「擬音語・擬態語・音象徴」(大森良子)
「擬音語・擬態語・音象徴」
これまで「擬声語」「擬態語」などと呼んできましたが、ほかにも「擬音語」や「オノマトペ」などの用語があります。これらの用語の定義や用法については、まだ十分議論が尽くされ、整理できているとはいえないように思われます。そんな中で、英語学の分野などで「音象徴」理論が取りあげられたことに注目し、このブログで紹介したことがあります(2012.1.31.ブログ「k-t音擬声・擬態語と音象徴」参照)。「プログレッシブ英語逆引き辞典(小学館1999)」所収、大森良子執筆「擬音語・擬態語・音象徴」の項です。
pr-音英語の音象徴
「音象徴(sound symbolism)」について、大森さんは「語中の子音や母音が単独で、あるいはそれらの組み合わせで、意味を帯びた要素になる現象を音象徴という」と規定しています。また「音象徴のある語を、象徴語(symbolic word)というが、擬音語・擬態語もそのなかに含めてよい。」そして、「音象徴が最もよく表れている」子音群(consonant cluster)を例示しています。fl-「揺れ;流れ;飛行」…flap はためく、flashひらめく、flow流れる、fly飛ぶ。
gl-「光;輝き;視角」…glareぎらぎら光る、glimmerちらちら光る、glory栄光。
st-「直立;安定;堅固」…stand立つ、state状態、stop休止、stable安定した。
その他、bl-・b-l「膨らみ、膨張」、cr-「きしみ;粉砕」、kn-「こぶ、塊」、sn-「鼻」など。
ここにあげられた子音群のうちfl-, bl-・b-lは、わたしのいうp-r音(語)に当たります。
fl-の基本義について、大森さんが「揺れ;流れ;飛行」と解釈するのにたいして、わたしは「ヒラヒラ・フラフラ振る、振れる姿」のように、なるべくp-r音のコトバで解釈するようにしています。同一のもの(fl-の基本義)の解釈に微妙なブレが生じるのは、それを見る角度が微妙にブレているからでしょう。わたしの場合は、pl-, pr-, bl-, br-, fl-, fr-、あるいはp-l, p-rなどをすべてふくめてp-r音(語)と呼んでいます。「小異」を認めながら、「大同」を見失わないようにしたいという立場です。
fl-音を使わずにfl-音の基本義を表現しようとすれば、「揺れyure;流れnagare;飛行hikou」という複雑な語音構造になり、異質なものの寄せ集めのような感じがします。ぎゃくにfl-音を使えば、それら(yure;nagare;hikou)はすべてfl-(フル[振]、フレル)という単一の姿に見えてくるというわけです。「飛行」の「飛」は、もとp-r音の漢語
大森さんは、fl-の基本義として「飛行」をあげていますが、このヒ[飛]piuer>feiはもともとp-r音の漢語です。「学研・漢和大字典」(小学館)は、「ヒ[扉]・ハイ[排]と同系のことばで、羽を左右にヒラ[開]いてとぶこと。ヒ蜚(アブラムシ・ゴキブリ)と同じ」と解説しています。なお、さきほどヒコウ[飛行]をhikouとローマ字表記しましたが、これにはひとこと説明が必要かもしれません。漢語ヒ[飛]が日本へ伝来した当時、日本語のハ行子音はh-ではなく、p-グループ(p, b, fなど。上下のクチビルを合わせて発声する音)だったと推定されています。そのハ行子音が現代音ではp-からh-に変化してしまい、フだけがfuのまま残っている状態です。
そういった音韻変化の歴史から、ハ行音のローマ字表記を「ha, hi, hu, he, hu」でなく、「fa, fi, fu, fe, fo」とすべきだと主張する人もいます。ぎゃくに、「せっかく現代カナヅカイにあらためたものを、またぞろ歴史カナヅカイにもどそうとするたぐいだ」と反対する人もいます。
ヒ[飛]の漢語音がpiuer>feiだということから、思いがけないところで、「p-r音語が日漢英にわたってヒラヒラ飛びまわり、ヒルがえり、ヒロがっている」実態を見せつけられた感じがします。
ヒラメクとハタメク
ここから、すこしばかりキメコマカイ話になりますが、おつきあいください。さきほどfl-音のところで「flap はためく、flashひらめく」と紹介しました。おなじfl-音なのに、日本語訳ではどうしてハタメクとヒラメクに分かれるのでしょうか?
「flapはflagハタ[旗]を連想させる語音だから、ハタメクと訳す」、「flashはflatヒラ[平]を連想させる語音だから、ヒラメクと訳す」と解説することもできそうです。ただ、その場合は、ハタ(p-t音型)とヒラ(p-r音型)の基本義がどこまで共通で、どこで分かれるかという問題が出てきそうです。
この場でp-t音語について、あまり立ちいった議論をすることはできませんが、ハタの語音からすぐにハタハタ・バタバタ・パタパタ・バタリ・パタリ・パタンなどの擬声語が連想されます。それらは、手や足や道具をフリまわしてウツ・ブツ[打]時の音であり、姿です。そう考えれば、ハタ[旗]は風にハタカレてパタパタ音を出すもの。ハタ[畑]は、スキやクワをフルってバッタ・バッタとブチこむところ。ハタ[機]は、タテ糸をならべたところにバタバタとヨコ糸をブチこむ装置です。
さらにいえば英語でも、ゴルフのパットputt やパターputter、野球のバットbatやバッターbatterなど、やっぱりバタバタ・パタパタとウツ・ブツ姿だと解釈できそうです。
次回の予定
p-r音語の話をしているうちに、ついついp-t音語の話になってしまいました。せっかくですから、次回からしばらくp-t音語をとりあげ、あらためて日漢英の語音比較をしてみたいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿