ニフ[入]・ナイ[内]の甲骨文
画像について
n-p音の漢語の基本義を考えるうえでの資料として、漢字ニフ[入]とナイ[内]の甲骨文をとりあげました。『古文字類編』(高明編、中華書局)からの借用です。
n-p音の漢語
n-p2音節のヤマトコトバでは、動詞ナフ(①なえる。しびれる。②ナワをナウ[綯])・ナブ[隠・靡・並]・ヌフ[縫]・ノブ[展・延・述]などが成立し、そのまわりに名詞ナハ[縄]・ナへ[苗]・ナベ[鍋]・ニハ[庭]・ニフ[丹生]・ニへ[贄]・ニホ[丹穂]・ネブ[合歓木]などの単語家族ができていました。n-p音の漢語は、どうなっているでしょうか。
現代漢語に、n-p型の音節はありません。上古漢語でも、ニフ[入]・ナイ[内]・ナフ[納]・ネフ[囁]など、ごく少数だったようです。『学研・漢和大字典』(藤堂明保編)の解説を見ましょう。
ニフ[入] niep>ru…↑型に中へつきこんでいくことを示す指事文字。また、入り口を描いた象形と考えてもよい。内の字に音譜として含まれる。入と納は同系のことばだが、のち、入はおもに「はいる」意に、納は「いれる→おさめる」意に分用された。
ナイ[内]nueb>nei…屋根の形と入とをあわせた会意文字でおおいの中に入れることを示す。入・納と同系。
ナフ[納]nep>na…「糸+音符内ナイ」の会意兼形声文字で、織物を貢物としておさめ、倉にいれこむことを示す。
ネフ[囁]niap>nie…「口+音符聶ネフ」の会意兼形声文字で、口を寄せてそっとささやくこと。
こうしてみると、n-p音漢語ニフ[入] ・ナイ[内]・ ナフ[納]・ ネフ[囁]は、いずれも「はいる。いれる」姿を共有しています。その点では、n-p音ヤマトコトバのナフ[綯]・ナブ[隠・並]・ヌフ[縫]・ノブ[展・延・述]などとよくにています。たとえば「ナハをナフ[綯]」作業は、2スヂのワラを「ナブ[並]」したあと、「身をヨジリ、相手の中へイレ[入]コム」、「ヌヒ[縫]あわせて、1本のナハ[縄]にする」姿です。
ここでもういちどニフ[入]の甲骨文をながめていると、「ナハをナフ」(2スヂのワラをヌヒ[縫]あわせて、1スヂのナハ[縄]にする)姿にも見えてきます。あるいはぎゃくに、植物のタネが根をハリダス姿にも見えます。n-p音ヤマトコトバでいえばノブ[延]・ネバフ[根延]姿、あるいは「根が大地をヌフ[縫]」姿です。
ナイ[内]の字形は、もともと「屋根型のオオイのなかにイレル」姿。n-p音の基本義を考えれば、かならずしも屋根型建築物である必要はありません。たとえばナハシロ[苗代]のように、ナへ[苗]だけをイレこむシロ[代・城]でもよいわけです。
あれこれ考えてみて、漢語のn-p音とヤマトコトバのn-p音はその意味用法に共通点がおおく、ただの偶然の一致とは考えられません。相互に言語交流がおこなわれた結果だと思われます。だからといって、漢語からヤマトコトバへまぎれこんだと判定するには、n-p音漢語の量がすくなすぎるようです。このあと取りあげる英語の方が、現代語の中に多数のn-p音語をもっているからです。
n-p音の英語
ちょっとカケアシの感じですが、n-p音の漢語について考えてみました。せっかくですから、n-p音の英語もとりあげ、ヤマトコトバや漢語と比較してみることにしましょう。
以下、A.H.D.フロク「インド・ヨーロッパ語根とその派生語」の中から、関連項目を一部引用し(語根・基本義・派生語の順)、イズミ流の解釈(独断と偏見?)をのべます。ご教示をお願いします。
フネ[舟]もヘソもナベ型
nau-(boat小舟) naval船の, navigate航行する, navy艦隊.
nobh-(navelへそ) nave2へそ, navel, umbilicusへそ.
nave もnavelもヘソで、 navalが「船の」の意だといいます。つまりヘソと舟はおなじ形だということです。ヘソは「へ[減]されたところ」で、クボミがあります。それで「ヘソで茶を沸かす」などといったりします。ついでに、英語のnaveをローマ字式によんでみると、ナベになります。ナベ[鍋]はたしかにフネ[舟]の姿でもあり、肉や野菜などをイレコム、ナフ[納]する姿でもあります。
ネバル姿、ナル姿
nebh-(cloud雲) nebula星雲, nebulous曇っている, nimbusフンイキ.
nehw-iz(near近くに) near, neighbor近所の人, next次の,.
nepot-(grandson孫, nephew甥) nephew, nepotism縁者びいき, niece姪.
neu-(to shout叫ぶ) announce公表する, pronounce発音する.
newn-(nine9) nineteen19,
ninety90, ninth第9, November11月, noon正午.
nep-型のコトバをまとめてみました。ne-はni-とともにna-の交替音と見てよいでしょう。地中に埋められた植物のタネが、やがてみずからハリさけ、そこに新たなイノチがナル[成・生]姿。それがネ[根]、あるいはメ[芽])です。根は、さらにサキワカレ、ノビてゆきます。タネ本体とは、すっかりちがったクモユキ・フンイキを演出することもありますが、もともとはネバネバ・ネバツク身近な関係を表わすコトバです。日本語助詞「~ニ」・「~ノ」と英語前置詞in, onは、子音と母音の配置がぎゃくになっているだけで、意味の決め手になる子音は、やはりこのn-音です。
Nephewや nine, ninetyなどは、「種イモの根がノビたさきに、子イモがナル[成・生]」のとおなじ姿。announce, pronounceも「ナル[鳴]<ナル[成・生]」姿です。
ニフ[新]とnew
newo-(new新しい) new, neo-新, neonネオン, nova新星, novel1小説, novel2新奇な, novelty新しさ, innovate革新する.
nu-(nowいま) now.
前号で、ヤマトコトバのニフ[丹生・新]・ニヒ[新]・ニハ[丹羽・庭]・ニハカ[俄]・ネフ[根生]・ネヒ[婦負]などの語音をとりあげ、「ニフ[丹生]がニフ[入]して洪水をおこし、そのあとニハカ[俄]づくりのニヒ[新]・ニハ[丹羽・庭]をのこした」と解説しました。
英語のn-p音についても、おなじようなことが考えられます。ネッコがつながった親類縁者がnephew甥やniece姪です。メイ[姪]の歴史カナヅカイはメヒ。メヒといえば、メヒ[婦負]はもとネヒ[婦負]。合流したり分流したりして、ネバリづよくイキノビようとするメヒ[婦負]川・ニフ[新]川・ニヒ[新]川の姿とかさなります。「ツギネフ矢」の姿です。
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