「カード64」、p-k音
p-k音日本語について
これまでにも、p-k音の コトバを とりあげた ことが あります。
「ヒゲの 剃り杭」(12-9-12号)、「尾 ある 人、ヰヒカ」(12-9-18号)を 参照。
そこでは、日本語の p-k 2音節 動詞 ヒク[弾・引]を 中心に ヒカ[氷鹿]・ヒカリ[光]・ヒゲ[髭]・ヒコ[日子・彦]などの 語音構造に ついて 考えて みたり、あわせてpick, picker, peak, peek,
peck, picket, pike, poke など p-k音の 英語と 比較して みたり しました。
こんど、あらためて 日漢英の p-k音語を とりあげる ことに しました。すこし
腰を
すえて、できるだけ
まともな
音韻比較を
して
みたいと
願って
います。
まずは、p-k音の 日本語 から。
はじめに ことわって おきますが、日本語の ハ行音は もともとh-音では なく、f-やp-のような クチビルの 音 だったと されて います。したがって、ハfa・バba・パpaは、まとめてp-音 グループとして あつかう ことに して います。現代日本語 では、ハ行子音が
h-音に 変化して いる ものが おおい ことは 事実 ですが、音韻比較には やはり もとの 語音(音形)を とりあげないと、正確な 議論に なりません。ただし、あまり ややこしい 議論は、べつの 機会に ゆずります。
パクパク・パクリ・パクル
口を おおきく 開いて クイツク 姿を パクルと いいます。動詞 パクルの 連用形 兼 名詞が パクリ。そして、口の 開閉を くりかえす 姿が 擬態語 パクパクと いう ことに なります。
ところで、そもそも そのような 姿 (事実・行為)を どうして パクpakuという 語音で あらわす ことに なった ので しょうか?
ヤボな 質問を するなと いわれる かも しれませんが、<事物の姿>と <語音>との 対応原理
みたいな
ものを
たしかめ
たい
のです。べつに
日本語
だけの
問題では
ありません。その
対応原理関係と
いう
ものは、おそらく
日本語に
かぎらず、漢語・英語、その他の
民族言語にも
通用する
はず
です。そこから、日本語と
外国語との
音韻比較の道が ひらけて くるに ちがい ないのです。
パク=ハク=「ハ[刃・歯・葉]が クル[來]」
単純明快な 議論に なる ように、ここで わたしの 解答(仮説)を だして おきましょう。
ヤマトコトバ では、「1音1義」が 原則 です。たとえばハ(pa, ba, fa)は 漢字で [刃・歯・葉] などと 書き分けられ ますが、もとは「同音同義」の 1語 です。
パ=p+a. いったん クチビルを とじ、口の中に たまった 息を パッと ハキだす 姿で 発声される 破裂音が p- です。音節語尾に
-a母音を もつ パ・バ[場]・ハ[刃・歯・葉]は、p-するもの・ところ などを 意味する 名詞と なります。。
クkuに ついても おなじ です。
ク=k+u. ノドの 奥から 出て きた 息の ながれが 声門で ヒッカカリ、クリヌク
姿で出て
クル(発声される) 破裂音が k- です。したがって、k-音の コトバには カク[掻・欠・書・懸]・クダク[砕]・ケヅル[削]・クル[來・刳] などの 姿が つきまといます。カクや
クル
など、漢字で
書けば
(漢語に翻訳すれば) 複数の 表記法に 分かれる ので、同音異義の
ように
見えますが、ヤマトコトバでは
もともと
同音同義の
1語 です。
つまる ところ、ハクの 基本義は「ハ[刃・歯・葉]が クル[來]」(パクル) 姿 です。
おなじ ハクでも いりいろな ハク[吐・掃・著・帯・佩・履・穿]が あります。
ハク[吐・掃]は、「(不要な モノを) パッと ハキ出す」姿。ハク[著・帯・佩・履・穿]は、「(帯や 靴 などが 刀や 足 などを) パクパク・パクル」姿
です。
ハグ[剥]・ハガスも、基本的に おなじ「パクパク・パクル」姿
です。
このような 見方で コトバの 意味を 整理して みると、<事物の姿>と <語音>との 対応原理が 見えて きます。つまり、<語音>が
あらわす
基本義
とは、<音声を 発声する とき、発声器官に 生まれる
感覚>だと いう こと です。特定の <発声器官の姿>が
特定の
<音声の姿>と 対応する こと から、1音1義の 原則が うまれた わけ です。
同時に また、事物の 種類は 無限大 なのに たいして、発声器官の 姿や 音声の 姿は 種類が 限定される ため、おなじ 姿と みとめられる 事物に ついては おなじ 音形(音声の姿)で あらわす ことに なります。たとえば、ハ[刃・歯・葉]・ハク[吐・掃・著・帯・佩・履・穿] など。
ハク・ハカ・ハコ・ハコブ
ヤマトコトバでは、2音節 動詞 ハク から 多数の 動詞・名詞 その他の コトバが 生まれたと 考えられます。ハク→ハカ・ハカドル・ハカユク・ハキモノ・ハコ・ハコブなど。
ハカ[墓]…動詞 ハクの 名詞形。ハコ型の 木材や 石材 などを ハモノで パクリ、ヘコミ[凹] 部分に 死体を 安置できる ように した もの。死体を パクル 姿と 見ても よい。
ハカ[量・捗]…動詞 ハクの 名詞形。稲カリ・草カリ など、ハク 作業の 量。→ハカドル[捗]・ハカユク[捗]・ハカル[謀・計]・ハカリ[量・斤]・バカリ[許]・ハカリゴト[策・謀]。
ハコ[箱]…動詞 ハクの 名詞形。ハカ[墓・量]の 語尾母音 -aが -oに 変化した 音形。モノを パクル 姿。→ハコブ[運]。*ハコに おさめる ことは、コンパクトcompactな 姿にする こと。やがて ハコブ ことを 意味する。ハコと ハコブ との 関係は、carとcarryとの 関係に ちかい。
ハキモノ[履物]…ハキは、動詞 ハクの 連用形 兼 名詞形。*同類語の クツ[靴・沓]は k-t音語。ハモノで ケヅル・クダク・カット(割・cut) など して 空洞を つくる 姿。<靴が足を パクル 姿>でも あり、<足が 靴を パクル 姿>でも ある。
フカフカ・フックラ・フクラム
2音節 動詞 フクを 中心に、多数の 動詞・名詞 および その他の コトバが 生まれて います。
フク[吹・葺・揮・振・更・深・化・拭]→フカ[深]・フキ[蕗]・フケ[深]・フカス[深・更・蒸]・フカム[深]・フクシ(堀串)・フクム[含]・フクル[肥]・フクロ[袋・嚢]・フケル[貪]。
まず、ハクと フク との 音形の チガイに ついて 考えて みましょう。それは、ハクpakuの 語頭音節 ハpaの 母音が –a から -uに 変化した だけの チガイ です。したがって、ハク音と フク音の コトバは p-k音語 として 共通の 基本義を フクム ことに なります。
ヤマトコトバの フ には、動詞 フ[言・乾・干・嚔・綜・経・歴]、名詞 フ[生]・(縞・節)、接尾語 フ(動作の継続・反覆) などが あります。
ついでに いうと、上代語の 用例に 擬声語の
ブ[蜂音]が あります。ハチが
ブーンと
とぶ
羽音の
ブ音
です。この
ブ音は
空気の
振動音
です
から、<風が
フク>、<コトバを
イフ>、<くしゃみを
する(息を フキだす)> などと おなじ 姿 です。
そこで、語音 フクの 基本義は、「フ[言・生]が クル[來]」姿 と 考えて よい でしょう。
屋根を フク[葺] と いう のは、雨風が フキ[吹]コム 姿を まねて カヤ・イタ・カワラ などを ならべる こと で、ぎゃくに 雨風の フキ[吹]コミを 防ぐ、人間の チエ です。
さらに いえば、イキル とは イキ[息]を する こと。つまり、空気を スフ[吸]・フク[吹・噴](ハク[吐])動作の くりかえし です。この 姿は その まま、動詞 フ[経] (時間が 経過する)・フ[経・綜] (経糸を かける)・フ[言] (音声を フキだす)・フ[乾・干] (水分が フキとぶ) などの 姿 です。
そして、空気や 水分を たっぷり フキこまれた ものが、フカフカ・フックラ・フクラム姿
と
なります。
だんだん 残りの スペースが なくなって きました。以下、簡単に しるします。
ヘコヘコ・ペコペコ・ヘコム
2音節動詞 ヘグ[剥・折・減]は、ハグ[剥]の 交替音 と 見て よい でしょう。ハギとられた
部分は、それだけ
ヘコム
ことに
なります。ヘコヘコ・ベコベコ・ペコペコは、頭や腹部を
ヘコませる
姿勢
です。
ホカホカ・ホクホク・ホク・ホコル
動詞 ホク[祝・祷]は、もと「ホ[穂] ク[來]」で、「口に 穂を フクミ、豊作を 祝福する」行為 だったと 思われます。身も
心も
ホカホカ・ホクホク・ホコル
姿
です。
ホク・コトホク[言寿・賀] ワザを もつ 門付芸人が ホカヒビト[乞食者] です。
ホカ[外]は、もと 動詞 ホクの 未然形 兼 名詞形で、「ホク ところ」の 意味。つまり、ホカホカ・ホクホク、食感を あじわう ところと 解されます。ただし、ホ[穂] そのもの では なく、ホカ[外]の ところ と いう ことに なります。
イネや ムギの 穂を 口に フクム ことは、やがて カム こと であり、その 過程で 穂から モミが ハギとられ、さらには モミガラ から コメが ハギとられます。口の
中に
含まれた
穂に
とって、口が
ホカ[外]で ある ように、モミガラも コメに とっては ホカ[外]と いうことに なります。
ホガラカ[朗・廊]に ついては、ホク[穂來]・ホカ[外]の 音感覚 からも 解釈でき そう ですが、もう 一つ、「ホ[穂]+カラ[殻・空]+カ[処]」の ような 構造の コトバと 解釈するほうが より 合理的 かも しれません。ホカラが ホガラに なる のは、連濁の 法則に よる もの です。
ホコ[矛]は ホカ[外]の 語尾母音が 交替した 音形の コトバ。おなじく、「ホク
ところ」の意味。ホコの
本の
部分が
柄の
先端部分を
包みこむ
(フクム) 姿に なって います。その 姿が やがて 勝ちホコル[誇] 姿に つながります。
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