[矢]の甲骨文
[東] の甲骨文
アユ[鮎]
画像に
ついて
今回の テーマは「アユの 風」です。カゼの 論議は 別の 機会に まわす ことに して、アユ という 語音に しぼって 考える ことに します。わたしは「アユは
ヤ[矢]が ユク[行]姿」と 解釈する 立場 から、画像 として まず 第一に ヤ[矢](漢字音シ)の 甲骨文を かかげ ました。また、「アユノ カゼ[東風]」という 表記例が ある こと から、第二の 画像として ヒガシ[東] (漢字音トウ)の
甲骨文を かかげ ました。いずれも 『古文字類編』(高
明
編)からの
借用です。
語音の 面から いえば、日本語の
アユと ヤは ヤ行音を 共有する こと から、なんとなく 同族語らしい 感じが します。しかし、漢語音
シ[矢]や トウ[東]には ヤ行音が ふくまれて いない ので、日本語 ヤ[矢]・アユ など との 音韻比較資料 と しては 不適当 と いう 感じです。その 点では、日本漢字音 でも ヤ行音を もって いる 漢語、 ヤ[也・夜・冶・射]・ユ[由・油・愉・愈・癒] などと 比較する ほうが、日本語 との 共通基本義を 見つけ やすい かと 思います。
しかし、それは もう すこし さきの 話。漢語音の 議論を する まえに、まずは アヤ・アユ・アユム
など、ヤマトコトバの
ヤ行音を
とりあげ、その
共通基本義を
たしかめる
作業を
進める
のが
順序で
しょう。そこで、第三の
画像として
アユ[鮎]の 写真をかかげて みました。この 写真は、「みら~れ」192号 (北日本新聞販売店みら~れ発行委員会)から 借用させて いただきました。
「アユの 風」って、どんな風?
2015年3月の 北陸新幹線 開通を 目前に して、「アユの風」という
コトバが
くりかえし
話題に
なって
います。また
JR西日本
から
並行在来線の
経営を
ひきつぐ
第三セクターの
名称も「あいの風 とやま 鉄道」と きまって いる ようです。
大伴家持が 萬葉集の 中で「アユ[東]の 風
いたく
吹くらし…」と
歌って
いる
こと
から、北陸新幹線開業を
機会に、県外
あるいは
海外
から
大量の
観光客を
よびこむ
ための
キャッチフレーズに
使いたい
という
こと
でしょう。それは
それで、ぜひ
大成功を
おさめて
いただきたいと
思います。ただし、商品を
売りこむ
には、まず
商品に
かんする
カンペキな
知識が
必要です。一夜づけの
知識で
まにあわせ
ようと
すれば、じきに
バケの
皮が
はがれ、ぎゃくに
信用を
うしなう
ことに
なりかね
ません。その点、当事者の
わたしたち
越中人は、準備万端
ととのって
いると
いえる
でしょうか?
こんな心 配を する のは、わたし自身
これ
まで
国語辞典や
参考書を
見て
きた
かぎり、「アユの風」の「アユ」に かんする 解説が 不十分だと 感じている から です。
これ まで、いっぱんに「アユは
風位名」、「アユの風=東風」と解釈する
ことで、なんとなく
分かった
ような
気に
なって
いました。しかし、これから
さき
県外
あるいは
海外
から
来る
観光客の
みなさんに
説明する
と
なると、話は別です。「アユの
風は、ほんとに
ヒガシの
風なのか?」、「なぜ
ヒガシ風
でなく、アユの
風と
よんだ
のか?」そのほか、想定外の
質問が
でて
くる
かも
しれません。どなた
から、どんな
質問をされても、十分
ナットクして
いただける
よう、さらに
客観的・合理的な
説明材料を
準備して
おきたい
もの
です。
アユの風は東風、それとも北東風?
たとえば、「アユは
風位名」と
説明した
ばあい、すぐに
「どんな
風位…東風?
北東風?」と
追及される
でしょう。どう
答えたら
よい
でしょうか?
「アユの風=東風」説には
それなりの
論拠が
あります。『萬葉集』の中に 大伴家持が 漢字で [東風]と 書いて、アユノカゼと 読んだ 歌が ある からです。しかも
わざわざ「越の
俗語、東風を
アユノカゼと
いへり」と
注釈つき
です。
アユノ カゼ[東風] いたく 吹くらし 奈呉の 海人の 釣りする 小舟 漕ぎ 隠る 見ゆ (萬.4017)
これだけの 説明で、ナルホドと
いって
くれる
人も
いる
でしょう。しかし、まだまだ
ナットクして
らえない
人も
いる
でしょう。「アユが
いつ・どうして
ヒガシ[東]を 意味する コトバに なった のか?」、「同音の 名詞 アユ[鮎]や 動詞 アユ[肖・零] などと 関係が ある のか、ない のか?」などと 質問されて、回答する がわが キリキリマイ させられる かも しれません。
日本語で、風位名の
アユが
なぜ
魚の
アユや
動詞
アユ[肖・零]と 同音 なのか という 問題は、漢語で 風位名の トウtung東dongが なぜ 名詞 tung棟dongや 動詞 dung動dongと 同音 なのか という 問題と おなじ です。
[学研・漢和大字典]に よれば、トウ[東]は 「中に 心棒を 通し、両端を しばった 袋の 形」の 象形モジ。ツウ[通](とおす)・トウ[棟](屋根を とおす 棟木)・ドウ[動](つきねけて うごく) などと 同系の コトバ。「太陽が 地平線を とおして つきぬけて 出る 方角」という こと から 方位名とも なりましたが、「東西に
つきぬけて
出る
(流通する) もの」という こと から ドンシ東西dongxi (シナモノ[品物]) という 意味用法も うまれて います。
つまり、t-k音語トウtung東dongの基本義は「ツキトオル姿」であり、この姿を もつ 動作や 方位・風位・構造物
などを
つぎつぎ
t-k音で よび、たくさんの t-k音語を 生みだしたと 考えられます。くりかえし
いえば、トウ[東]が 方位名・風位名と なったのは、「ツキトオル 姿」に 着目しての 命名 であり、この 段階で「東西南北」いずれの
方位
とも特定されては
いません。ただ、現実生活の
中で、やがて「ツキトオル風=東風」という意味用法が 定着して しまいました。
大伴家持が アユノカゼに [東風]を 当てた のは、このような 歴史経過を ふまえての ことと 考えられます。この事実を無視して、「アユの風」の東風説・北東風説を議論するのは、いささか
ピント
はずれで、ムダな
論議
という
ことに
なる
かも
しれません。
ツキトオル姿、ヤ[矢]・アユ[鮎]
ここ までの 議論で、t-k音 漢語 トウ東dongも 日本語 アユ(風位名)も、基本義「ツキトオル 姿」を 共有して いる ことが 分かり ました。そこで 気がつく のは、日本語 ヤ行音の コトバに 基本義「ツキトオル 姿」が しみわたって いる ことです。いちばんの 典型が ヤ[矢]で、「ツキトオル利器」の 姿。名詞 アユ[鮎]は、「矢を 射る 姿の 魚」。したがって、「アユの
風」は「矢を 射る ように はげしく 吹きつける 風」と 解釈する ことが できます。
これで ようやく アユ(風位)と アユ[鮎]との ツナガリが 見えて きました。次回は、正面 から 日本語の 音韻組織原則に したがって、アヤ・アユ・アユム などの 語音を 分析・解釈する 予定です。
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