2013年1月15日火曜日

カム・クム姿


k-m音語の基本義をさぐる



『古文字類編』(部分)





画像について
『古文字類編』(高明編。中華書局)から借用しました。
 

2012年の漢字はキン[]
2012年の世相を表わす漢字の第1位にキン[]がえらばれました。ロンドン五輪での日本人選手の活躍、東京スカイツリーの開業、山中伸弥教授のノーベル賞受賞など、「おおくの金字塔が打ち立てられた年」ということが理由だといいます。

そういわれてみると、2012年はすばらしい1年だったということになりますが、実感としては、いまひとつピンとこない点があります。東北地方大震災の復興がおくれている。尖閣諸島や竹島がさわがしい。年末の衆議院選挙で政権与党が惨敗。これではどころか、でもでもない。もはや金属とは呼べない。ドロヘドロをかぶっただけ、という感じがしないでもありません。

 
もとの発音はキム・コム
ところでこのキン[]というコトバ。もとは漢語です。ヤマトコトバでは,カネもしくはクガネ・コガネなどにあたります。
漢字キン[]について「学研・漢和大字典」でしらべてみると、
「点々のしるし+土+音符今」の会意兼形声文字。土の中にとじこもって含まれた砂金をあらわす。キン[](おさえてとじこめる)ガン[]などと同系。
と解説されています。また日本漢字音は、呉音コン(コム)、漢音キン(キム)。上古音kiem、現代音jin。つまり、上古音の音節語尾-mが現代音では-n変化しています。

子音m-からn-へ変化する傾向はヤマトコトバにも見られます。ミナ[]ニナカミサシ[髪刺]カンザシ[]など。

ただし韓国語では、いまでもk-m音のままのようです。韓国人の姓におおいキム[]さんなどがそうです。キム イルソン[金日成]キム デヂョン[金大中]など。

 
カム姿、コモル姿
ここであらためて画像「キン[]・カン[]の甲骨文」をながめてみましょう。

漢字キン[] の甲骨文は、ローマ字のか三角帽子のようにも見えますが、よく見るとAの横線の下にもう1本横線があります。字典には、「A印(ふたで囲んで押さえたことを示す)+一印(とり押さえたものを示す)の会意文字」と解説しています。つまり、カム・カコム・オサエコム姿。視点をかえれば、トジコモルすがた。あるいは、容疑者をとりおさえ、頭にすっぽり三角帽をかぶせ(視界をさえぎる)、身柄を確保した姿ともいえます。その緊張した時間が、イマ[]という意味・用法になったと考えられます。ヤマトコトバでいえば、イマ[]=イ[射・忌・斎][]のような発想法です。

 
キン[]の同族語
A字型・フクロ型容器にトリコミ、ふたをしてトジコメル対象は、人でもトリでも、鉱物でもかまいません。トリならばキン[]、鉱物ならキン[]となります。ただし、漢字キン[]の甲骨文は見あたりません。銅器銘文として、はじめて登場します。

キン[] giemqinは、「柄つきの網+音符今」の会意兼形声文字で、アミにかかってトラエられたトリ[]のこと。キン[](トリコにする)の原字です。

キン[]k’iemqinは、「衣+音符今」の会意兼系形声文字。その中に体をトジコメ、体温をたもつ夜着。 

キン[]kiemjinは、「衣+音符今」の会意兼系形声文字。体をトジコメルため、衣類をとじあわせるエリモト。

その他、ガン[](フクム)ギン[](口をふさいで声だけ出す) なども、音符として[]字形を含み、カム・コム(コメル・コモル)姿を表わしています。

 
キメル・コメル姿
音譜キン[]と同源と考えられる漢字があります。

キン[]kiemjin。「林+示(祭壇)」の会意文字。神域のまわりに林をめぐらし、かってに出入りできないようにすることを示す。つまり、キメル・キマル・コメル・コモル姿です。

キン[]を音符とする漢字に、キン[](えり。キン[]と同源)キン[](口をつぐむ)などがあります。

 
カムとアマイ[]
漢字カン[]の甲骨文は、ごらんのとおり、口の中に食物をカム・フクム姿の字形です。
「口+・印」の会意文字。上古音kam。現代音gan

カム姿は、食物を味わう姿。その姿から、アマイ・アマヤカス・アマンズルなどの意味を表わすようになりました。

カン[](口の中に含んで味わうみかん)カン[](カム・フクム姿でツカミとる金ばさみ)などもおなじ単語家族です。

  

コトバの意味は音形できまる
よく「音譜発音を表わすだけで意味とは関係ない」などといいます。ほんとにそうでしょうか?
たとえばカン[甘・柑・鉗]の場合。3()とも同音ですから、音形だけで意味の区別を表わすことができません。そこで、木偏や金偏をつけて、「もとの甘」・「植物の甘」・「金属の甘」を区別して表記するようにしました。このような方法で漢民族は、宇宙の複雑な現象に対応できる「精密な表意文字の体系」をつくることを目ざし、一定の成果をあげました。それはそれで、すばらしいことです。しかし、それは書面言語の世界での話。日常会話はもちろん、電話・ラジオ・テレビなど音声言語の場面で、いちいち「木偏の甘」・「金偏の甘」と説明しながらしゃべっているわけではありません。そこでは、「漢字でどう書くか」は問題になりません。「漢字か、カナか、ローマ字か」も問題になりません。ただカンkanという音声・音形が音波・電波をとおして伝えられるだけです。
コトバには、意味がコメられています。ハナシコトバ(音声言語)の場合、コトバの意味を表わすのはオト(音声)だけです。


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