2014年10月19日日曜日

s-r音の 漢語 


『古事記』解釈の キーワード⑥

 
 

[]の銅器銘文 
 
 
サイ[西] の甲骨文 
 
 
[] の甲骨文 
 
 
 
 
 
画像に ついて
『古文字類編』(高明編、中華書局) から、サ[] 銅器銘文 および サイ[西]・シ[] 甲骨文を 引用させて いただきました。 

 

ザル[] 目を 通りサル[]、サラス[]
sar 漢語の 代表 として、まず sar砂・沙sha 字形・音形を とりあげます。

漢字サ[]は、「水+少」の 会意文字で、水に 洗われて 小さく ばらばらに なった 砂のこと(画像参照)。上古音は sarでしたが、途中で 語尾子音-r 脱落、現代音は sha なって います。

それでは、日本語で スナsuna 呼ばれる ものが、上古漢語では どうしてsar 呼ばれた ので しょうか?

単純に 考えて、「ザル 目を サラリ・スラリ 通り サル[] もの=sar[沙・砂]」と 解釈して みても よいかと 思います。『学研・漢和大字典』でも、「サ[]…サツ[](ばらばらに する、そぎとる)・サン[](ばらばらに した 肉)と 同系の ことば」と 解説しています。

sar沙・砂sha 基本義は、「バラバラに そぎとる 姿」とも いえますし、また「通りサル[] 姿」、「途中で 身を ソリ[] 落とされた 姿」、「(その結果) 粒が ソロフ[] 姿」とも いえるで しょう。

serの漢語…サイser西・晒・細xi//  sershai//  サイ・セイserxi, qi//
サイser西は、トウ[] 反対語で、「太陽が 大地と セリあいの 末、地平線の 下に 沈み サル 方向」。トウ[] 字形に ついては、もと「袋型の モノを ツキトオル 姿」で、「トウ[](屋根を 通す 棟木)・ツウ[](とおす)・ドウ[](上下に つきぬけて 動く)と 同系」と 解説されて いました。ここで、サイ[西] 字形に かんする 解説を 見て みましょう(あわせて画像参照)
ざる・かごを 描いた 象形文字で、セイ[](ざる状の 鳥の巣) その 原義が 残る。…日の光や 昼間の 陽気が、ざるの目 から ぬける ように 流れ去る 方向、つまり「にし」を意味する ことと なった。セイ[]さらさらと流し去る)・セン[](形を 残して 中身がうつり去る)と 同系の ことば(『学研・漢和大字典』)

サイserは、日光や 水の 流れに サラス こと。食材や 衣料などの 一部(ヨゴレ など)を サラス[] 姿。

サイserは、さらさらと 分散して 水を 流す こと。西・細・四・洗と 同系。

サイserは、こまかく 分かれる さま。 

サイserは、ザル状の 鳥の []。やがて スマイ[住居]・スム[] 意に。

サイser, 栖が 本字。ねぐらを 設けて スム[] こと。

sier 漢語…sier死・私si // 
sierは、「歹(ほねの 断片)+人」の 会意文字で、人が 死んで 骨きれに 分解することを あらわす(画像参照)。サイ[] などと 同系の ことば。⇔サラバフ(雨露に サラサレ、骨だけと なる)

sier は、三方から 囲んだ 姿を 示す 指事文字。私の 原字で、細かく わけて自 分の分だけ 囲いこむ こと。「(他の ものと 区別して)トリサル[取去]、セリダス[競出・迫出]、サラフ[] 姿」と 見る ことも できる。

sierは、「禾+音符厶」の 会意 形声文字で、収穫物を 細分して、自分の だけをかかえこむ こと。    

 

ソエル・ソロエル姿 
dzer 漢語…サイ・セイ 1558 dzerqi//  サイ・セイdzerji//  ザイ・セイdzerqi.//

サイ dzerは、もと ◇印が 三つ そろった さまを 描いた 象形文字。ととのえる。そろえる。    

サイdzerは、薬の 材料を 同じ 大きさに 切りソロエタ もの。 

セイdzerは、斉然 として 人体の 中央に ある 部分。へそ。

tser 漢語…セ・サイtserzhai// サイ・セイtserji// サイ・セイtserji//
サイtserは、ととのえる、そろえる こと。いつく。いつき。 

サイtserは、川の 水量を 過不足なく 調整する こと。ととのえる。そろえる。   

セイtserは、金品を そろえて さし出す こと。もたらす。

ts’er 漢語…サイ・セイts’er妻・凄qi//
サイts’erは、「又(て)+ カンザシを つけた 女」の 会意文字で、家事を あつかう 成人女性を 示す。 つま。めあわす。斉と 同系。  

セイts’erは、ヒサメ[氷雨]の 雨足が そろって 寒く、すさまじい さま。    

tsier 漢語…tsier姿・資zi//
tsier姿は、「女+音符 次」の 会意 形声文字で、女が ざっと 顔や 身なりを 整える さま=スガタ[素形]。ジ[]は、「二(そろえる)+欠 (身を かがめる さま)」の 会意文字で、「ざっと 身の まわりを 整理する」、「順番に 並べる」の 意。

tsierは、金銭や 物品を ざっと そろえて、用立てる こと。

 

次回は、s-r音の 英語
ここまで、ざっと s-r音の 漢語 サラって みました。現代漢語には 表われ ない 語音なので、上古音で どれほど 流通して いたか 見当が つか なかった のですが、いざ とりかかって みると、案外 スラスラ・スルスル・ズラリ・ゾロゾロ、おおくの s-r音語が ソロって いた ことが 分かり ました。もっと 時間を かければ、サラなる 新発見も 期待できますが、とりあえず これだけ でも、日漢英の 音韻比較 ために 多少なりとも 役だつ ことと 思います。
おそく なりましたが、次回は いよいよ s-r 英語の 音韻感覚 さぐります