2013年11月15日金曜日

ツツム 姿は、フクム 姿


p-k音の漢語①


 

「漢字物語」126、イラスト




ホウ[]は、「胎児を ツツム 姿」
きょう から p-k音の 漢字・漢語を とりあげます。まずは、北日本新聞 連載中の 小山鉄郎編「漢字物語」126、「包」の字編を 要約して ご紹介します。

ホウ[包]の字形は、「妊娠した女性の姿」、「腹の中に胎児のいる姿」。ホウ[]は、横から見た人の形。[]にふくまれる[]の旧字形はシ[](胎児の姿)。妊娠すること=はらむこと。やがてつつむ・いれるの意味に。以下、[]をふくむ漢字を列挙:

ホウ[] 手で包む姿。

ホウ[] 胎児を包む薄いまくや胎盤。えな[胞衣]

ホウ[] 水が空気を中に包みこみ、膨らんだ状態。

ホウ[] 食事をとって腹がふくらみ、満ちたりた状態となること。

小山 さんの 解説と はまむら さんの イラストで よく わかる とおり、字形[] (ツツム姿) ベースに して、同音の ホウ[抱・胞・泡・飽] 成立して います。このことは、ホウ[抱・胞・泡・飽] すべて 基本義「ツツム姿」を 共有して いると いう こと です。

このような現象は、漢語 だけ では ありません。たとえば ヤマトコトバの [刃・歯・葉・羽・端]・フ[生・節・言・乾・経・歴]・ホ[帆・穂・秀] など。一見、ばらばらな 意味の コトバの ヨセアツメの ように 見えますが、よくよく 考えて みると、それぞれの グループ ごとに 共通基本義が 成立して いる ことが 分かります。

さて、せっかくの 機会です から、このあと もう すこし テマヒマ かけて、「どうして p-k なのか?」、「p-k 以外 でも 同義語が ある のでは ないか?」、「日漢英の p-k音語は 相互に 対応関係を もって いるか?」などの 問題に ついて 考えて みたいと 思います。

 
ホウ[包・抱・胞・泡・飽]は、もと 1語か
できるだけ 正確な 議論を したい ので、漢字音に ついては、日本漢字音 だけ でなく、上古音や 現代音も 参考に して 話を すすめます。おつきあい ねがいます。

はじめに、ここで とりあげる ホウ音 漢字の 上古音・現代音を たしかめて おきます。

ホウ(ハウ)pogbao//  bogbao//  p’ogbao//  p’ogpao//  pogbao

ごらんの とおりのp-k音語。上古音はpog bog、現代音もbao pao なって います。語頭子音の p-b‐の ちがいは、コトバの 意味の ちがいを もたらす ほどの ものでは ありません。日本語 でも、ヒクヒク・ビクビク・ピクピク などは、基本義「こまかく・ふるえる 姿」を あらわすp-k音語です。

単語家族 ホウ[包・抱…] 成立に ついて、こんな ふうに 解釈して みました。

はじめに「ツツム姿」を あらわす コトバとして ホウ[] うまれ、それが やがて いろいろな 場面で 動詞・名詞 など として つかわれる ように なりました。表音モジの 感覚 なら、すべて [] 表記する ところ ですが、漢字は 表意モジの 感覚 なので、「手を つかう ホウ[]」、「水の ホウ[]」の ように、分類記号を つけて 区別する ことに しました。

ホウ[] ホウ[抱・胞・泡・飽] チガイは、もともと「大同の 中の 小異」です。同源の 1 ホウ[] いろいろな バリエーションを もつ ように なったと 考えて よいと思います。

 
音形が 意味を キメル
「ホウ[抱・胞・泡・飽] ホウ[] 発音を あらわす だけの 音符で、意味とは 関係がない。扌・月・氵・食 などの 記号が 意味を あらわす」などと いう 人が いる ようですが、それは マチガイです。漢語音 ホウ[] ばあい、ホウpogbao いう 音形 そのものが「ツツム 姿」を あらわして います(音声と 意味の 対応関係に ついては、前回の「p-k音の 日本語」を 参照)

コトバの 意味を キメル のは 音声・音形 そのもの です。具体的には、母音 よりも 子音の チガイが 決定的な 役割を はたします。
 

p-k音が あらわす 意味
ところで、客観的・合理的に 考えて みる として、p-k音が あらわす ことが できる 意味とは どんな 姿で しょうか?

ホウpogbao ついて、小山さんは「包む姿」と 解説されました。わたしも そのとおりだと おもいます。しかし、pog包は p-k音の コトバ。ツツムは t-t-m音の コトバ です。漢語pog包に 対応する ような p-k ヤマトコトバは ない もの でしょうか?

前回「p-k音の 日本語」で 紹介した とおり、ヤマトコトバのp-k音には ハク・ヒク・フク・ヘグ・ホク・ホグ・ハカル・ヒカル・フクム・フクル・ヘコム・ホコル などの 動詞が あり、ハカ・ハコ・ヒコ・ホコ などの 名詞が あります。

さしあたり まず 漢語pog包に 対応する 日本語 として、動詞 ホク・ホコル・フクム・フクラム、名詞 ホコ・ホコリ・フクミ・フクラミ などの 意味用法を とりあげて みたいと 思います。

 
ホコは 柄の 先を フクム(ツツム) 姿
ヤマトコトバでは、口の 中に 穂を フクム 姿が ホクです。また、ヤリと よく にた 武器で、その 一端を 柄に かぶせる 穂袋式(ソケット状) ものが ホコ[](異説もあります)。ポッカリ 口を ひらいた フクロ の中に 柄を フクマセル 姿です。

ついでに いえば、ホク・コトホク 姿は ホガラカ[]で、また ホコラカ[]です。そして、マタ[] ひらいて 柄に マタガル[] ホコ[] 姿も ホガラカで、また ホコラカな 姿です。

 
ツツム 姿は、フクム 姿
ホウpogbao 基本義に ついて、はじめに 小山さんが 「ツツム姿」と 解説されました.たしかに そのとおりだと 思います。ただし、pog包は p-k グループ、ツツムは t-t-m グループの コトバです。そこで、せっかく ならp-k グループの ヤマトコトバで 対応 できないかと 考え、フク・フクル・フクム・ホク・ホコ・ホコル などの p-k音語を ヒキあて ました。気がついて 見ると、「ツツム 姿」は、たしかに 「フクム 姿」です。ホウ[包・抱・胞・泡・飽] すべて「フクム 姿」として 解釈できます。ホウ[]は、フクロの 姿。[]は、腕の 中に フクマセル 姿。[]は、おなじ フクロ(オフクロ) から 生まれた 兄弟です。

 
日漢 p-k音語の 対応関係
さて、ある「事物の姿」を p-k音の 線で とらえる ことが でき、また t-t音の 線でも とらえられる ことが わかりました。あるいは、第3、第4 音形で とらえる ことも できそうです。たとえば、ホウ[] 字形は、ダク とも、カカエル とも よみます。つまり、t-k音や k-k音の 線で とらえる ことも できる はずです。

まだまだ わずかな 語彙資料 しか ありませんが、日本語と 漢語の 双方にp-k音語が 成立して いた こと、そして 意味用法に おいても かなりの 対応関係を もって いた ことが 推定できる ように なりました。このことが、やがて 日漢英の 音韻比較への 道に つながる ことを 期待したいと おもいます。
p-k音の 漢語」は、このあとも つづけます。
 


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