k-n音 漢語の
基本義は とらえ
にくい
前回
ご報告の
とおり、k-n音 日本語に くらべて、k-n音
漢語は 語数が おおく、その
意味用法も
さまざまで、その
共通基本義を
さぐる
ことは
かなり
困難です。そして その
困難さの
原因は、k-n音 漢語 成立の 歴史経過の なかに かく
されて いる ように 思われます。
すこしだけ
具体的に
いいますと、上古漢語の
時代には、
kan[干], ken[根], kuan[巻] などの
k-n音 漢語の ほかに、
kam[甘], kem[感], kiem[今] などの k-m音 漢語や、klam
[兼], kliam[劔] などの kl-m音 漢語も 成立して いました(そ
の 痕跡が、いわゆる「日本漢字音」の
なかにも
のこって
い
ます)。ところが、そのご
漢語世界に
音韻変化が
おこり、
これらの
k-m, kl-m音が すべてk-n音に 合流して しまいました。
したがって、k-n音漢語の 基本義を たしかめる には、本
来の k-n音 だけで なく、あわせて k-m, kl-m音の 基本義に
ついても たしかめて おく ことが 必用に なります。それだ
け
複雑な
作業に
なりますが、それだけ
コトバの
シクミの
おもしろさを
感じさせられる
作業でも
あります。ついでに
いいますと、日本語の
世界
でも、上代語
ミナ[蜷]・ミラ[韮]
などの m-子音が n-子音に 変化して、現代音 ニナ・ニラと
なって います。日本語と
漢語の
双方に
共通の
音韻感覚が
あり、共通の
事情
から
おこった
音韻変化かも
しれませ
ん。研究に
あたいする
問題だと
思います。
k-n音 漢語の
基本義
ここで、ひとまず
日・漢・英
など
民族言語の
ワクを
こ
えて、いっぱんに
「k-n音 が あらわす
ことが
できる
意味
(事物の 姿)の 範囲」に ついて 考えた うえで、おなじ 要領
で k-n音 漢語の 基本義に ついて 考える ことに しましょ
う。
わたしが 理解する ところ では、「コトバの
意味
とは、そ
の
コトバを
発声する
とき、発声器官に
生じる
感覚の
総
合」で
あり、それ以上
でも、それ以下
でも
ありません。
k-n音語に ついて いえば、「k-音の 基本義 + n-音の 基本義」で あり、具体的には「k-の n-」「k-が n-する」「k-して n-する」など、さまざまな 姿を あらわす ことが できます。
コトバは、基本的に
母音と
子音に
分けられ
ます。母音
a
eiou
などは、その
口形を
見る
だけで
区別が
分かる
こ
と
から、子音の
ちがいを
こえて、事物の
カタチ(○□△一
など)に
対応した
意味用法が
見られます。漢語で
いえば、
イチ[一] yiと ワン[碗・椀・腕・湾] wanなどの 対照が 典型
的な もの です。
また
日本語では、動詞形
ク[來]に
たいして、名詞形
カ
[髪・梶・蚊・香・日](クル[來・刳]もの)・キ[來]
(クル
こと)・ケ[毛・気](クル
もの。カの
交替音)な
どの
名詞形が
成立して
います。英語
でも、動詞
pitch(投
げる)の 語尾変化に よって、pitcher(投げる ひと)・
pitching(投げる こと)などの 語が 生まれて います。日本
語と
英語に
共通の
音韻感覚が
はたらいた
結果
かも
しれま
せん。漢語では、音節の
構造が
ちがう
ので、こうした
現象
は
起こり
ようが
ありません。
母音の 役割も 重要ですが、子音の
役割は
さらに
重要で
す。子音の
種類は、民族言語に
よって
さまざま
ですが、お
おざっぱに
見てk, g, m, n, p, b, f, v, r, l, s, z, t, d などが
あ
ります。調音の
場所や
方法
などに
よって、「唇音・牙音・
喉音・舌音・歯音」、「歯茎音・口蓋音」、「破裂音・鼻
音・側音・摩擦音・破擦音」などに
分類
されます。いずれも
「発声器官に
生じる
感覚」に
対応した
分類
です。
それでは、あらためて k-n音 漢語の 音形と 意味との 関
係を さぐる ことに します。
まずは、k-n音 漢語 (漢字)の 基本形と みられる 音形 kanと 字形 [干]を もつ 語を とりあげます。基本的に、『学研・漢和大字典』に したがい、「日本漢字音・上古音・漢字・日本語訳」の
順に
表記
して
みました。ただし、活字の
都合
などで、上古音の
表記は 原典の
表記と
一致しない
点が
多数
あります。おゆるし
ください。また、*印
以下の解説や
日本語訳も、イズミ
個人の
解釈に
よる
ものを
ふくんで
います。あわせて、おゆるし
ねがいます。
さまざまな 用途を
カネル 棒、kan干
カン kan干gan ほす。ほこ。たて。かかわる。*もと 武器。ふたまた(Y型)の 棒。
カン kan 肝 gan 肝臓。*肝腎 カナメの はたらきを する 内臓。
カン kan竿 gan さお。*Y型の 竹の 棒。
カン kan幹 gan みき。わざ。*旗が
高く
なびく姿。
カン kan 奸jian
よこしま。*女性や 正道を おかす こと。
カン k’an刊kan
きる。けずる。*オノで キル 姿。
カン k’an 栞kan しおり。*同じ 大きさに 四角く 切りとった 木の ふだ。
カン han旱 han かわく。ひでり。カン[乾] と 同系。
カン han 汗han あせ。*熱して 乾く ときに 出る 水液。カン[乾] と 同系。
カン ngan 岸 an きし。 *厂型に カドだった 水ぎわ。ガン[顔]と 同系。
カン[干] グループ だけで、ざっと こんな ぐあいに なりま
す。カン[干]は、もと 木や 竹の
棒の
こと。あるいは、棒を
ふりまわす
こと。さまざまな
ことに
使える
こと
から、や
がて「なにかを
スル」ことを
意味する
ように
なりました。
日本語の
スルは、もと
スル[擦]の 意。英語の doは、もと to
set, putの 意と されて います。音形は さまざま
ですが、に
たような
経過を
たどって
コトバの
意味用法が
決定された
ことが
分かります。
じっと トマル
姿、ken 艮
コン ken 艮 gen
八卦の 一つ。うしとら。とまって 動かない。*小刀で、目の まわりに
イレズミを
する。また、刀を
ツキサス
ように
視線を
むけ、動かさ
ない
こと。ガン[眼]の 原字。
コンken 根 gen 木の 根。つけね。本来の
性質。*とまって
ぬけない
木の
根。
コンken 跟 gen くびす。したがう。*根の
姿。
コン hen 痕 hen
あと。あとかた。*傷あとが のこる 姿。
コンhen 恨 hen うらむ。うらみ。*心中に
傷あとが
のこる
姿。
ゲン han 限 xian かぎる。かぎり。*土地の
境目に
土盛りを
つくり、ここ
までと
目じるしを つける こと。
ガン ngen 眼 yan まなこ。め(あな)。カナメ。*コン[艮]の 原義を あらわす。
クネル・マガル・メグル姿、kuan 官
カン kuan 官 guan
つかさ。おおやけ。役人に なる。人体の いろいろな 役目を する部分。*家屋に おおぜいの 人が 集まった さま。
カンkuan 管 guan くだ。つかさどる。わくを
はめて
まとめる。*まるく
メグル・ユキワタル 姿。
カン kuan 棺 guan ひつぎ。*死体を
とり巻いて
収容する
木の
箱。
カンkuan 館 guan やかた。*公用人が
隊を
なして
いる
家。のち、公用者が
食事を する やしき。
カン kuan 菅 jian カヤの 一種。[国]スゲ。*まるい アナが とおって いる 草。
kuanと 発声する とき、口の 形が ひとりでに ○や □の
姿に なります(=クダ[管]の 姿)。この ことに よって、
kuanグループの コトバが 「クネル・マガル・メグル
姿」
を あらわす ことに なったと 考える ことが できます。
クネル・クナグ・カタクナの 姿
、nguan 元
ガンnguan 元 yuan こうべ。はじめ。もと。*人体の
上に
まるい
・印
(アタマ)を 描いた 象形モジで、人間の まるい 頭の こと。胴体との 関係で いえば、「クネクネ
動くken根」の 姿。
カン kuan 冠 guan かんむり。*「冖
(かぶる) + 寸(手) + 音符 元」の 形声モジ。
ガン nguan 頑wan
かたくな。もてあそぶ。*「頁(あたま) + 音符 元」の 会意 兼 形声モジ。頑丈で 融通の きかない 頭の 意と なる。好きな ことに クネル(熱中する) 姿。
カン huan 完 wan まったし。まっとうする。おわる。*宀
(やね) + 音符 元」の 会意 兼 形声 モジ。マガリ クネリ ながら、つなぎ とおす 姿。
クシで ツラヌク
姿、kuan 串
カン kuan 串 guan つらぬく。うがつ。[国] くし。*二つの ものを 一本の 線で つらぬく さま。
カン huan 患 huan うれえる。わずらう。うれい。わずらい。*心を
貫いて、じゅずつなぎに
気に
かかる
こと。
カン kuan 貫 guan つらぬく。なれる。*もと、二つの
まるい
貝を
ひもで
ぬき通した
姿。
カン kuan 慣guan なれる。*一貫した
やり方に
沿った
気持ち。
カン kuan 関 guan かんぬき。とざす。せき。かかわる。*カン[貫・串]・セン[穿] などと 同系。Aと Bを つなぐ、カナメの 役割。→関節。
クネル・マガル・メグル 姿
、kiuan巻
カン kiuan巻 juan まく。まきもの。*両手で、まるく
巻く
姿。また、体を
丸く
かがめる
姿。
ケン kiuan 捲 juan まく。*カン[巻]が マキモノの 意に 使われる ように なった ので、原義を あらわす ために 使われた。
ケン k’iuan 券 quan 手形。印紙や きっぷ。*手形の 文句を 小刀で 木札に 刻み、ヒモで 巻いて 保存した。
ケン giuan 拳 quan こぶし。*手を まるく にぎりしめる 姿。
ケンgiuan 倦 juan つかれる。うむ。*体が ぐったりと 曲がる 姿。
ケン giuan 圏 quan おり。かこい。まるい器。*まるく
カコム、とり巻く
姿。
カム・ハム・ハサム 姿
カン kam甘gan あまい。うまい。あまんずる。*口の 中に 食物を 含んで あじわう 姿。
カン ham酣han たけなわ。*酒に 封じこめ られて、うまさに
酔った
さま。
カン kam柑 gan ミカンの 一種。*うまい 実が なる ミカンの 木。
カン giam拑 qian はさむ。ふくむ。*入り口を
閉じて、中に
はさみこむ
動作。
カン kam敢gan あえて~する。*封じ こまれた 状態を、思い切って
手で
払いのける
こと。もと、音符
カン[甘]を 含む 字形。
カン giam 鉗 qian くびかせ [首枷]。ふさぐ。*金属の ワクで はさんで、物を とじこめる こと。
カン k’am 嵌qian はまる。はめる。くぼみ。*山中に
入りこんだ
くぼみ。コモル・コメル姿。カン[陥](落ちこむ)・ケン[欠](くぼみ)と 同系。
カン giam 箝qian 首かせ。はさむ。はめる。
コンkem 紺 gan 深みの ある 青。*ガン[含]・カン[拑]と 同系。
まえに
指摘した
とおり、上古漢語の
時代には
k-n音と な
らんで k-m音の コトバが 通用して いました。ここに 紹介
した k-m音 漢語 (甘・柑・拑 など)の 基本義は、日本語 カム
(カミつく、カミしめる など)の 基本義と まったく 一致し
ます。
キマル・キメル・コメル・コモル姿
キン kiem 今 jin いま。いまに。いま(もし)。*囲み
閉じて、おさえるの
意。捕えて
いる
時間。
キン kiem 金 jin かね。こがね。おかね。*土の
中に
点々と
とじこもって
含まれた
砂金。
キン kiem 錦 jin にしき。*金糸を 織りこんだ 絹織物。
キンk’ iem 衾 qin ふすま。きょうかたびら。*外気と 体との 間を ふさいで、地温を
たもつ
夜着。
キンgiem 衿 jin おび。えり。*胸もとをトジコメ、体裁 をキメル ひも。
キン giem 琴 qin こと。*胴を 密封して、中に 音が コモ ル ように した 装置。
ガン hem 含 han ふくむ。ふくめる。*口の 中に 入れて かくす こと。
地層の 中に 砂金が コモル 姿は、地層が 砂金を カム・オシコメル 姿でも あります。また、日本語の カム[噛]は、ハム・ハメル・フクム
姿でも
あります。
カム・ハム・フクム
姿
カンhem函han はこ。*矢を ハコの 中に 入れた 姿。
カン [甘]と 同系。
カン hem 涵 han ひたす。*ガン[含]・カン[檻] などと 同 系。
カミシメル・トジコメル 姿
カンkem 感 gan 強く 心に こたえる。*カン咸は、「戈 (ホコ)を 手に
持つ
ことで
相手に
ショックを
与え、 口を
封じる」こと。カン
感の
原字。
カン kem 緘 jian とじなわ。とじる。*トジコメル 姿。
ゲン kem 減 jian へる。へらす。*水源を カミシメ、カ ラシ、水量を
減らす。
カン ham 鹹 xian 塩からい。*口に
含んで、カミシメル
姿。
カム・カガム・クボム
姿
ケン・ケツk’iam, k’iuat 欠 qian, que 欠く。欠ける。あくび。*人が 口を あけ、体を くぼませて かがんだ さま。
ケン・カン k’iam 凵 qian
くぼむ。欠ける。 *くぼんだ 容器、または、中が カラに なった アナの 姿。
k-l-m
カム・カラム・クボメル
姿
ケン klam兼 jian かねる。かねて。*二本の
禾(イネ)を
カネあわせて 持つ さま。ケン検 (一か所に 集めて、調べる)と 同系。
ケン k’am 謙 qian へりくだる。*くぼんで
退き、うしろに
ヒカエル姿。
レン gliam廉lian かど。いさぎよい。やすい。*家の 中に 寄せあわせた 物の 一つ ひとつを 区別する こと。
レン gliam簾lian すだれ。*竹を きちんと 切りそろえた 姿。
上古漢語では、k-n音や k-m音と ならんで、 kl-m音の 音節が 成立して いたと 考えられて います。おそらく
先進技術の
伝来
などの
事情で
うまれた
もの
でしょうが、語頭に
二重子音を
もつ音節は
漢語の
音韻感覚
から
見て
違和感が
あり、やがてk-n音 もしくは l-n音に 合流した ものと 考えられて います。この ことも、k-n音 漢語の基本義を 考える ことの 複雑さを もたらして いる ようです。
カム・カラム・キリコム・クルム
姿
カンklam 鹸 jian アルカリ。あく。*アクが
点々と
ふき出たさま。カン鹹と
同系。
ケン giam 倹 jian つつましい。切りつめる。*ひとところに
集めて 引きしめる 姿。
ケン kliam 検 jian しらべる。とりしまる。しめくくる。*木簡を
集めて
まとめ、封印する
姿。
ケン kliam 剣 jian ツルギ。*両刃の まっすぐ そろった 刀。
ケン・レンkliam 臉 jian かお。顔面。*もと、肉の せんぎりの 意。のち、ケン瞼と混同して、顔
そのものを
あらわす。
ケンkliam 瞼 jian まぶた。*目の 表面を おおい かくしたり(ヒキシメル)、あけたりする
姿。
ケン ngiam 嶮 xian けわしい。*両側が そろって 傾斜し、 頂上が 切り立った 山。
ケン hliam 験 xian ためす。しるし。きざし。*馬を
乗りくらべて、よしあしを
ためす
こと。
ケンhliam険 xian けわしい。とげとげしい。
カム・カラム・カラメトル
姿
カン klam 監 jian みる。かんがみる。*大皿に
水を
はリ、その
上に
伏せて
顔を
うつしみる
こと。水かがみで、姿を
みさだめる
こと。
カン klam鑑jian かがみ。かんがみる。*水かがみの
時代は
[監]、青銅器 時代に なって [鑑]と 書く ように なった。
カン hlam 檻jian おり。てすり。*動物を カラメ とり、
とじコメル ための おり。
カン ham 艦jian いくさぶね。*やぐらの
上から
見おろす
大きな
軍船。
ランglam 藍 lan あい(草)。*こい 青色が 視線を カラメ
とる さま。
ラン glam覧 lan みる。*高い 所 から 下の ものを
見まわし、状況を カラメとる 姿。
日漢英 音韻比較の 手がかり
ここまで、2回に わたって k-n音 漢語の 基本義に ついて 考えて きましたが、わたしの
能力不足で、その
全体像を
とらえきる
ことは
できません
でした。申しわけ
ありません。それでも、上古
漢語音として
成立して
いた
k-m, kl-m音を とりあげ、日本語カム・コモル・カラム などとの 音韻比較を こころみる ことが でき、やや 手ごたえを感じる
ことが
でき
ました。今後、日漢英の
音韻比較を
すすめる
上で、一つの
手がかりに
なればと
考えて
います。
次回は、k-n音 英語を とりあげる 予定です。
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