2015年11月18日水曜日

s-k音の 漢語


サク[] scaleも、サク・ソグ 姿
漢語や 英語にも、s-k音語は たくさん あります。
  たとえば、漢語 サク[]  現代音は xiaoですが、上古漢語音はsiokで、典型的な s-k音語です。漢字[削]の 字形も「刀 音符 ショウ []」の 会意 形声 文字で、「刀で 細く けずる こと」と 解説されて います。その ショウ []も、「肉 音符 小」の会意 形声 文字で、「素材の 肉を 削って 原型に にた 小形の ものを つくること。サク[削]・ショウ[消・蛸]などと 同系」と されています。日本語の 文脈では 普通「ケズル」に 当てて「削る」と 表記して いますが、ケズルの 歴史カナヅカイは ケヅルで、もとは k-t音の コトバ。s-k音で いえば、サク[] 小サク、サク[裂・割]。ソグ[]」姿と いう ことに なります。
  おなじような 現象が、英語の s-k音語に ついても 見られます。たとえば、モノサシやハカリ などを 意味する 英語 scaleは、語根skel-¹(to cut)の 派生語で、skill技能, sculpture彫刻などと 同族と 解説されて います。そこで s-k音に こだわって、これらの英語を 日本語に 訳して みると;
scale=「ウロコ。テンビンの皿。メモリ。モノサシ」=「小サク、サク[裂・割]・ソグ[]姿」

skill=「技量。うでまえ」=「スッキリ、スク[]・サク[裂・割]・ソグ[]・シキル[仕切] 姿」

sculpture=「彫刻」=「刀で素材をサク[裂・割]・ソグ[] 姿」
  こんな ぐあいに なります。意外な ほど スッキリs-k音の まま おさまり、違和感が ありません。こうした状況を 観察して いると、s-k音に かぎらず、日漢英の 語音には、民族や 国家の ワク こえて、共通の 音韻感覚 はたらいて いる のでは ないかと いう 感じが して きます。
 しかし、現実は それほど 単純明快な わけには ゆかない でしょう。今回は まず s-k音漢語に しぼって、その 音韻感覚を さぐる ことに します。

s-k タイプの 漢語
  現代漢語には、s-ng 音形 もつ 音節は ありますが、まともにs-k 音形 もつ音節は ありません。上古漢語には 存在した s-k音語 なごりが 日本漢字音には 残されて いるので、それを たよりに s-k 漢語の 実態を さぐる ことが できます。
 s-k 漢語の 数は 多すぎて、全部 ご紹介する ことは できません。これまで チェックできた ものに ついて、中間報告を させて いただきます。

(1)  日本漢字音として 語尾子音 -k 残って  いる

サク: 
siokxiao けずる。刀で ソグ[](けずる)。⇔ ソ    グ   []

saksuo なわ。つな。引き出す。麻の 茎を サク[]・ソグ[]姿。⇔サク[]・ソグ[]

tsakzuo つくる。なす。 [箭・矢](ハモノ)+ [] 構造で、「ハモノで 素材に 切れ目を 入れる」姿。⇔サク[裂・割・劈]

サク・シャク・ジャク:
tsiokque すずめ。チイサキ[] トリ[隹・鳥]。ショウ[小・少]・シャク[] 同系。

tsiokjue 酒器。爵位。スズメの 形を した 酒器。

dziokjue  かむ。かみくだく。小さく サク[裂・割](噛み 砕く)姿。⇔サク[裂・割・劈]・ソグ[]

シキ・ショク:  
siokse, shai いろ。顔色。色欲。かがんだ 女性の 上に 乗った 男性が、女体の スキマに スキコム・シケコム・シコム 姿。⇔スク[鋤・助・漉・送]・シク[]・ソソグ[]

thiekshi 様式。儀式。式は「工(しごと)+ 音符ヨク[](いぐるみ)」の構造で、道具を使って工作する姿。 ⇔シク[]・シキモノ[敷物]

シャク:
thiakshuo (金属を)鎔かす。鉱石や 金属を 加熱し、微粒子に なる まで サク[裂・] (鎔かす) 姿。また、「赤々と かがやく」「元気が よい」姿。→カクシャク[矍鑠]。⇔サク[裂・割・劈]

シャク・セキ:
sekxi 分かれる。分析する。オノ[] 木を サキ[裂・割] 分ける 姿。⇔サク[裂・割・劈]

siakxi むかし。日を シキ[] 重ねる 姿。⇔サク[裂・割・劈]・シク[敷・及]・シゲル[茂・繁・重]

tsiakjie 借りる。貸す。利用する。A もって いる 金・物・力の 一部をサキ( ソギ)とり (カル[借])、不足している B ツケ足す (カス[])、タスケル[] 姿。⇔サク[裂・割・劈]・スク[鋤・助]・タスク([手・田] 鋤・助)

thiakshi 解釈する。放す。釈放する。シコリを サキ ほぐし、一本の 線と して 連ねる こと。ときはなす。ゆるす。⇔トク[解・説・溶]・サク[裂・割・劈]

シュク:
thiokshu おじ。夫の弟。小さい 豆や ソバの 実を 手で ひろう 姿 から、やがて 細く 小サキ 末の 兄弟の 意に 用いる。⇔サク[裂・割・劈]・ソグ[]。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

siok宿su 泊まる。宿泊する。せまい 部屋で、身を スクメ[] 休む 姿。やど。やどる。⇔スクム[]

sioksu, suo 縮まる。縮める。ヒモを 引き締め、チヂメル・スクメル 姿。⇔ソグ[]スクム[]

sioksu 慎み深い。厳しい。粛清する。筆を 持って 深い フチ[] ほとりに 立ち、身を スクメル さま。シュク[]・ソク[] などと 同系。⇔ソグ[]・スクム[]

ソク:
siekxi いき。消息。休息する。利息。息子。鼻と いう セキ[]所を スクスク 通り ぬけて イキ[] して いる 姿。休息・生息する 姿。やがて、子孫を 生む ムスコの 意とも なる。ソク[] 同系。⇔セク[]・ソク[退・除]・ソグ[]

siukshu つかねる。くくる。縛る。たき木を 集め、ヒモで 束ねる(ヒキシメル・スクメル)姿。ソク[速・捉]・シュク[]・ショウ[] などと 同系。⇔スクム[]

suksu 速やかである。速度。ソク[] 同系。ツカム・スクメル 姿。スクスク 歩む さま。⇔スク[鋤・漉・送]・スクスク(歩む 姿)。

tsiukzu 足。足る。足の 筋肉を スクメたり ユルメたり する 姿。⇔ツク[突・附・着]・スクム[竦]。

tsiukcu (時間が)短い。うながす。ソク[束・足] 同系。セカセカ、ツキ動かす姿。⇔ツク[突・搗・附・着]・セク[急]。

tsukzhuo つかむ。とらえる。ソク[束・足] 同系。⇔ツク・ツカム・スクメル。

ソク・サイ:
sekse さしこむ。ふさぐ。栓。屋根の カワラの 下に スキマが でき ない ように、カワラと 土を ぴったり ツケル 姿。いいかえれば、セキとめる こと。ソク[即・則](ぴたり ひっつく)などと 同系。また、トリデ(要塞) こと。⇔セク[塞・急・咳]・セキ[関・堰・咳]。
 

 (2)  日本漢字音で、語尾子音 -k 脱落 (母音化) して いる

ショウ:
siogxiao 小さい。小さくする。小さくサク[裂・割]・ソグ[] 姿。⇔サク[裂・割]・ソグ[]

thiogshao 少ない。不足する。若い。同上。⇔ソグ[]・スコシ・スクナシ。

siogxiao 似ている。(肉などの)素材を ソギトル こと から、カタドル・似るの 意。⇔ソグ[]・ソックリ。

siogxiao 消える。消す。ソギとり、小サク する。⇔ソグ[削。

siogxiao よい。よる。太陽の 光が ソガレル 時間帯。⇔ソグ[削。

sogshao こずえ。木が のびて ゆき、サキ[] 細く ソガレル 姿。⇔ソグ[削。

sogshao 少し。やや。作物の 穂先が 細く ソガレル 姿。⇔ソグ[削。

siogxiao わらう。細い 竹の 姿。やがて、スコシ だけ 口を サク[裂・割] 姿。⇔サク[裂・割]・ソグ[]

siogxiao 笑う。*同上。

siungsong  敬う。竦む。ゾッとする。二本の 足を 細く 束ねた ように 棒立ちと なる(立ちスクム) 姿。ソク[]・ジュウ[](タテに 細長い)・シュク[] (細く 引きしめる)などと 同系。⇔ソグ[削・スクム[竦]。

sieng sheng  いきる。いかす。うむ。うまれる。はえる。はやす。なま。地面を サキ分け、若芽が スクスク 生え出る 姿。⇔サク[裂・割]・スクスク。

ソ:
sagsu もと。白い。もとより。基づく。ひとすじ ずつ サカレ[]、たれサガル 原糸。サク[] 同系。

ソ・シャ・ショ・ジョ:
tsiagqie しばらく。~さえ。しかも。ツギツギ ツケル[]、積み 重ねる 姿。⇔ツク[附・着]・ツグ[次・継]・シゲ[]

tsagzu  祖父。祖先。世代の 積み 重ね。

tsagzu 組みあわせる。組織する。組。グループ。組みひも(ツギツギ、糸をツギ[継・接]タス[足])の 姿。⇔ツク(ツケル)[附・着]・ツグ[次・継]

thiagzu 阻む・止める。通路を フサグ、セキ[堰・塞] 止める。⇔セク[塞・咳]。

dziagzhu 助ける。手伝う。力をツケ足す 姿。⇔ツク・ツグ・スク[鋤・助]・スケ[]タスケ[]

dziagchu すき。鋤く。田を スク[鋤]道具。ツキ棒に たよって いた 農民に とって、スキ[鋤]の 発明は 画期的な タスケ[助力]と なった。⇔スク[]・スキ[]

ソウ:
siogsou さがす[探・捜]。部屋の スミズミ まで、灯火を かざして サガス こと。また、サグリ 出し、ソギとる (押収する) こと。⇔サガス・サグル・ソグ[]

sog sao はく。はらう。*ホウキで地面をヒッカク姿。 ⇔ソグ[]

siang xiang  あい(たがい)。みる。たすける。姿。形。木を対象として見る、向きあう姿。また、視線を入れる、サキ分ける姿。⇔サク[裂・割]・サガ[性・祥]

tsug zou  はしる。にげる。大の字に手足を広げ(ツキダシ)、セカセカ走る姿。⇔ツク・ツグ・ツギツギ・ツカツカ・スクスク・セカセカ。

ざっと ごらんの とおり ですが、これだけの 資料 からも、いくつかの ことが 見えて きます。

    上古漢語の 段階では s-kタイプの 音節 (s-k, s-g, s-ng)が 多数 成立して いたが、その後 語尾子音 -k, -g 脱落し、現代漢語音では s-ng グループ 以外に s-k 音形をもつ 音節は ゼロと なった。いいかえれば、すべてCVC 音節 ばかり だった ものが、 その 大部分が CV 音節(開口音)に 変化した。

    コトバの 音形は 事実上 変化したが、意味・用法 面では 基本的に 上古音 以来の伝統 したがって いる。

    上古漢語の s-k音は、当然の こと ながら 日本漢字音 でも 基本的に s-k音として 表記されて いた。サク[削・作・索]・ソク[息・束・足] など。ただし、上古漢語 語尾子音 -gまたは -ng ばあい、日本漢字音 語尾は 母音化して 表記された。ショウ[小・少・肖]・ソ[祖・組・阻]・ソウ[掃・捜]、または ショウ(セイ)[]・ソウ[]など。

    さらに、もと t-k音と s-k音との 中間に 分類すべきかと 思われる ts-k音漢語に ついても、日本漢字音 s-k として 表記された。サク[]・ソ[且・祖]・ソウ[] など。この 現象は、さきに 指摘した「ツク から スクへ」の 流れと 一連の もの かも しれない。

 

日漢 s-k音語の 対応関係
日本語では、サクを 漢字で[裂・割・咲]などと 書き分ける ことが ありますが、ヤマトコトバとしては もともと 1語でした。サクは、「[](矢の 古語)+ク[來]」の 構造で、「サ(ヤジリ などの ハモノ)が クル[來・刳]」、「小サク サキ分ける 姿を 表わす コトバです。そして この サクは、シク・スク・セク・ソク などと ともに、s-k音の 単語家族 形成して います。

漢語でも、ショウsiog まわりに サク[]・ショウ[少・肖・消] などの s-k音単語家族 形成されて います。ソクsiuk束(ツカ。ツカネル)と ソク[速]、ソクsiuk足と ソク[促・捉]、ソtsiag且と [祖・鉏・鋤] などに ついても、ほぼ おなじ 関係が 見られます。

このように 見てくると、古代の 日本語と 漢語の s-k音は、フタゴの 兄弟 ほどの 対応関係 もって いた ことが 推定されます。
 
  次回は、「s-k音の 英語」を とりあげる 予定です。