「学研・漢和大字典」(とびら)
「中日辞典」(小学館)
「日中辞典」(小学館)
「詩経詞典」(山東教育出版社)
p-r音の漢語
今回は日本語と漢語のp-r音を比較する予定ですが、現代漢語にはp-r音タイプの音節がありません。古代漢語ではp-r音タイプの音節が多数あったのですが、そのご音節語尾の-r子音が脱落したと推定されています。たとえば、つぎの語がそうです(上古漢語推定音は藤堂明保編、「学研・漢和大字典」による)。
ハ[破]p’uar>po(石で)ワル、ヤブル、バラバラにする。
ハ[波]puar>bo ハリダス、ヤブレル水面。バラバラ、ボロボロの姿。
ハ[跛]puar>bo 片足をフリダス。ビッコをひく。
ハイ[俳]ber>pai ベラベラ、カケアイ芸を見せる俳優。
ハイ[排]ber>pai バラリ、左右におしヒラク。
ハイ[輩]puer>bei 車が排列されている姿。
ハイ[配]p’uar>pei 酉(酒つぼ)にハリツク人。つれあい。くばる。
ヒ[皮]biar>pi 皮を手でヒッパル、ハル、カブセル姿。
ヒ[被]biar>bei 衣をヒッパル、ハル、カブセル)姿。
ヒ[疲]biar>pi 体がヒッパラレル、ヤブレル姿。
ヒ[披]p’iar>pi皮を手でヒッパル、ヒラク姿。
ヒ[非]piuer>fei 羽が左右にハリダス、ソムク姿。
ヒ[扉]piuer>fei 左右にヒラクもの。
ヒ[悲]piuer>bei 心がワレル、ヤブレル姿。
ヒ[妃]p’iuar>fei 王族の夫にピタリ、ハリツク女性。
ヒ[匕]p’ier>bi ピタリ、ハリツクもの。ナイフ。さじ。
ヒ[比]pier>bi ハリツク、ナラブ、くらべる。
ヒ[妣]pier>bi 父にハリツク人。母。
ヒ[仳]p’ier>pi 二つに分かれる。夫婦が離別する。
ヒ[庇]pier>bi ハリダス屋根。ヒサシ。⇔porch.
ヘイ[陛]ber>bi ベロベロ、ハリダス、土の段。キザハシ。
ヘイ[閉]ber>bi ピタリ口(=門)をトザス姿。
今回は日本語と漢語のp-r音を比較する予定ですが、現代漢語にはp-r音タイプの音節がありません。古代漢語ではp-r音タイプの音節が多数あったのですが、そのご音節語尾の-r子音が脱落したと推定されています。たとえば、つぎの語がそうです(上古漢語推定音は藤堂明保編、「学研・漢和大字典」による)。
ハ[破]p’uar>po(石で)ワル、ヤブル、バラバラにする。
ハ[波]puar>bo ハリダス、ヤブレル水面。バラバラ、ボロボロの姿。
ハ[跛]puar>bo 片足をフリダス。ビッコをひく。
ハイ[俳]ber>pai ベラベラ、カケアイ芸を見せる俳優。
ハイ[排]ber>pai バラリ、左右におしヒラク。
ハイ[輩]puer>bei 車が排列されている姿。
ハイ[配]p’uar>pei 酉(酒つぼ)にハリツク人。つれあい。くばる。
ヒ[皮]biar>pi 皮を手でヒッパル、ハル、カブセル姿。
ヒ[被]biar>bei 衣をヒッパル、ハル、カブセル)姿。
ヒ[疲]biar>pi 体がヒッパラレル、ヤブレル姿。
ヒ[披]p’iar>pi皮を手でヒッパル、ヒラク姿。
ヒ[非]piuer>fei 羽が左右にハリダス、ソムク姿。
ヒ[扉]piuer>fei 左右にヒラクもの。
ヒ[悲]piuer>bei 心がワレル、ヤブレル姿。
ヒ[妃]p’iuar>fei 王族の夫にピタリ、ハリツク女性。
ヒ[匕]p’ier>bi ピタリ、ハリツクもの。ナイフ。さじ。
ヒ[比]pier>bi ハリツク、ナラブ、くらべる。
ヒ[妣]pier>bi 父にハリツク人。母。
ヒ[仳]p’ier>pi 二つに分かれる。夫婦が離別する。
ヒ[庇]pier>bi ハリダス屋根。ヒサシ。⇔porch.
ヘイ[陛]ber>bi ベロベロ、ハリダス、土の段。キザハシ。
ヘイ[閉]ber>bi ピタリ口(=門)をトザス姿。
上古漢語音はヤマトコトバとウリ二つ
上にあげた上古漢語音を、一つ一つくりかえし発音し、クチビルや舌の感覚をあじわってみましょう。そしてヤマトコトバのp-r音語の感覚とくらべてみましょう。
いままでチンプンカンだった漢語がいっぺんにヤマトコトバとウリ二つにきこえてきます。
海や川の水面に見られる波は、風を受けてバラバラ・ボロボロにヤブレル姿だからpuar[波]とよび、石でバラバラ・ボロボロにヤブル行為はp’uar[破]とよぶ。なるほどとガッテンできますね。
ヤマトコトバの音節が基本的にCV型なのにたいして、漢語の音節はもともと基本的にCVC型です。それが時代の変化とともに語尾子音の大多数が脱落してCV型(母音終わり)に変化しました。この現象は、漢語が擬声・擬音語中心の段階から名詞・動詞など品詞語中心の段階に進む過程で生まれたと考えてよいかもしれません。漢語自体の発達過程としては当然の変化でしょうが、漢語とヤマトコトバがウリ二つの状態はこれでオシマイということになりました。
p-l-型の漢語擬声語
日本語(ヤマトコトバ)ではp-r-型の擬声語や擬態語がおおく、それをネッコにして、やがてp-r-型名詞・動詞などの品詞語が生まれ、p-r-型単語家族を組織してきたことが分かっています。漢語では、どうなっているでしょうか?
まずは「中日辞典」「日中辞典」(ともに小学館)や「日漢擬声擬態詞詞典」(郭華江編.上海訳文出版社、1990)の中から、p-r-音擬声語の用例をさがしてみましたが、たしかな用例が見つかりません。そのかわり、p-l-型の用例が見つかりました。漢語ではもともと、p-r型やl-r型の音節はありますが、p-l型やr-r型の音節は成立していません。「音節語尾につくときは-r音、語頭に立つときはl-音」という原則どおり、2音節以上となる擬声語でもp-r-型は成立せず、p-l-型が成立したということかもしれません。
bala 叭啦 パリパリ(薄氷がくだける音)。
balabala 叭啦叭啦 パラパラ(ページをめくる音)。(「中日辞典」には不採用)
pala [口+拍] 啦 ①パラパラ(ページをめくる音)。②ボコボコ・ポコポコ(モノをたたく音)。
palapala [口+拍] 啦[口+拍] 啦 同上。
pilipala 劈理 [口+拍] 啦 ①パラパラ(山桃の実が落ち散らバル音)。②パチパチ(拍手する音。木・マメなどがハリ裂ける音)。
上にあげた上古漢語音を、一つ一つくりかえし発音し、クチビルや舌の感覚をあじわってみましょう。そしてヤマトコトバのp-r音語の感覚とくらべてみましょう。
いままでチンプンカンだった漢語がいっぺんにヤマトコトバとウリ二つにきこえてきます。
海や川の水面に見られる波は、風を受けてバラバラ・ボロボロにヤブレル姿だからpuar[波]とよび、石でバラバラ・ボロボロにヤブル行為はp’uar[破]とよぶ。なるほどとガッテンできますね。
ヤマトコトバの音節が基本的にCV型なのにたいして、漢語の音節はもともと基本的にCVC型です。それが時代の変化とともに語尾子音の大多数が脱落してCV型(母音終わり)に変化しました。この現象は、漢語が擬声・擬音語中心の段階から名詞・動詞など品詞語中心の段階に進む過程で生まれたと考えてよいかもしれません。漢語自体の発達過程としては当然の変化でしょうが、漢語とヤマトコトバがウリ二つの状態はこれでオシマイということになりました。
p-l-型の漢語擬声語
日本語(ヤマトコトバ)ではp-r-型の擬声語や擬態語がおおく、それをネッコにして、やがてp-r-型名詞・動詞などの品詞語が生まれ、p-r-型単語家族を組織してきたことが分かっています。漢語では、どうなっているでしょうか?
まずは「中日辞典」「日中辞典」(ともに小学館)や「日漢擬声擬態詞詞典」(郭華江編.上海訳文出版社、1990)の中から、p-r-音擬声語の用例をさがしてみましたが、たしかな用例が見つかりません。そのかわり、p-l-型の用例が見つかりました。漢語ではもともと、p-r型やl-r型の音節はありますが、p-l型やr-r型の音節は成立していません。「音節語尾につくときは-r音、語頭に立つときはl-音」という原則どおり、2音節以上となる擬声語でもp-r-型は成立せず、p-l-型が成立したということかもしれません。
bala 叭啦 パリパリ(薄氷がくだける音)。
balabala 叭啦叭啦 パラパラ(ページをめくる音)。(「中日辞典」には不採用)
pala [口+拍] 啦 ①パラパラ(ページをめくる音)。②ボコボコ・ポコポコ(モノをたたく音)。
palapala [口+拍] 啦[口+拍] 啦 同上。
pilipala 劈理 [口+拍] 啦 ①パラパラ(山桃の実が落ち散らバル音)。②パチパチ(拍手する音。木・マメなどがハリ裂ける音)。
日本語の擬声語が多種多様なのにたいして、漢語ではごく少数なことが分かります。また、ここでは日漢両方ともp-r(l)-音の語を中心にとりあげましたが、同一の音を表わす擬声語でも、日本語と漢語では別タイプの語音となっている例があります。つまり、日本語人の耳と漢語人の耳と、それぞれ別の音に聞こえることがあるというわけです
たとえば日本語のバラバラは漢語ではp-l-音タイプのbalabala, palapala, pilipalaだけでなく、p-t-音タイプのbadabada 叭嗒叭嗒、padapada [口+拍]嗒[口+拍]嗒やk-l-音タイプのhualahuala嘩啦嘩啦などと表現されることがあります。
バリバリ(ひっかく音)やボリボリ・ポリポリ(かじる音)はgezhigezhi咯[口+支] 咯[口+支]などとなっています。
たとえば日本語のバラバラは漢語ではp-l-音タイプのbalabala, palapala, pilipalaだけでなく、p-t-音タイプのbadabada 叭嗒叭嗒、padapada [口+拍]嗒[口+拍]嗒やk-l-音タイプのhualahuala嘩啦嘩啦などと表現されることがあります。
バリバリ(ひっかく音)やボリボリ・ポリポリ(かじる音)はgezhigezhi咯[口+支] 咯[口+支]などとなっています。
擬声語と品詞語との関係
漢語にはp-lタイプの音節がありません。そのかわり、わたしがp-l-タイプと呼んでいる2音節語は多数あります。たとえば、つぎのとおり。
bolan 波瀾。大小の波。バラバラ・ボロボロに砕かれた水面。bo 波の上古音はpuar。
bolang 波浪。波。同上。
boli 剥離。ホロリ・ボロボロ、ポロリはがれる。
boluo 剥落。ホロリ・ボロボロ、ポロリ、はがれ落ちる。
piaoliang 漂亮。パリッ・ヒラリとして、きれいだ。
piaoliu 漂流。フラフラ・ブラリ、ただよい流れる。
pilao 疲労。ヒリヒリ・ピリピリ、傷つき、いたむ。pi 疲の上古音はbiar.
polan 破爛 ボロボロになっている。ボロ。くず。po破の上古音はp’uar。
polang 破浪。バリバリ、波をけたてる。
polie 破裂。バリッと裂ける。割れる。
こうしたp-l-タイプ2音節語が多数成立していることは、さきにあげたp-r単音節語との関係を推定する手がかりになるものと、わたしは考えています。つまり、はじめに擬声・擬態語的なp-r単音節語が生まれ、成長・発達したあと、やがて語尾の-r子音が脱落する。その反面、p-r音感覚を強調、もしくは再現するために、p-l-タイプ2音節語が生まれたと考えるわけです。
p-rとp-lでは、おなじラ行子音でもrとlのちがいがあります。どちらかといえばr音は字形のとおり曲線形(roll, run、コロコロ・コロガル)を連想させ、l音はこれも字形のとおり直線形(long, line、まっすぐツキススム)を連想させます。
漢語では、ラ行音が語頭に立つときはすべてl-音となり、語尾につくときはすべて-r音となる。それが原則だと考えてよいでしょう。
漢語にはp-lタイプの音節がありません。そのかわり、わたしがp-l-タイプと呼んでいる2音節語は多数あります。たとえば、つぎのとおり。
bolan 波瀾。大小の波。バラバラ・ボロボロに砕かれた水面。bo 波の上古音はpuar。
bolang 波浪。波。同上。
boli 剥離。ホロリ・ボロボロ、ポロリはがれる。
boluo 剥落。ホロリ・ボロボロ、ポロリ、はがれ落ちる。
piaoliang 漂亮。パリッ・ヒラリとして、きれいだ。
piaoliu 漂流。フラフラ・ブラリ、ただよい流れる。
pilao 疲労。ヒリヒリ・ピリピリ、傷つき、いたむ。pi 疲の上古音はbiar.
polan 破爛 ボロボロになっている。ボロ。くず。po破の上古音はp’uar。
polang 破浪。バリバリ、波をけたてる。
polie 破裂。バリッと裂ける。割れる。
こうしたp-l-タイプ2音節語が多数成立していることは、さきにあげたp-r単音節語との関係を推定する手がかりになるものと、わたしは考えています。つまり、はじめに擬声・擬態語的なp-r単音節語が生まれ、成長・発達したあと、やがて語尾の-r子音が脱落する。その反面、p-r音感覚を強調、もしくは再現するために、p-l-タイプ2音節語が生まれたと考えるわけです。
p-rとp-lでは、おなじラ行子音でもrとlのちがいがあります。どちらかといえばr音は字形のとおり曲線形(roll, run、コロコロ・コロガル)を連想させ、l音はこれも字形のとおり直線形(long, line、まっすぐツキススム)を連想させます。
漢語では、ラ行音が語頭に立つときはすべてl-音となり、語尾につくときはすべて-r音となる。それが原則だと考えてよいでしょう。
「詩経」の中のp-l-音語
「p-l-音語」というのは、イズミがかってに命名したもので、公式の用語ではありません。わたし自身、まだ手さぐりで資料を採集している段階です。漢語ではどの時代に成立したか、それも分かっていません。とりあえず、手もとにある「詩経詞典」(董治安主編、山東教育出版社、1989)で調べてみました。つぎの2語が見つかりました。
bailei 敗類。腐敗分子。堕落者。敗bai<buadは、2枚貝がパックリ割れる姿。
pili仳離 離別されるの意。ビリビリ、二つに分かれる、裂かれる、イビリ出される姿。仳 pi<biarは皮と同音。
2語とも日本語の文脈ではめったに聞かないコトバですが、語音そのものから「バラバラ、ヤブレル」「ビリビリ、ひきさかれる」姿が連想されます。pili仳離は文語ですが、あきらかに擬声語pilipala 劈理 [口+拍] 啦(ビリビリ・ピリピリ・バラバラ・パラパラ)を連想させるコトバです。
「p-l-音語」というのは、イズミがかってに命名したもので、公式の用語ではありません。わたし自身、まだ手さぐりで資料を採集している段階です。漢語ではどの時代に成立したか、それも分かっていません。とりあえず、手もとにある「詩経詞典」(董治安主編、山東教育出版社、1989)で調べてみました。つぎの2語が見つかりました。
bailei 敗類。腐敗分子。堕落者。敗bai<buadは、2枚貝がパックリ割れる姿。
pili仳離 離別されるの意。ビリビリ、二つに分かれる、裂かれる、イビリ出される姿。仳 pi<biarは皮と同音。
2語とも日本語の文脈ではめったに聞かないコトバですが、語音そのものから「バラバラ、ヤブレル」「ビリビリ、ひきさかれる」姿が連想されます。pili仳離は文語ですが、あきらかに擬声語pilipala 劈理 [口+拍] 啦(ビリビリ・ピリピリ・バラバラ・パラパラ)を連想させるコトバです。
ここまで、日本語と漢語のp-r音について相関関係を考えてきました。勉強不足でもたついているあいだに時間がすぎ、スペースもなくなりました。このあと英語のp-r音との比較にはいる予定でしたが、それは次回にまわさせていただきます。どうもごめんなさい。
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