2012年2月14日火曜日

p-r音擬声・擬態語と音象徴

 日漢英のコトダマくらべ(3)



「教育・文芸とやま」10号




ハル・ヤブルとBREAKSPRINGの対応関係
これまで、コト・コトバ・コトダマなどk-tのコトバについて、くりかえし議論してきました。こんどはハル[張・春]・ヒル[干・昼]・フル[振・古]など、p-r音のコトバについて考えてみたいと思います。
なお、ここでハ行音h-とせずにp-と表記しているのは、「ヤマトコトバのハ行音は、もとp-もしくはph-のような、クチビルの音だった」と考えられるからです。
p-r
音が表わす意味については、200412月に「ハル・ヤブル・BREAKSPRINGp-r音の意味を考える」(「教育・文芸とやま」10号所載)という小論を発表しています。その要旨はこうです。

日本語ハル[張・墾・晴・春]・ヤブル[破・敗]などのp-r音がもつ音韻感覚は、漢語p’uarpopuarbopierbiや英語break(ヤブル)、far(ハルカニ)、 press(押す。ハリツケル)sprout(芽をハリダス)、spring(春。とぶ。はねる。急にハリ出る)などのp-r音がもつ音韻感覚と共通点がおおい。
はやい話がバラハリ(トゲ)とprick, pride, prettyとの関係。バラの木はもともとイバラ(ハリ。トゲ)の木。トガッテいるのは、木だけではない。花ビラ11枚がパリッとして、プリッとして、ツッパル姿。 バラの花がpretty(キレイ)といわれるのは、prickイバラ。トゲ)にまもられていて、それがpride(ほこり)に満ち、proud(ハリ切った)姿だからである。

こんどブログでもp-r音語をとりあげることにしましたが、全体の趣旨に変更はありません。ただ、すこしだけ視点を変えて、まずp-r音の擬声・擬態語と品詞語との対応関係から切りこんでみたいと考えています。

p-r音擬声・擬態語
はじめに、日本語のp-r音擬声語をひろってみます。
ハラハラ・ハリハリ・バリバリ・パリパリ・ビリッ・ピリッ・ビリリ・ビリビリ・ボリボリ・ポリポリ・ホロホロ・ホロロ。

これらp-r音の擬声語は、「モノがハリサケル・ヤブレル」、「モノをヘラス・ホル」などのとき発生するオトをマネしてつくられたコトバだと考えてよいでしょう。ですから、これらのコトバを耳にしただけで、もとのオトはもちろんのこと、そのオトが発生した時のスガタ(状況)まで連想することができるわけです。また、擬声語はそのまま擬態語としても使われることになります。

これらp-r擬声語のまわりには、たくさんの擬態語が生まれています。
バラバラ・パラパラ・ハラリ・バラリ・パラリ・ヒラヒラ・ヒラリ・ヒリヒリ・ピリピリ・フラフラ・フラリ・ブラブラ・ブラリ・ブリブリ・プリプリ・ブルブル・ヘラヘラ・ベラベラ・ペラペラ・ヘロヘロ・ベロベロ・ペロペロ・ベロリ・ペロリ・ボロボロ・ポロポロ・ホロリ・ポロリ。

p-r音品詞語との関係
擬声語がそのまま擬態語としてつかわれているように、擬態語もそのまま副詞として使われているようです。
それだけではありません。-r動詞・名詞などの品詞語もまた、p-r音擬声・擬態語から派生したと考えられるほどの対応関係が見られます。

-r音の2音節動詞
ハル[](自下二)雲・霧がハレル[晴・割]パリパリ、ヒロビロした空になる。
ハル[](自下二)皮膚がツッパリ、パリッヤブレそうになる。
ハル[](自四)(芽・根・腹・氷などが)バリバリ、ハリだす。
ハル[張・貼] (他四)ヒッパル。ヒロゲル。ハリつける。
ハル[] (他四)大地をバリバリきりヒラクヤブル。ホル[掘]。ボロボロにする。
ヒル[](自上一)潮が引く。地面から水面がビリビリひきハガサレル。ヘル
ヒル[](他四)(屁を)体外へヒリ出す。ピリッと音を出す。
ヒル[](他上一)クシャミする。たまった息を一気にハキダス、ヒリダス、フキダス。
ヒル[簸](他上一)ミ[]でモミガラをあおり、クズをのぞく。バラバラにしてヒリ出す。
フル[](自四)空から雨・雪などが落ちる。ハラハラ・ヒラヒラ・ホロホロ・ポロリ。
フル[](自四)フラフラ・ブラブラ、ゆれうごく。
フル[](自四)フラフラ・ブラブラ、フレル[]、フレル[](さわる)。いいフラス
フル[](自他下二)同上。
フル[古・旧](自上二)フラフラ・ブラブラ、年を経てフル[]くなる。
フル[](他四)フラフラ・ブラブラ、フリまわす。
ヘル[](自四)ヘラヘラ、ヘリくだる。ヘル[]姿。
ホル[掘・穿](他四)地面をボロボロにする。ホロ・ホラアナをつくる。
ホル[](他四)願い望む。心がボロボロになる。
ホル[恍・惚](自下二)ぼんやりする。心がボロケル。ホロリとする。

ずいぶんたくさんあるようですが、意味・用法とも共通点がおおく、全体として同族語と考えられます。また、同音の語は同語とみなし、全体を5語(ハル・ヒル・フル・ヘル・ホル)にまとめることもできそうです。漢字はもともと当て字であり、ヤマトコトバを漢語に翻訳すれば、どの漢字になるかというだけのこと。ヤマトコトバの単語認定基準はあくまでヤマトコトバの音韻感覚そのものです。

-r音の2音節名詞
たくさんありますので、すこし乱暴ですが、ここでは同音の語はまとめて1語あつかいにします。そのほうが、ヤマトコトバの音韻感覚をつかみやすいと思いります。
ハラ[原・腹・肚]ハリ出すもの(ところ)。
バラ[薔薇]ハリ出すもの。イバラ。トゲ(をもつ植物)。
ハリ[張・針・鍼・貼・梁・榛・墾]ピンとハルこと(もの)。ハリこむ(つける、わたす)こと(もの)。ワルこと。ホルこと。
ハル[] 芽や根や葉がハリ出す季節。
ハレ[腫・晴] 皮膚がハリ出す、ツッパルこと。空の雲がハリ切れる、ワレルこと。
ヒラ[片・枚・平] ヒラタイこと(もの)。
ビラ[片・枚]同上。ちらし。
ビリ[?]最下等。しり。おわり。ヒル[干・放]の名詞形か?
ヒル[昼・蛭・蒜]ヒリヒリ・ピリピリ、太陽光線がヒル[放]時間帯。ヒラメク動植物。
ヒレ[鰭・平礼・領巾]ヒラヒラ、ヒラメクもの。
ヒロ[広・尋]ヒラリ(両手を)ヒロげたときのヒロサ
フリ[降・振・風]フラフラ、フレル[振]こと。フルマイ
ブリ[鰤]ブリブリ、プリプリ、ツッパル姿の魚。⇔prick, pride, proud. 
フル[旧・古・故]フラフラ、時間がフレル[振](経過する)こと。
フレ[触]フラフラ、フレまわること。
フロ[風呂・風炉]湯ブネ。湯をわかす炉。湯や風がフルマウところ。⇔fill, full, pool.
ヘラ[箆・鐴]竹・木・金属などをヒラたくした工具。また、土をヘラス(砕く)工具。

ヘリ[縁・減]ふち。はし。ヘルこと(ところ)。
ヘロ[辺]ほとり。
ベロ[辺・方・舌]ヘロヘロ・ベロベロするもの(ところ)
ホラ[洞・法螺]ホラ穴。ホラ貝。動詞ホル[掘]の未然形兼名詞形。⇔ホロリ、ポロリ。
ホリ[堀・掘・彫]ホルもの(こと)。ホリもの。
ホロ[母衣・幌]空洞、袋状のもの。ホロリ、ポロリ。
ボロ[襤褸]使いフル[古]して、バラバラ、ボロボロになった布。
p-r音の単語家族組織
こんなふうに見てくると、ヤマトコトバのp-r音単語がどのようにして成立したか、またどんな単語家族を組織し、語彙体系全体のなかでどんな役割をはたしているか、しだいに分かってくると思います。
同時にまた、ヤマトコトバはそれ自身の音韻感覚にしたがって細胞分裂をおこし、大家族にまで成長してきたもので、漢字やカナ・ローマ字などはコトバをしるす道具にすぎないということも、実感として分かってくると思います。
長くなりましたので、漢語や英語のp-rとの比較は、次回にまわします。

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