…t-r音の漢語…
漢字物語258イラスト
漢字物語259イラスト
画像について…北日、『漢字物語』のイラスト(はまむらゆうさんの作品)から 借用させて いただきました。
t-r音の漢語を考える
前回の t-r音 日本語(ヤマトコトバ)に
ひきつづき、t-r音の 漢語を とりあげます。さいわい、北日本新聞に
連載中の
『漢字物語』の なかでも、t-r音の 漢字・漢語が 多数紹介されています。漢字の 字形と 意味の 関係に ついて、小山鉄郎さんが
分かりやすく解説して
おられる
ことに、いつも
敬服して
います。また、毎回
そえられて
いる
はまむら ゆう
さんの
イラストを
ながめるのも
たのしみ
です。
ここでは、『漢字物語』(214, 258, 259)で とりあげられた漢字・漢語に ついて、小川さんの
解説を
土台に
して、コトバの
音形と
意味との
関係を
考えて
みたいと思います。つまり、表意モジとして 特定の
漢字形が 特定の 意味を あらわす ように、音声言語としても、特定の 音形(音韻構造)の コトバ(t-r音語など)は、特定の 意味(事物の姿)を あらわす ことに なると 考えて います。
じっさいは どうか? 具体的に 見て ゆきましょう。
竹簡を 順序 よく
束ねる
小川さんは 『漢字物語』(214)の中で、字形[弟]を 音符として 共有する 漢字 ダイ・テイ[第・弟・悌・梯]を 1グループに まとめて 紹介し、その 共通基本義を「竹簡を
順序よく
束ねる」姿と
解説して
います。
[弟」は、なめし革のひもでものを束ねる形…なめし革で順序よく縛り束ねるので「次第」「順序」の意味…「兄弟」の「おとうと」の意味に…[第]は[弟]の省略形に[竹]を加えた文字…[竹]は「竹簡」のこと…ハシゴ[梯子]の[梯]にも[弟]…「次第に」の意味…[剃]は刃物で髪を次第に下に落とす…[涕]は「なみだ、はなじる」の意味。これも次第に下に落ちるものです(要約)。
イラストで ごらんの とおり、ここで とりあげた 漢字 [弟・第・悌・梯]は すべて 字形[弟]を 音符として 共有して います。その 語音は 日本漢字音で ダイ・テイと なって いますが、もう すこし くわしく 調べて みると、上古音が ter, derの ような t-r音語で、そのご 語尾子音の -rが 脱落して ti, diの ような 開口音 (母音終り)に なった ことが 分かって います。
ダイ・テイder弟・第・悌di4。 タイ・テイter剃・涕ti4。
Der, terと いえば、すぐ ヤマトコトバの デル[出]・テル[照] 姿が 連想されます。そういえば、日光・月光 とも「遠く まで 出る・照る」姿で
あり、その
距離に
比例して「次第に
光度が
オチル」(タラタラ・ダラダラ、タレさがる)姿と いう ことに なります。
こうして みると、ヤマトコトバも 漢語も t-r音語の 基本義は 共通だと 感じさせられます。日本語
オト[音・弟]・オトウト[弟]・オトス[落] などは 動詞 オツ[落]の 同族語 だと 思われますが、オチル[陥]・オトル[劣]・オトロフ[衰]や オツル[落] (オツの連体形)など では、チル・トル・ツルなどの
t-r音を もつことになり、オチル[落] 姿を 共有して います。
テイ[悌]は、弟として 一段タレ[垂]さがる 姿。
テイ[梯]は ハシゴ。一段 ずつ 高く ツキデル、または タレ[垂]さがる 姿。
剃髪の
テイ[剃]は、髪を ソリオトス こと。
テイ [涕]は ナミダ。次第に 目から タレ[垂]オチル[落] もの。
身長や 姿勢の 低い
こと
小川さんは 『漢字物語』(258)の中で、字形[氐]を 音符として 共有する 漢字 タイ・テイ[底・低・抵・邸]を1グループに まとめて 紹介し、その 共通基本義を「身長や姿勢の低い こと」と 解説して います。
[底]と[低]は「そこ」と「ひくい」という意味の字…[氏]は先祖の祭りの際に供えた肉を切るナイフの形を字にしたもの…ナイフで底辺を削って平らにする文字が[氐]…[一]は削られて平らになった底辺のこと…[底]は家の底辺の平らなところ…「邸宅」の[邸]の[氐]もナイフで底を削り、低く平らにすることで、これは低くて平らな一区画のこと。元は諸侯が都に参上した時に宿泊する屋敷のこと…「砥石」の[砥]は…石でナイフの刃を研ぐ形です(要約)。
シ[氏]は dhieg氏shiで、t-k音ですが、[氐]グループの 漢字は すべて t-r音です。
タイ・テイter氐・底・低・抵・邸di。 シtier砥zhi(旨・脂と 同音)。
シ[氏]は、もと サジ・ナイフの 姿を 表わすt-k音の コトバ。日本語でも
ツク[突・着・附] 姿が やがて ツグ[次・継] 姿に つながる ように、「ツギツギ 血統を ツグ」姿を 表わす ことに なった ようです。
テイ[氐]は、サジの 底が 下の面に トドク・ツキアタル 姿。
テイ[底]は、建物の 下底の こと。それだけ タレ[垂]さがった ところ です。
タレサガリ、ツキアタル 動きに さからって ツキデル
動きが
「抵抗」の
テイ[抵]。
邸宅の テイ[邸]も、もとは「低くて 平らな (地ならしをした)一区画」の 意味 でした。
この 「高(ツキデル) 低(タレサガル)差の ある 地面を タイラ[平]に する] には、それなりの 労働力が 必要。つまり、その 当時に それだけの 権力が蓄積されて
いた
ことが
推定されます。t-r音の つながりで いえば、ヤマトコトバの タラシ[帯] (『古事記』上・中巻)や テラス[照] (同上巻)の 意味・用法との 対応関係も 考えられます。
テイダイ[邸第](邸宅)・ジュラクダイ[聚楽第]などの コトバが 成立する のも、[邸]と [第]が よく 似た t-r音語で、共通する
基本義を
もって
いる
から
でしょう。
ter邸diの 語音に ついては、英語 terraceとの 対応関係も 気になり ますが、それは次回に
あらためて
とりあげる
ことに
します。
うまい食物を指さす
『漢字物語』(259)では、字形[旨]を 音符として 共有する 漢字シ [旨・指・脂・嗜]を 1グループに まとめて 紹介し、その 共通基本義を「うまい食物を指さす」と 解説して います。
[指]は[旨]にテヘン[扌]を加えた文字…[旨]は古代文字を見ると[氏]とエツ[曰]を合わせた字…[氏]は、同じ祖先を持つ氏族たちが集まって食事をする時、祭りに供えた肉を、氏族の長が切り分けるナイフの形…この[曰]は、肉などを入れた器…小刀で切ることを[旨]と言い…食べて味がよいので「うまい」意味となり、さらに…物事の味わい、「おもむき、むね」の意味にも用いる…[旨]は食物の味がうまいこと。[指]はその食物を指さす意味の字…嗜好品の[嗜]…[耆]は[老]と[旨]を合わせた形。つまり「老いて旨しとするもの」。それに[口]をそえて「嗜好」(たしなみ好むこと)とした。元は飲食関係の言葉(要約)。
シ[旨]グループの 漢字は、もと t-r音の コトバを 表わす モジ でした。
tier旨・指・脂zhi。 dhier嗜shi。
t-r音の ヤマトコトバで
解釈して みましょう。
皿に 盛られた うまい 肉に サジ・ナイフを タラス[垂] 姿が シ[旨]。うまい 肉を 見て、思わず「食指が動く」(指が ツキデル) 姿が シ[指]。
その 肉から タラタラ・タル・デル・タレル[垂] ものが シ[脂] です。
そして、うまい モノや すきな モノの ために テマヒマを かけ、なんとか タラシこもうと する 姿が シ[嗜]と 考えて よいで しょう
タル[垂]・デル[出]姿
以上、わたしの 手元に ある「漢字物語」の
中
から、t-r音の 漢字・漢語を えらんで、字形・音形と 意味との 関係を さぐって きました。これだけ でも、t-r音漢語の 基本義が あらかた 見えて きたとも 思いますが、もうひとつ dhiuar垂chui グループに ついて ご紹介して おきます。
スイdhiuar錘chui(上から 下へ タレル。はかりの
おもり)、dhiuar睡shui(まぶたが タレル)、diuer椎hui(重い モノを タラス。つち) など。
ヤマトコトバの タル・タレル・タラス などと 対応すると 考えられる 漢語グループです。
なお、まえにも この ブログ (12-8-9号)で、スイ・ツイtiuer隹・追zhuiなども ふくめて ご紹介した ことが あります。あわせて ご参照 いただければ、しあわせ です。
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