2015年10月19日月曜日

p-k音の 漢語



これまでの 経過
  前回は、ハカ[] ミササキ[御陵] 話から、日本語のp-k音語と s-k音語の 音韻感覚の 話を させて いただき ました。その あげく「このつぎは 日漢英の p-k 音や s-k音の 対応関係に かんする 議論を 提案できる ように したい」と お約束して しまいました。

 日本語のpak-音は、動詞 ハク[掃・吐・著・帯・佩]・ハグ[] 中心に ハカ[墓・計・量・捗]・ハカリ[]・ハカル[計・測・量・図]・ハケ[刷毛]・ハゲ[剥・禿]・ハコ[箱・函]・ハコブ[運]などの 単語家族を 組織して います。Sak-音に ついて 見ても、動詞 サク[裂・割・咲・放・離・避] 中心に サカ[坂・境・界・酒・逆・冠・尺・積]・サキ[前・先・岬・幸・福]・サケ[]・ササキ[狭狭城・佐佐木・陵]などの 単語家族を 組織して います。

  漢語や 英語 でも、それぞれ 独特の 音韻感覚に したがって、p-k音やs-k音の 単語家族が 組織されて います。問題は、日本語の p-k音や s-k音と 漢語・英語の p-k音や s-k音との あいだに なんらかの 対応関係が 見られるか どうか です。わたしの 仮説では、もともと 人類の 音韻感覚は 大同小異の もの であり、p-k音や s-k音に ついても、民族や 国境の ワクを こえて 共通の 感覚を もつ コトバが 生まれる のは 当然と いう ことに なります。ただし それは 頭の中で 考え出した 原理・原則の 話。現実は どうか?

 調子よく 約束は した ものの、漢語・英語の p-k音語や s-k音語を すべて チェックする いう 作業は、95 老人には いささか ムリの よう です。虫メガネで 辞典の モジを おいかけて いる うちに 時間が すぎて ゆきます。

 漢語・英語の p-k音語と s-k音語の 音韻組織に ついて 1回きりの ブログで 語りつくす ことは ムリな ので、数回に 分けて 公開させて いただきます。今回は、まず 漢語のp-k音を とりあげ、日本語 p-k音との 対応関係を さぐる ことに します。ご教示を おまち します。

 

p-k音の漢語
 現代漢語にp-k音の 音節は ありませんが、上古漢語の 段階で p-k だったと 推定される 音節は 多数 あります。現代語では 語尾の -k子音が 脱落して、すべて 母音終わりと なって いますが、意味の 面では もとのk-p 時代 そのままの 意味で 用いられている よう です。以下、これまで 採集できた p-k 漢語(漢字) 紹介します(日本漢字音・上古音・現代音の )

 

   ハウ[] グループ:

ハウpogbao 包む。「妊娠した 女性の 姿」、「腹の中に 胎児の いる 姿」。ホウ[]は、横から 見た 人の 形。[] ふくまれる[] 旧字形は [](胎児の 姿)。妊娠する こと=はらむ こと。やがて つつむ・いれるの 意味に 用いられた。パクパク・パクル姿でも ある。フクロ・ハコ。bag, box, pack.

ハウbogbao 抱く。手で 包む 姿。パクル・ハグクム。

ハウp’ogbao  えな[胞衣]。*胎児を 包む 薄い まくや   胎盤。フクロ・オフクロ。

ハウp’ogpao  アワ[]。*水が 空気を 中に 包みこみ、フックラ・フクラム 姿。

ハウpogbao 飽きる。食事を とって、 腹が フクレル、満ちたりる 姿。

 

   ハク[] グループ:

ハクbakbai しろ。しろい。あきらか。もうす。どんぐり状 実の 姿。ハカマを ハク 姿。その ハカマを ハグと、白い 肌が 現われる。→白状・自白。 ⇔ハク[吐・掃・佩]・ハグ[]

ハクpakbai 年長の 男子。伯父。はたがしら。[父・夫]・ハ[]() 同系。

ハクpakpo せまる。ドングリの 実が ハカマを ハク 姿(=ハ[] クル[來・刳])姿。

ハクp’akpai うつ。ヒョウシ[拍子]手のひらを パンと たたく。もと 擬声語。

ハクbakbo  すだれ。金属を 薄く たたき 延ばした もの。薄く ハガス[] 姿。

ハクbakbo  とまる。とめる。水深の 浅い (薄い) ところに 船を とめる こと。ハク[迫・薄] 同系。

ハクbakbo  ふね。ハク[] 同系。ドングリが ハカマを ハク ように、海水・河水・湖水を ハカマ として ハク 姿。

ハクp’akpo  かす。酒かす。ハガされ・バカされた 姿。

ハクpakbai  かしわ。ドングリ状の 実が なる 木。

ハクplukbao はぐ。むく。ハモノで 表面を ハギとる 姿。

 

   フク[] グループ:

piuegfu  富む。「宀(屋根)+畐」の 字形。「先祖の 霊を 祭る ミタマヤ[廟]で、酒樽を 供えている」姿。供えものが おおく、フクレて 見える 姿 から、「トム・ユタカ」の 意味と なる。フクフク・フックラ。

フクpiuekfu さいわい。フク[] 「酒樽 など 下部に ふくらみの ある 器」の 姿。 シ[示・礻]は、「神様 への お供えものを のせる テーブル」の 姿。そこで、「神様へ フックラした ものを お供え できる 生活」が フク[](幸福)という ことに なる。

フクp’iuekfu そえる。さく。 *「畐+刂」の 字形。フク[] (福・富) 刀で 二つに 分ける・割く姿。また、副える 姿。

フクpiuekfuフク[] はば。「畐+巾」の 字形。布の ヨコ方向の フクレ ぐあい から、やがて すべての ヨコハバ[横幅]を フク[] 呼ぶ。

 

   []・ハク[] グループ:

フ・ホpiuagfu 男性の 長老。はじめ。平らな 苗床に 苗の 芽生えた 姿。苗木の 根の ところを 包みこむ(パクル)姿。また、「中に ものを 包みこむ」姿から「たすける」の 意味を もつ ことに なる(ホ[]・フ[]など)。

pagbu おぎなう。衣服の ほつれを 包みこむ(パクル)姿で 補修する。

p’agpu うら。丸く 包みこむ(パクル) 姿の 地形

pagpu 苗を栽培する菜園。畑。「カコイ[]+音符甫」の会意兼形声文字。地面を平らにハギ[]とりハキ[]とり、そこへ 草木をハク[] (植えつける)姿。

ブ・ホbagbu とらえる。ダク[]・カカエル[] 姿。

ブ・フ・ホbiuagfu 助ける。車に 添え木を つけて、動きを たすける 姿。

ハクpakbo ひろい。ひろめる。バクチをする。平らに ひろげる こと。また、打ち当てる こと。

ハクbakbo うすい。うすれる。せまる。うすく ハギとられた 姿。ハク[] (せまる)、ハク[](平らに ひろがる)、フ[](うすく、平らに、敷き 広げる)ホ[](うすく敷き つめる)などと 同系。

バクbiuakfu しばる。パクパク・パクル 姿。 

p’iuagfu  しく。*うすく、平らに、敷き 広げる(=剥ぐ)姿。       

bag簿bu うすい 竹の 札。→   帳簿。

 

   バウ・バク暴 グループ:

ボウ・バクbog, buokbao, pu あばく。あばれる。あらい。あらわす。さらす。矢でハキ出す、さらけ出す姿。⇔ハク[掃・吐]・ハグ[]・アバク[]。ハク[](白状・自白・告白)。

ボウ・バクbuokbao, pu  さらす。日光に さらす(パクらせる。ハギ とらせる)姿。

ホク・バクpok, pogbao はじける。さける。*加熱して 中身が ハガレ[] 出る 姿。   

バク・ボウbukbao, pu タキ[]水流が はじける・ハガレ[] とぶ 姿。

 

   ヘウ票 グループ:

ヘウp’iogpiao 目じるしの札。人の 死体を 火葬に する 時、火の 勢いで 体が 浮き あがり、飛び うごく 姿。⇔ヒョコヒョコ・ヒョッコリ。

ヘウpiogbiao こずえ。しるし。高く かかげる。木の 梢が 高く 伸びて 揺れて いる さま。フキダス・ウカブ 姿。

ヘウpiogpiao ただよう。さすらう。さらす。水面に フキだし、浮かび 動く 姿。ただよう 姿。⇔ヒョコヒョコ・ヒョッコリ。

ヘウpiogpiao  つむじ風。軽く 高く フキあげる 風。ヘウ[標漂] ・バク[] などと同系の コトバ。

 

   ヘキ[辟]グループ

ヘキ piekbi  きみ。召す。「人+辛(ハリ などの ハモノ)」の 会意モジ。人の 処刑を 命じ、平伏させる 君主。また、平らに 横に ひらくの 意。→ 辟王(君主) ⇔ヒク[]・ヒコ[日子]・ハク[吐・掃]・ハグ[]・ヘグ[剥・折・減]

ヘキp’ekpi さく。ハモノで ヒキサク[引裂] 姿。⇔ヒク[弾・引]pick.

ヘキp’iekpi かたよる。ひがむ。「横に 平らに 開く」こと から、「横に ヒキズル、カタヨル」姿。→ 僻地。

ヘキpekbi かべ。横に 平らに 開く 姿。

ヘキpiekbi たま。薄く 平らな 玉。

ヘキp’ekpi ピリピリと 裂ける。カミナリが 落ちる。ヒキサク[引裂] 姿→(晴天の) 霹靂。⇔ビクビク・ビックリ( 仰天)・ヒキサク。

ヘキbiekpi ひらく。さける。戸を 横に 平らに 開く 姿。→ 開闢。

ヘキpiekbi いざり。足を 横に 平らに 開く、ヒキズル」姿。⇔ヒク。アシヒキ[足病]

ヘキp’ekpi  くせ。ヒガム 姿。

 

   ホク 北グループ:

ホクpuekbei きた[]。にげる。そむく。二人が 背を そむける 姿。

ハイpuegbei せなか・うしろ・うらがわ。そむく。せおう。 二人の 人が 背中を 向けあう 姿。ムク[] 姿=ハグ[] 姿。

   その他

ハイbuagpei  帯びる・はく。ピタリ・ヒキ付ける 姿。⇔ハク[]

piegbei  いやしい。いやしむ。ひくい。薄く ハギ とられた シャモジを もつ 姿。ヘキ[]・ヒ[] などと 同系。

biegbi  はしため。

buegbai  ヒエ。小さい もの。イネ科 植物。背が 低く、粒が 小さい。

piegbei  たていし。いしぶみ。薄く 平らな 石。

biuegfu  負う。背に する。そむく。負ける。人が 財貨を 背負う 姿。ホク[]・ハイ[] などと 同系。

 

まとめ
 ハク[]・フク[]・ホク[] など、日本漢字音の 語尾に -k子音が のこって いる ものは 比較的 気づき やすい のですが、ハイ[佩・背]・ハウ[]・ヒ[]・フ[富・負] などの ばあいは、国語辞典や 漢和辞典を 見ても、上古漢語音 までは 解説されて いない ことが おおい よう です。その中で 学研・漢和大辞典』だけは、すべての 漢字に 上古音から 現代音までの 変化を 解説して あります ので、たいへん 便利です。

 今回 紹介できた のは、p-k 漢語の ほんの 一部に すぎません。それでも「日本語と漢語は フタゴの 兄弟か」と 考え させられる ほどの 対応関係が ゾロゾロ 出て きました。それも、断片的な 単語と 単語の 対応 だけで なく、単語家族 まとめての 音韻対応関係 見られる のが たのしみ です。

 次回は、「p-k音の英語」をとりあげる予定です。