2014年6月23日月曜日

「アユの 風」を 考える② 

 
 
[]の甲骨文
 
 
「カード64」より 
 
 
 

アユ[零・肖・鮎・(風位名)] 共通基本義
前回は、「アユの 風」の アユが 風位名 という こと から はじまって、漢語の 方位名 トウ[] 語源しらべ まで やって みましたが、語音 アユと 語音 トウ[]dongとの 接点は 見つかりません でした。その点 では、たしかに  失敗です。

しかし、「失敗は 成功の 母」と いう コトバが あります。失敗した アシアトの 中に、成功への ヒントが カクレンボ して いる かも しれません。

漢語の 方位名 トウ[] は、方位名 なる まえに まず「中に 心棒を 通し 両端を しばった 袋」、「ツキトオル 姿」を 表わす 語音 でした。トウ[] 上古音は tungで、もともと t-k音語 です から、その 基本義が「ツク、ツキトオル姿」だと いう 解説は、日本人 にも よく 分かります。もし そうだと すれば、日本語の アユに ついても、その正体 (共通基本義) アヤ[綾・文・漢]アユ[零・肖・鮎・風位]・アユム[] などの 語音のなかに かくされて いる はず です。

アユの 基本義は、「ユミ[] [] イル[]」、「ヤ[] イク[射来]ユク[]姿」。これが、わたしの 結論 (仮説)です。

 

アユ グループの コトバ
ここで「日本語の音韻組織原則」に ついて くわしく 解説して いる 余裕は ありませんが、アヤ・アユは 64 タイプの 中の a-a タイプ 分類され ます。この タイプの 中には ウウ[植・飢] などの w-wグループと アユ・イユ などの y-y グループが あります。

ここで まず y-y グループ として どんな コトバが 成立して いる か、チェックして みましょう。なお、ここで アユayu・イユiyu などの 音形は、もと yayu, yiyu などの 語頭子音 y- 脱落した ものと 解釈して います。

2音節動詞…アユ[零・肖]・イユ[癒・射癒]・オユ[]

2音節名詞など…アヤ[綾・文・漢]・アユ[鮎・風位名]・イヤ[弥・嫌・否]・オヤ[]

3~5音節語…アヤシ[怪・霊異]・アヤシム[奇・怪]・アヤニ[]・アヤブム[]・アヤベ[漢部]・アヤマチ[過・失]・アヤマツ[過・誤]・アヤマル[過・誤](上代語に「謝罪」の意味用例なし)・アヤムシロ[綾蓆]・アヤメ[漢女]・アヤメグサ[菖蒲草]・アユミ[]・アユム[]・アヨク[](ア[矢・足]ヨク[])・アヨヒ[足結]。イヤシ[]・イヨヨ[]・エヤミ[疫病]・オヤジ[]・オヨビ[]・オヨブ[]

ざっと ひろった だけで、ごらんの とおり です。語彙数 としては かなりの 量ですが、音形の 面では、ay-音が 大多数で、iy-, oy-音が ごく 少数 など、かなり かたよった 分布に なって います。

さて、これらの 音形が 表わす 基本義は どう なって いる でしょうか?

アヤ・アユ・アユムや アヤシ・アヤシム などに ついては、「矢が ユク」、「弓で 矢を 射る」姿 として 共通基本義を たどる ことが できそう です。

イユ・イヤスに ついても、「矢を 射こむ」(ハモノを 体内に イレ[入・容]、シコリを とりのぞく)姿と 解釈 できます。   

オヤ・オユ・オヨブ などと なると、共通基本義を たどる
ガカリが とぼしく なります。上代語に「オヨビ[]」が
り、現代語に「オヨビ[]腰」が ある こと など から、オユ
基本義は 「矢が オレマガル 姿」、「ユビ(関節) レマ
ガル 姿」と 推論して ました。おなじく、「動詞 オユ[]
名詞形が オヤ[]」と 推論。いかが でしょうか?

 

矢がユク姿=アユ・アユム
念のため、ここで とりあげた a-a音の コトバ(一部) 50
音順に ならべて みます。共通基本義を たどる うえで 役に
立てばと 考え、一覧式に しました。

アヤ①[綾・文] 縦横さまざまな模様.また、その模様を織り出した絹織物。*ヤ[]の姿。

アヤ②[]アヤヒト。*アヤオリ技術をもたらした漢土の人。

アユ①[](下二)こぼれ落ちる。*花・実・血・汗などが、ヤ[]のようにこぼれ落ちる。

アユ②[] (下二)あやかる。*矢を並べたように似ている。

アユ③[] アユ科の淡水魚。*「矢がユク」、「ユミ[]でヤ[]をイル[]」姿の魚。動詞アユの名詞用法。

アユ④風位名。*「矢がユク姿」の、はげしい風。

アユム[] あるく。*アシ[足・脚]をユミ[]なりにしてアユム。アユの姿になる。ヒザ関節を軸として、脚全体が弓の姿となり、全身が矢のように発射される。

イヤ[弥・射矢] (形状言) 物の程度の盛んなこと。→「雁がねはイヤ[射矢]遠ざかる」(2128)

イユ①[愈・癒](下二)病気がなおる。*「矢を 射こむ」(ハモノを 体内に イレ[入・容]、シコリを とりのぞく)。

イユ②[被射](下二)射られる。→「イユシシ[所射鹿](3874)

オヤ[] 親。祖先。*動詞オユ[]の名詞形。

オユ[](上二)老いる。年よる。*「矢がオレマガル」、「ヨリカカル」姿。

オヨビ[] 指。*関節を軸として、オレマガル・ヨリカカル・ヨビカケル姿。

オヨブ[](四段) いたる。ゆきわたる。*腰・肩・脚・腕などの関節をオリマゲル、ヨリカカル・ヨビカケル姿。→オヨビ腰。

 

ここまで、日本語アユにまつわるコトバをとりあげ、基本義
をさぐってきました。
次回は、漢語音(ヤ・ユなど)・英語音(arrowなど)との関連をチェックする予定です。