p-k音の漢語①
「漢字物語」126、イラスト
ホウ[包]は、「胎児を ツツム 姿」
きょう から p-k音の 漢字・漢語を とりあげます。まずは、北日本新聞
連載中の
小山鉄郎編「漢字物語」126、「包」の字編を 要約して ご紹介します。
ホウ[包]の字形は、「妊娠した女性の姿」、「腹の中に胎児のいる姿」。ホウ[勹]は、横から見た人の形。[包]にふくまれる[己]の旧字形はシ[巳](胎児の姿)。妊娠すること=はらむこと。やがてつつむ・いれるの意味に。以下、[包]をふくむ漢字を列挙:
ホウ[抱] 手で包む姿。
ホウ[胞] 胎児を包む薄いまくや胎盤。えな[胞衣]。
ホウ[泡] 水が空気を中に包みこみ、膨らんだ状態。
ホウ[飽] 食事をとって腹がふくらみ、満ちたりた状態となること。
小山 さんの 解説と はまむら さんの イラストで よく わかる とおり、字形[包] (ツツム姿)を ベースに して、同音の ホウ[抱・胞・泡・飽]が 成立して います。このことは、ホウ[抱・胞・泡・飽]が すべて 基本義「ツツム姿」を 共有して いると いう こと です。
このような現象は、漢語 だけ では ありません。たとえば ヤマトコトバの ハ[刃・歯・葉・羽・端]・フ[生・節・言・乾・経・歴]・ホ[帆・穂・秀] など。一見、ばらばらな
意味の
コトバの
ヨセアツメの
ように
見えますが、よくよく
考えて
みると、それぞれの
グループ
ごとに
共通基本義が
成立して
いる
ことが
分かります。
さて、せっかくの 機会です から、このあと もう すこし テマヒマ かけて、「どうして p-k音 なのか?」、「p-k音 以外 でも 同義語が ある のでは ないか?」、「日漢英の p-k音語は 相互に 対応関係を もって いるか?」などの
問題に
ついて
考えて
みたいと
思います。
ホウ[包・抱・胞・泡・飽]は、もと 1語か
できるだけ 正確な 議論を したい ので、漢字音に ついては、日本漢字音 だけ でなく、上古音や
現代音も
参考に
して
話を
すすめます。おつきあい
ねがいます。
はじめに、ここで とりあげる ホウ音 漢字の 上古音・現代音を たしかめて おきます。
ホウ(ハウ):pog包bao//
bog抱bao//
p’og胞bao//
p’og泡pao//
pog飽bao。
ごらんの とおりのp-k音語。上古音はpog かbog、現代音もbao かpaoと なって います。語頭子音の p-とb‐の ちがいは、コトバの 意味の ちがいを もたらす ほどの ものでは ありません。日本語 でも、ヒクヒク・ビクビク・ピクピク などは、基本義「こまかく・ふるえる 姿」を あらわすp-k音語です。
単語家族 ホウ[包・抱…]の 成立に ついて、こんな ふうに 解釈して みました。
はじめに「ツツム姿」を あらわす コトバとして ホウ[包]が うまれ、それが やがて いろいろな 場面で 動詞・名詞 など として つかわれる ように なりました。表音モジの 感覚 なら、すべて [包]と 表記する ところ ですが、漢字は 表意モジの 感覚 なので、「手を つかう ホウ[抱]」、「水の ホウ[泡]」の ように、分類記号を
つけて
区別する
ことに
しました。
ホウ[包]と ホウ[抱・胞・泡・飽]の チガイは、もともと「大同の
中の
小異」です。同源の
1語 ホウ[包]が いろいろな バリエーションを
もつ
ように
なったと
考えて
よいと思います。
音形が 意味を キメル
「ホウ[抱・胞・泡・飽]の ホウ[包]は 発音を あらわす だけの 音符で、意味とは 関係がない。扌・月・氵・食
などの
記号が
意味を
あらわす」などと
いう
人が
いる
ようですが、それは
マチガイです。漢語音
ホウ[包]の ばあい、ホウpog包baoと いう 音形 そのものが「ツツム 姿」を あらわして います(音声と 意味の 対応関係に ついては、前回の「p-k音の 日本語」を 参照)。
コトバの 意味を キメル のは 音声・音形 そのもの です。具体的には、母音 よりも 子音の チガイが 決定的な 役割を はたします。
p-k音が あらわす
意味
ところで、客観的・合理的に 考えて みる として、p-k音が あらわす ことが できる 意味とは どんな 姿で しょうか?
ホウpog包baoに ついて、小山さんは「包む姿」と
解説されました。わたしも
そのとおりだと
おもいます。しかし、pog包は p-k音の コトバ。ツツムは
t-t-m音の コトバ です。漢語pog包に 対応する ような p-k音 ヤマトコトバは ない もの でしょうか?
前回「p-k音の 日本語」で 紹介した とおり、ヤマトコトバのp-k音には ハク・ヒク・フク・ヘグ・ホク・ホグ・ハカル・ヒカル・フクム・フクル・ヘコム・ホコル などの 動詞が あり、ハカ・ハコ・ヒコ・ホコ
などの
名詞が
あります。
さしあたり まず 漢語pog包に 対応する 日本語 として、動詞 ホク・ホコル・フクム・フクラム、名詞 ホコ・ホコリ・フクミ・フクラミ
などの
意味用法を
とりあげて
みたいと
思います。
ホコは 柄の 先を
フクム(ツツム) 姿
ヤマトコトバでは、口の 中に 穂を フクム 姿が ホクです。また、ヤリと よく にた 武器で、その 一端を 柄に かぶせる 穂袋式(ソケット状)の ものが ホコ[矛](異説もあります)。ポッカリ 口を ひらいた フクロ の中に 柄を フクマセル 姿です。
ついでに いえば、ホク・コトホク 姿は ホガラカ[朗]で、また ホコラカ[誇]です。そして、マタ[股]を ひらいて 柄に マタガル[跨] ホコ[矛]の 姿も ホガラカで、また
ホコラカな
姿です。
ツツム 姿は、フクム 姿
ホウpog包baoの 基本義に ついて、はじめに
小山さんが
「ツツム姿」と
解説されました.たしかに
そのとおりだと
思います。ただし、pog包は p-k音 グループ、ツツムは
t-t-m音 グループの コトバです。そこで、せっかく ならp-k音 グループの ヤマトコトバで 対応 できないかと 考え、フク・フクル・フクム・ホク・ホコ・ホコル などの p-k音語を ヒキあて ました。気がついて 見ると、「ツツム 姿」は、たしかに
「フクム
姿」です。ホウ[包・抱・胞・泡・飽]は すべて「フクム 姿」として 解釈できます。ホウ[包]は、フクロの 姿。[抱]は、腕の 中に フクマセル 姿。[胞]は、おなじ フクロ(オフクロ) から 生まれた 兄弟です。
日漢 p-k音語の 対応関係
さて、ある「事物の姿」を p-k音の 線で とらえる ことが でき、また t-t音の 線でも とらえられる ことが わかりました。あるいは、第3、第4の 音形で とらえる ことも できそうです。たとえば、ホウ[抱]の 字形は、ダク とも、カカエル とも よみます。つまり、t-k音や k-k音の 線で とらえる ことも できる はずです。
まだまだ わずかな 語彙資料 しか ありませんが、日本語と 漢語の 双方にp-k音語が 成立して いた こと、そして 意味用法に おいても かなりの 対応関係を もって いた ことが 推定できる ように なりました。このことが、やがて
日漢英の
音韻比較への
道に
つながる
ことを
期待したいと
おもいます。
「p-k音の 漢語」は、このあとも つづけます。
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