・・・t-r音の日本語…
「カード64」より
画像について
「カード64」の 1枚 (t-r音語の部)。イラストは 切り絵 作家 梶川之男さんの 作品です。きょう から しばらく、日漢英の t-r音語に ついて 考えて みます。まずは 日本語から。
t-r音の 日本語は、いつごろ・どんな かたちで うまれた ので しょうか?くわしい
こと、正確な
ことは
わかりません。縄文時代や
弥生時代の
コトバに
ついては、ほとんど
資料が
ありません。たしかな
語音資料が
でて
くる
のは、やはり
中国大陸
から
漢字が伝来し、さらに 表意モジの 漢字を 表音モジ
として
使う
ように
なって
から、つまり『古事記』や『万葉集』が できて からと 思われます。
「はじめに コトバ ありき」と いいますが、モジが 生まれる はるか まえに、たくさんの コトバが うまれて いました。『古事記』や『万葉集』の
なか
にも、おおくの
t-r音語が 見られます。ここ では、ヤマト政権の 成立や 『古事記』・『万葉集』の
編纂とも
関連すると
思われる
t-r音語の 話 から はじめる ことに します。
このまえ m-k音の ヤマトコトバの 例と して「マキムクの 日代の 宮は…朝日の ヒデル[日照] 宮」の 歌を ご紹介しました(8月31日号)。この ヒデルは、もと ヒ[日]テル[照]の t-子音が d-子音に 変化した もので、いっぱんに
連濁と よばれて います。しかし、もう すこし つっこんで 考えて みると、「テル[照] 姿は デル[出] 姿」。ヤマトコトバでは、テル と デルは もと 1語 と して 意識されて いた よう です。それが やがて 漢字で表記する 段に なって から、テル[照] と デル[出]に 書き分ける ように なったと 考えられます。
さらに いえば、「テル[照] ものが テラ[寺]」です。漢字と いっしょに 仏教が 伝来しましたが、その
シンボルが
テラ[寺]の 堂や
塔 でした。天に むかって ツキデル
寺の 屋根ガワラが 日光・月光を うけて テリかがやき、その まわりを テラシだして いました。
アマテラスとテラの関係
『古事記』は、日本列島に ヤマト政権が 成立した 経過を 記録し、さらに ゆたかな 国づくりを めざす ことを 宣言した 公式文書 ですが、その 中心に なる ものが 天皇制であり、さらに その 中核と なる ものが アマテラス神 信仰です。
アマテラス神は「宇宙を 照らす 神」、つまり 日の神、太陽神と
いう
こと
です。日本列島
では、それまで
自然崇拝の
なごりで、ヤオヨロズ[八百万]の 神が 同格で まつられていた のですが、ヤマト政権の 成立と ともに、アマテラス神が
別格の
最高神で、ヤオヨロズの
神が
これを
ささえる
と
考える
勢力が
出て
きました。それが
日本神道と
よばれる
ながれ
です。
ところが、この アマテラスを 信仰する 勢力と ならんで、テラを
信仰する
勢力も
のびて
きました。テラ[寺] の堂塔を シンボルと する 日本仏教の ながれ です。
アマテラスと テラは、テラと いう 語音を 共有する 点から みて 分かる とおり、もともと フタゴの 兄弟 みたいな もの です。
神社と 寺は、「神仏習合」と いって、共存共栄して
いた
時代も
あります。その
ぎゃくに、同族内での
覇権
あらそいを
して
いた
ことも
あります。たとえば、テラと
いう
コトバ
そのものが「斎宮忌詞」(禁句)で、かならず「カワラブキ[瓦葺]」と いいかえる ことと されて いました(「皇大神宮儀式帳」)。アマテラス派の 立場と しては、テラ・テラスと いう コトバは それだけ 神聖な コトバで あり、自分たちの
専売特許に
して
おく
必要が
あった
ので
しょう。
アマテラス神とタラシヒコ天皇
アマテラスと いう コトバは、『古事記』(上・中巻)の なかで くりかえし 出てきますが、テラ[寺]は ただ 1回「テラマ[寺間]の ハカ[陵]」として 出てくる だけです。
アマテラスの 表記法を 見ると、上巻では アマテラスオホミカミ[天照大御神]、中巻ではアマテラスオホミカミ[天照大神]と 表記されて います。
アマテラスの 用例は 中巻で 2例 だけ(下巻では ゼロ)と なりますが、いれかわるようにして、おなじくt-r音の タラシ・タラシヒコの用例が 多数 見られます。その 代表的な 例として、つぎの
タラシヒコを
あげて
おきます。
オホヤマトタラシヒコクニオシヒト[大倭帯日子国押人](6代、孝安天皇)。
オホタラシヒコオシロワケ[大帯日子忍代別](12代、景行天皇)。
ワカタラシヒコ[若帯日子](13代、政務天皇)。
タラシナカツヒコ[帯中津日子](14代、仲哀天皇)。
ヤマトコトバの 原則に 照らして 解釈すれば、タラシは 動詞 タラス[垂・足]の 連用形兼名詞形です。アマテラス神が「アマ[天・宇宙]を テラス(統治する)」神で ある ように、タラシ[帯・足]ヒコ[日子・彦]は「(地上の 国土に)ヒカリを タラス(統治する)」ヒコ[日子・彦]、つまり 国王 という ことに なります。
『古事記』では、人名の タラシは すべて[帯]と 表記されて いますが、『万葉集』では人名としての タラシの 用例が ありません。ただ ひとつ「アマタラシタリ[天足有]」(万.174)という 用例が ありますが、これは 動詞 タラス[足]の 連用形 としての 用法です。
なお、タラシに 当てる 漢字が [帯・足] 2字 あるのは ナゼか、という 問題が ありますが、それは タラシという ヤマトコトバに ピタリ 1対1で 対応する 漢語(漢字)が ないため、なるべく 近い 意味用法の もので まにあわせた という ことです。
タラシには、[帯・足] だけで なく、[垂]を 当てても よかったと 思います。テラスも
タラスも
t-r音に s音が ついた 語音で、「t-rの 姿に する」という 基本義を もっています。たとえば「日が照る」ことは「日が出る」こと
であり、「あたり
一面を
照らす」こと
であり、やがて「あたり
一面を
支配(統治)する」ことに なります。漢字の 意味を たどって いえば、太陽の 光を タレル[垂] 姿は 太陽が 足を タレこむ 姿で あり、日ざしを 受ける がわ としては、それだけ 満ちタリル(満足する) ことに なります。さらに
いいかえれば、「あたり
一面に
実りを
タラス[垂]・モタラス[帯來]」ことに なります。
タル[垂]の 漢字音は スイ
ですが、その
上古音が dhiuar という t-r音 だった というのも、たいへん おもしろい と 思います。t-r音漢語に ついては、次回に
とりあげます。
さいごに なりましたが、これまで にも 日漢英のt-r音語について、この
ブログで
ご紹介して
きました(12.7.24.// 12.8.9.// 12.9.2. //12.10.23.)。ご参照 いただければ しあわせです。
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