2012年11月3日土曜日

トブ矢のトリ、アスカのテラ

 
「カード64t-p
 
 
 「カード64t-r
 
 
画像について
2005
年に発表した「カード64」の中からt-p音とt-r音の2枚を紹介します。
8音図」「64音図」では、たとえば日本語のタバ[束・把]・タビ[旅・度]・タフ[耐・堪・勝]・タブ[給・食]・ダブ(ダブダブ)・タフル[]・チバ[千葉]・チビ[]・ツバ[唾・鍔]・ツブ[]・ツブㇽ[潰・瞑]・ツボ[]・デバ[出刃]・デブ(デブデブ)・トバ[鳥羽]・トビ[飛・鳶]・トフ[問・訪]・トブ[]・ドブ[]・トホ[]などをまとめてt-p音語とよび、その共通基本義をさぐります。
さらには、t-p音上古漢語dap[蝶・鰈]dhiep[十・拾]t-p音英語deep, depth, dive, tap, tip, top, table, tape, tipple, tiptoeなどとも比較し、共通項をさぐります。
マクラコトバを考える
前回、「ハルヒカスガ」という枕詞用法をとりあげました。ハルヒが地名カスガにかかる枕詞であることは分かりましたが、どこからどこまでが枕詞なのか、判定基準がよく分かりません。辞典によっては(たとえば「時代別、国語大辞典、上代編、三省堂」)、イハタタス[石立]についてもスクナ御神にかかる枕詞と解説しています。
いっぱんに「枕詞は、被枕詞と同義になる」ようで、つまりは「武士というサムライが、馬から落ちてラクバして、女のフジンにわらわれて、無念ザンネン、腹切ってセップク」などと同類のコトバアソビかと思われます。
今回は1,000語以上あるといわれる枕詞の中から、[](太陽)にまつわるものにしぼって、枕詞のシクミを考えてみることにします。
 
[]にかかる枕詞(印以下にイズミの解釈をしるします)
アカネサス[茜刺]…アカネ色の照り映える意で、日・昼、また君にかかる。昼は、日がサス時間帯。キミ[]はもとキミ[](キビ)で、ヒコ[日子・彦]の姿。
アマザカㇽ[天離]…ヒナ[]にかかるが、かかり方未詳。ヒナは、ヒ(日・日光)がナル(成る、とどく)ところ。また、ヒ[]の所在地アマからサカレタ[裂・離]ところ。
アラタマ[新玉・荒玉]…年・月・日・春にかかる。月・日ともタマ[玉・球]の姿。トシ[]はもと穀物のミノリ(日のメグミ)で、タマ[玉・球]の姿。ハル[]は、もとヒ(日・日光)がハル・ハリツク姿。
タカテラス[高照・高光]…空高く照らすの意でヒ[]にかかる。テラスはt-r音で日のハタラキを表わす語。
タカヒカル[高光・高輝]…空高く光り輝くの意でヒ[]にかかる。ヒカルはp-k音で日のハタラキを表わす語。
ここにあげた枕詞は、すべて太陽崇拝の時代社会を反映したものといえます。まずヒ(日・太陽)を宇宙の支配者・最高神とみとめ、そのヒカリ(日光・威光)をうけて地域や国を支配するものをヒコ[日子](日の御子・皇子)と考えるわけです。
 
[]にかかる枕詞
枕詞をともなうのはヒ[]だけではありません。また、太陽のハタラキを表わすコトバもヒ・ピカ・ヒカリ・ヒコなどp-, p-k音だけとはかぎりません。たとえば、前記テラスではt-r音、フツカ・ミッカのカ[]ではk-音で表現しています。つぎの例をごらんください。
アキヅシマ[秋津島]ヤマトにかかる。アキヅ[蜻蛉]はトンボのこと。トンボは強力なアギ[](アゴ)と細長い体と2対のハネをもつ。魚のエラ[エラ]のこともアギという。つまり、トンボ=キ[]の姿という発想か。キ[]はもとただ1本の木だけだったが、やがて長い取っ手をつけ、威力が倍増した。同時に、「トンボ=矢のように飛ぶキ[]の姿」が完成した。つまり、まずアキヅ(トンボ)がヤにかかり、やがてアキヅシマ(トンボが住むところ)がヤマト(矢があるところ)にかかることになったとも考えられる。さらにいえば、アガタ[]・アカツ[散・班]・アキタ[秋田]・アクタ[糞・芥]や英語act, fact, axe(小野、マサカリ)などの語音も参考。
アシヒキ[足引]ヤマ[]またはそれと類義のヲ[]にかかる。語義・かかり方未詳。アシ[]もアシヒキ[足引]も、ヤ[]の姿。ヤマ[]はヤ[]のマ[]、またヤム[病・止][]、ヤ[]をウム[産・埋][]
シキシマ[磯城嶋・敷島]ヤマトにかかる。かかり方未詳。ヤマトコトバでは、動詞シク[及・敷・布](動四)にいろいろな意味用法があるが、もともとただ1語だと考えられる。その連用形兼名詞形がシキ[]で、キは甲類カナ。「シキ[]に語源を求めることは、シキ[磯城]のキが乙類のためできない」(広辞苑、1956)とされているが、枕詞では甲乙のちがいが無視されていた可能性もある。波・石・菅などをシク[及・敷・布]姿からイシク[射及・射敷][]の姿を連想したものか。
 
トブトリのアスカ
枕詞といえば、地名アスカにかかるトブトリノが有名です。しかし、トブトリ[飛鳥]がどうして地名アスカ[明日香]と結びつくのか考えてみると、なかなかうまく説明できません。天武天皇のとき赤い鳥[赤雉]が献上されたので、年号を「アカミトリ[朱鳥]」に改めたというのですが、1羽の赤い鳥発見がどうして改元するほどの瑞祥とされたのでしょうか。
こうした社会現象を理解するには、当時の人びとの宇宙観や太陽崇拝の具体的な様式などを知ることが必要です。
年号「アカミトリ[朱鳥]」の実体はキジ[]でした。雉の字形は「矢+隹」、つまり「矢の姿をもつトリ[]」です。雉はたしかに赤いトサカをもち、草地を飛びかける姿はまさに「矢の鳥」です。キジ[]=アカミトリ[朱鳥]=矢のように空を飛びかける赤い鳥。といえば、ずばり太陽しかありません。
これでようやく「トブトリのアスカ」の意味が分かりかけてきました。あとはアスカという語音の意味が問題ですが、アスカのアスは[明日]であり、フツカ[二日]のカ、カスガ[春日]のガです。あきらかに日・太陽を連想させるコトバです。さらにいえば、アス[明日]は「矢(アサヒ)がサス」(夜がアケル)姿。アカ[]は「日がヤク・カガヤク」姿、また「朝ヤケで夜がアケル・アカルくなる」姿です。
 
トブ矢の鳥
さいごにトッテオキの歌をご紹介します。奈良の東大寺大仏開眼供養会がおこなわれたとき、アスカの元興寺からの献歌です。
ミナモト[水源()] ノリ[]りし トブヤトリ アスカ[飛鳥]の 歌献る(「東大寺要録」)
この歌では、まずはじめの3句の中に元興寺のナマエを歌いこんでいます。また、そのあと普通なら「トブトリノ」とするところを、わざわざ「トブヤトリ」としています。ナゼでしょうか。
それは、元興寺=トブヤトリ=アスカ[飛鳥]の寺という関係を強調するためです。つまり、トブヤトリは「飛ぶ矢の鳥」。この「ヤ」は、詠嘆の助詞「ヤ」ではありません。ヤトリは、やがて「ヤドリ[矢取・宿]」を連想させるコトバです。
この段階で、初期の太陽崇拝から仏教信仰への変化が見られます。東大寺の大仏は「ビルシャナ仏」とよばれ、その意味は漢語名「大日如来」からも分かるとおり「(太陽がもつヒカリ)」です。
このように見てくると、仏教(ヒカリ教)とテラの堂・塔の関係もよく分かってきます。寺院の堂・塔はいずれもトリ[]の姿につくられています。タフ[]は、トリが空高くトビたつ姿。堂は、トリが大地に降り立ち、トフ[訪・問]姿。布教のため、しばらくその地にヤドル[宿]姿でもあります。

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