…t-n音の 漢語①…
「漢字物語」249イラスト
t-n音 漢語の
音形は サマザマ
前回の
ブログで「日本語(ヤマトコトバ)の t-n音は 少数派だ」と いいました。それでは、漢語のt-n音は どう なって いる でしょうか? 日本語に くらべれば、音形も サマザマ、
語彙数も
かなり
おおい
ようです。
まず、どんな
音形の t-n音語が 成立して いるか、日本漢字
音を たよりに ざっと 見当を
つけて
みます。タン(ダ
ン)・チン(ヂン)・テン(デン)・トン(ドン)などの 音形が
成立して
いますが、ツンは
見あたり
ません。こうした
点か
ら
みると、漢語の
t-n音も バライエティが すくない ので
しょうか?
しかし、日本漢字音に たよって 漢語の 音形を 整理分類する
のは いささか 危険です。
ナゼかと いうと、そもそも この「日本漢字音」と
いう
の
が、漢語音を
客観的・合理的に 整理分類した もの では な
く、日本語(ヤマトコトバ)の 音韻感覚に あわせて 分類し
表記した もの だからです。たとえば 日本漢字音 タン・ダンの 漢字を 辞典で しらべると 100字 以上 ありますが、これを
音形別(上古音)に
分類して みると、おおよそ つぎの ように なります(煩雑に なるので、現代音は
省略)。
dam 淡・弾・談// dan 但・袒// dem湛・譚・覃・//
duan団・段・断// k’em 堪// piuan 反//
tam 担・胆・站// t’am 灘//
tan丹・旦・坦・単//
t’an炭・嘆・歎// t’ang湯// tem耽・貪//
t’em探//
tuan 短・端・鍛//
ざっと かぞえて、14個の 音形に 分かれます。
ただし、このうち「カンk’em堪」、「ハンpiuan反」、「トウt’ang湯」を 日本漢字音で タン(堪能・一反・ユタンポ[湯湯婆])と 読んで いる のは いわゆる「慣用音」ですから、当然
t-n音語の ワク から はずれます。
さらに いえば、上古音dam, dem, tam, t’am, tem, t’em なども、もとは t-m音と してt-n音 から 独立した グループ でした。それが 時代の 変化と ともに t-n音に 合流して 現代に いたった もの です。
いずれに しても、日本漢字音では
タン・ダン2個の音形だけに なって いますが、上古漢語では dan,
duan, tan, t’an, tuan, 計5個の 音形に 分かれて いた ことに なります。
ここまでの 段階で「t-n音 漢語の 共通基本義」を 設定しよう と すると、いろいろ むつかしい 問題が 出て きます。中でも いちばん問題を ややこしく している のは、t-m音語が t-n音語に 合流した こと でしょう。この点に ついては、まえにも 「k-n音と k-m音との 関係」として とりあげて きました(「カヌ[兼]姿、カム[噛]姿。14.1.21.」、「カヌ・カム・カラムの カネアイ。14.3.28.」参照)。
なお、現代漢語では、dan, den, dian, duan, dun, tan, tian, tuan, tun, 計 9個の t-n音が つかわれて います(「中国語音節表」による)。
まえおきは これくらいに して、このあと 具体的な 事例に
ついて t-n音漢語の 基本義をさぐって みる ことに します。
トン[屯]の 字形と 意味
今回も、まずは小山鉄郎さんの「漢字物語・純の字編」(白川静文字学入門249。(北日本新聞連載中)を 読んでみます(イラストは はまむら ゆう さん)。
小山さんの 解説を 要約すると、こう なります。
「鈍感」の「鈍」、「純粋」の「純」にトン[屯]の字形が
ふくまれている。この「屯」は糸の末端を結びとめた形で縁
飾りのこと。単色で他の色がまじらないことから「純粋」の
意味を表わす。また糸の末端ということから「とどまる」、
「ゆきどまり」の意味を表わす。軍隊が「とどまる」のが
「駐屯」。水の流れが「とどまる」のが[混沌]。刀の刃の切
れ味が「とどまる」(にぶる)のが[鈍]。計画がゆきづまる
ことが[頓挫]。
トン[屯]の 音形から 意味を
さぐる
白川さんや 小山さんは、漢字の字形[屯]から トン[屯・沌・頓]・ドン[鈍]・ジュン[純] などの 字形を たずね、意味との
関係を
さぐります。イズミは、「はじめに
コトバ
ありき(モジは、コトバを 記録・保存する ために 発明された)]と 考える 立場から、タン・トンなどの
音形に こだわります。
できるだけ 精密な 議論を したい ので(もちろん 限度あり ですが)、ここに 出てきたt-n音漢字を、ローマ字(音素モジ)中心で
表記して
みます(上古音・漢字・現代音の順)。
トン:duen屯tun// duen沌・鈍dun// tuen頓dun// ジュン:dhiuen純chun//
こんな ふうに 表記して みると、tun音語の 性格・基本義が かなり 整理・整頓されて
きたように
見えます。わたしは
つぎの
ように
解釈して
みました。
結論から さきに いえば、漢語duen屯は 日本語ツノ・ツナと 音韻的対応関係に
あるといえます。T(d)uenはt(d)u + en。ツンツン・ツキデル 姿と ドンヅマリの 姿と 両面 あります。動物で
いえば、牛や
鹿の
ツノ[角]。植物で いえば 草や 木の メ[芽]・ネ[根]の姿です。
ヤマトコトバでは、その 音韻組織原則に したがって、ツナ[綱]・ツノ[角]の ような 2音節語と なり、漢語では 漢語の 組織原則に したがってduen屯、duan端・段 の ような CVC型 単音節語に なったと 考える わけです。
小山さんは「屯」に
ついて
「糸の末端を
結びとめた形で
縁
飾りのこと」と解説して
います。「布の縁に
糸飾りを
つけ
る」姿は、やがて「牛の頭に
ツノ[角]を かざす姿」です。
「布と糸飾り」や「牛頭とツノ」は、それぞれ別物といえば別物ですが、また「本体から ツキデル
もの」という
点で「ツナガル存在」なのです。
「トン[屯]は ジュン[純]の 元の 字」という こと ですが、ハタ[機]で 布を 織る ときのタテイト[経糸]の 姿と 考えれば 分かりやすい でしょう。布を 織る には、まず タテイトを セットした ところに ヨコイト[横糸]を 通して ゆきます。「布の
縁の
糸飾り」と
いうのは、布を
織り終わった
残りの
部分。タテイト
だけで、ヨコイトが
まじって
いない
ので、それだけ
単純・純粋です。また、タテイトは
ヨコイトを
つぎつぎ
ツラヌキ・ツナグ こと で、ツノ・ツナの 役割を はたして います。
漢字[屯]は、ヤマトコトバの 「タムロスル」に 当てられる ことが あります。タムロは
タムラ[群]と おなじで、「同類の
むれ。仲間。軍兵の
集合」を
意味する
コトバです。「駐屯」や「混沌」に
通じる
姿が
見られます。
ここまで きて、t-n音 日本語と 漢語の 共通基本義が かすかに 見えて きた 感じが します。このあと もう すこし t-n音 漢語を おいかけます。
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