2014年4月22日火曜日

t-n音語は サマザマ 

t-n音の 漢語①…
 
 
「漢字物語」249イラスト
 
 
t-n 漢語の 音形は サマザマ
前回の ブログで「日本語(ヤマトコトバ) t-n音は 少数派だ」と いいました。それでは、漢語のt-n音は どう なって いる でしょうか? 日本語に くらべれば、音形も サマザマ、
語彙数も かなり おおい ようです。
まず、どんな 音形 t-n音語が 成立して いるか、日本漢字
たよりに ざっと 見当 つけて みます。タン(ダ
)・チン(ヂン)・テン(デン)・トン(ドン)などの 音形が
立して いますが、ツンは 見あたり ません。こうした 点か
みると、漢語の t-n音も イエティが すくない ので
しょうか?
しかし、日本漢字音に たよって 漢語の 音形を 整理分類する
のは いささか 危険です。
ナゼかと いうと、そもそも この「日本漢字音」と いう
が、漢語音を 客観的・合理的 整理分類した もの では
く、日本語(ヤマトコトバ) 音韻感覚に あわせて 分類し
表記した もの だからです。たとえば 日本漢字音 タン・ダン 漢字を 辞典で しらべる 100 以上 ありますが、これを 音形別(上古音)に  分類して みると、おおよそ ぎの ように なります(煩雑に なるので、現代音は 省略)
dam 淡・弾・談//   dan 但・袒//    dem湛・譚・覃・//   
duan団・段・断//    k’em //    piuan 反//   
tam 担・胆・站//    t’am 灘//    tan丹・旦・坦・単//
t’an炭・嘆・歎//    t’ang//    tem耽・貪//    t’em//   
tuan 短・端・鍛//
ざっと かぞえて、14個の 音形に 分かれます。
ただし、このうち「カンk’em堪」、「ハンpiuan反」、「トウt’ang湯」を 日本漢字音で タン(堪能・一反・ユタンポ[湯湯婆]) 読んで いる のは いわゆる「慣用音」ですから、当然 t-n音語の ワク から はずれます。
さらに いえば、上古音dam, dem, tam, t’am, tem, t’em なども、もとは t-m してt-n から 独立した グループ でした。それが 時代の 変化と ともに t-n音に 合流して 現代に いたった もの です。
いずれに しても、日本漢字音では タン・ダン2個の音形だけに なって いますが、上古漢語では dan, duan, tan, t’an, tuan, 5個の 音形に 分かれて いた ことに なります。
ここまでの 段階で「t-n 漢語の 共通基本義」を 設定しよう すると、いろいろ むつかしい 問題が 出て きます。中でも いちばん問題を ややこしく  している のは、t-m音語が t-n音語に 合流した こと でしょう。この点に ついては、まえにも k-n音と k-m音との 関係」として とりあげて きました(カヌ[]姿、カム[]姿14.1.21.」、「カヌ・カム・カラムの カネアイ14.3.28.」参照)
なお、現代漢語では、dan, den, dian, duan, dun, tan, tian, tuan, tun, 9個の t-n音が つかわれて います(「中国語音節表」による)。
まえおきは これくらいに して、このあと 具体的な 事例に
ついて t-n音漢語の 基本義をさぐって みる ことに します。
 
トン[] 字形と 意味
今回も、まずは小山鉄郎さんの「漢字物語・純の字編」(白川静文字学入門249。(北日本新聞連載中)を 読んでみます(イラスト はまむら ゆう さん)。
小山さんの 解説を 要約すると、こう なります。
「鈍感」の「」、「粋」の「純」にトン[]の字形が
ふくまれている。この「屯」は糸の末端を結びとめた形で縁
飾りのこと。単色で他の色がまじらないことから「純粋」の
味を表わす。また糸の末端ということから「とどまる」、
ゆきどまり」の意味を表わす。軍隊が「とどまる」のが
駐屯」。水の流れが「とどまる」のが[混沌]。刀の刃の切
れ味が「とどまる」(にぶる)のが[]。計画がゆきづまる
ことが[頓挫]
 
トン[] 音形から 意味を さぐる
白川さんや 小山さんは、漢字の字形[]から トン[屯・沌・頓]・ドン[]・ジュン[] などの 字形を たずね、意味との 関係を さぐります。イズミは、「はじめに コトバ ありき(モジは、コトバを 記録・保存する ために 発明された)] 考える 立場から、タン・トンなどの 音形 こだわります。
できるだけ 精密な 議論を したい ので(もちろん 限度あり ですが)、ここに 出てきたt-n音漢字を、ローマ字(音素モジ)中心で 表記して みます(上古音・漢字・現代音の順)
トン:duentun// duen沌・鈍dun//  tuendun// ジュン:dhiuenchun//
こんな ふうに 表記して みると、tun音語の 性格・基本義が かなり 整理・整頓されて きたように 見えます。わたしは つぎの ように 解釈して みました。
結論から さきに いえば、漢語duen 日本語ツノ・ツナ 音韻的対応関係に あるといえます。T(d)uent(d)u + enツンツン・ツキデル 姿と ドンヅマリ 姿と 両面 あります。動物で いえば、牛や 鹿の ツノ[]。植物で いえば 草や 木の []・ネ[]の姿です。
ヤマトコトバでは、その 音韻組織原則に したがって、ツナ[]・ツノ[] ような 2音節語 なり、漢語では 漢語の 組織原則に したがってduen屯、duan端・段 ような CVC 単音節語 なったと 考える わけです。
小山さんは「屯」に ついて 「糸の末端を 結びとめた形で
飾りのこと」と解説して ます。「布の縁に 糸飾りを つけ
る」姿は、やがて「牛の頭に ツノ[] かざす姿」です。
「布と糸飾り」や「牛頭とツノ」は、それぞれ別物といえば別物ですが、また「本体から ツキデル もの」という 点で「ツナガル存在」なのです。
「トン[] ジュン[] 元の 字」という こと ですが、ハタ[] 布を 織る ときのタテイト[経糸] 姿と 考えれば 分かりやすい でしょう。布を 織る には、まず タテイトを セットした ところに ヨコイト[横糸] 通して ゆきます。「布の 縁の 糸飾り」と いうのは、布を 織り終わった 残りの 部分。タテイト だけで、ヨコイトが まじって いない ので、それだけ 単純・純粋です。また、タテイトは ヨコイトを つぎつぎ ツラヌキ・ツナグ こと で、ツノ・ツナ 役割を はたして います。
漢字[]は、ヤマトコトバの タムロスル」に 当てられる ことが あります。タムロは タムラ[] おなじで、「同類の むれ。仲間。軍兵の 集合」を 意味する コトバです。「駐屯」や「混沌」に 通じる 姿が 見られます。
ここまで きて、t-n 日本語と 漢語の 共通基本義 かすかに 見えて きた 感じが します。このあと もう すこし t-n 漢語を おいかけます。

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