを
受けとめる」姿。
グヮン元は、グヮン丸と
同系。「胴体の
上に
乗る
丸い
頭」。乗りコナス姿。やがて「もと・はじめ」の 意に。
グヮン頑は、[元]と 同義。「胴体に 乗る 丸い
頭が、落ちずに
ツナガッテ
いる
姿」。⇔カタクナ・クナガフ・クナタブレ。
クェン拳は、クヮン巻と 同系。「手を 丸く 握りしめる」姿。こぶし。
コン困・梱は、「木を 囲いの 中に 押しこめ、動かない
ように
縛りつける」姿。⇔コム・コメル・コモル・コマル。
このへんでkuanグループ 漢語音の 基本義を まとめたい のですが、なかなか
むづかしいですね。「トモダチの
トモダチは
トモダチだ!」という
コトバが
あります。この
論法で
いうと、a to z、シャバ中の 人間が ぜんぶ トモダチに なって しまう。そんなの ナンセンスだ とも いえます。しかし、kuanグループ 漢語音の 正体を たずねて みると、どうやら「トモダチの
トモダチ」関係に
ちかい
ように
思われます。
「クネクネ 曲がって ツナガル・ツナグ姿」とでも いえば、クヮン[関・官・管・巻・冠]・グヮン[元・頑・丸] などの コトバが
みんな 根っこの ところで つながって いる 姿が 見えて くるかと 思いますが、いかが でしょうか?いいかえれば、「一枚 カンデ
いる」という
関係です。
kuan音は、kuen音とも 共通項が あります。コン困・梱は「カコミの 中に 押しこめられた 木」の 姿。その カコミ とは「クネクネ 曲がって、つながった
形」です。k-m日本語で 「コマル」と いいますが、k-n音で いえば「コナされる」、「コネられる」 姿 です。
kam音とkan音との 関係
今回は「kam[甘](上古音)とkan (現代音)との 関係」を とりあげる 予定で 書き はじめた のですが、途中で 道草を 食って いる うちに 予定の スペースを こえて しまいました。申しわけ ありません。
しかし、kam甘kanに かぎらず、m-子音が n-子音へ 変化した 例は たくさん 見つかって います。しかも、この種の 音韻変化は、漢語 だけ でなく 日本語 (ヤマトコトバ) でも 多数 みられる 現象です。さらに
いえば、この
音韻変化に
よって、コトバ
(k-n音語など) の 意味用法を 複雑な ものに した ことが 考えられます。
このような 現象が 日本語・漢語
だけの
もの
か、それとも
英語 など でも 共通に 見られる 現象 なのか、まだ たしかめて おりません。できれれば、そのへんの ことも ふくめ、あらためて
報告させて
いただきたいと
考えて
います。
次回は、「k-m音の 英語」を とりあげる 予定です。
0 件のコメント:
コメントを投稿