2012年12月3日月曜日

ニフ川がニハカニつくるニハ

 
「カード64n-p
 
 
画像について
カード64」の中からn-pの1枚を紹介します。イラストは切り絵作家梶川之男さんの作品。「ニフ[丹生]の川ニハカ[] につくるニハ[]」からはじめて、ヤマトコトバナハ[]・ナフ[]・ニフ[]・ニヒ[]・ヌフ[]・ノブ[]、また漢語ナフ[]・ニフ[]、さらには英語navel(へそ), navy(海軍), nephew(), new(新しい)などの語音を比較し、n-p音の基本義を考える テガカリになればというものです。
 
ナフものがナハ
なわ[]をなう[]」といいます。歴史カナヅカイでは、「ナハをナフ」です。ナフは四段活用の動詞ですから、その未然形ナハがそのまま「ナフもの」を意味する名詞となったと考えることができます。
上代語に「ナフ[]」の用例は見あたりませんが、ナフ(動下二。なえる。しびれて感覚がなくなる)の用例があります。また、ナブ[]( かくれる。こもる)・ナブ[](靡かせる)・ナブ[](並べる)などの用例もあります。客観的に見て、みんなおなじ姿です。
ナハ[]をナフ[]ときは、23本のワラをナベ[]、それぞれにヨリをかけます。ワラがナヘ(しびれ)て、たがいに寄り添い(=ナブ[])、相手の体内に隠れこむ(=ナブ[])姿になります。
 
ナハ[]とナへ[]は同族語
ナハといえば、もう一つ、ナへ[]の交替形としてのナハ(苗代など)があります。現代人の感覚では、ナワ[]とナエ[]はまったく無関係のコトバです。しかし、ヤマトコトバとしては、ともにn-pをもつ同族語であり、それなりの基本義を共有しています。
国語辞典では、「ナヘ[]()。草木の、種から芽の出た状態をいう」と解説しています。
草木の種は、いちど地中に隠れこみ(ナブ[])、しばらくナヘ(しびれ)た姿ですが、やがてあらたなイノチとしてネやメをハリだします。その姿は、ワラがナハに変身するのとおなじ姿だといえます。
 
ニハカづくりのニハ
国語辞典を見ても、ニハ[]・ニハカ[]の語源にかんする解説は見あたりません。そこで、64音図」方式による解釈(仮説)をこころみました。ご批判をお待ちします。
n-pの上代語2音節動詞として、前記ナフ・ナブのほかにヌフ[]・ノブ[](動上二.延びる)・ノブ[延・暢・述](動下二.延びる)があります。ヌフ[]は、「糸などを使ってつなぎ合わせる」ことであり、その姿は「ワラでナハをナフ」のとおなじ姿です。また、草木の種がネ[]やメ[]ノバス(=ノブ[])姿も、「大地と天空をヌヒ[]あわせる」姿です。
ni-pニフという動詞は成立していなかったようですが、名詞ニハ[]・ニヘ[]、形状言ニヒ[]などがそろっています。さらに、ニハシ(形.にわかである)・ニフナミ(ニヒナヘ[新嘗]の東国語)・ニフフカニ(にわかに)・ニフブニ(にこにこと)・ニホフ[染・薫](動四.赤く色づく)・ニホユ(動下二.=ニホフ)なども成立しています。
このような状況から見て、動詞ニフを仮設することで、これらni-p音語の同族関係を説明することができると思います。つまり、ニフ[黄土]の川があふれて、大量のニフ[黄土]をまき散らし、洪水が引いたあと、ニハカ[]づくりのニハ[]が出現するというわけです。
地名ニフ[丹生]は、「マガネ(砂鉄)吹クニフ[丹生]ノマソホ[真朱](.560)として万葉集にも出てきます。
ニハは、国語辞典のミダシ語としてはニハ[]だけですが、ほかに人名などのニハ[丹羽]があります。ニハ[丹羽]は、「ニ[]色の羽」。ニフ[黄土]の川の岸辺が黄土層で、「巨大な鳥がニ[]色の羽をひろげた」姿に見えることからの地形名であり、やがて人名となったものでしょう。
ニハカ[]は、もと「丹羽処」(ニハ[丹羽・庭]が出現したところ)の意味だったかと思われます。このカは動詞ク[](デキル[出来])の名詞形と考えることもできます。
ニフブニ(にこにこと)は、ニフ[黄土・丹生]が堅い岩石とちがってヤワラカで、笑顔を連想させるからでしょう。
ニフナミ・ニヒナヘ[新嘗][]については、富山県の地名[新川]ニヒカハとも、ニフカハとも呼ばれていたことが参考になります。ニフ[黄土]の川がニハカにつくり出したニハでできた作物を食べることがニヒナヘ・ニフナミであり、それがアラタナ年度の収穫だという意味で[]という漢字が当てられたわけです。
ニホフ[染・薫]は、もともと「赤く色づくこと」で、嗅覚のニホフ[匂・臭]は後世の意味用法です。ニホは[丹穂]と表記する例があり、ニホ・ニホフはニハ[庭・丹羽]・ニヒ[]・ニフ[丹生]などと同族語と見るべきでしょう。
 
ツギネフ山城道
国語辞典に動詞ネフはのっていませんが、名詞ネブ[合歓木]の解説がのっています。
ねむのき…まめ科の落葉高木。葉は二回羽状複葉で互生し、多数の小葉からなり、日が照ると開き、夜間は、左右から上方に閉じ合って眠った形となるのでこの名がある。
上代語では動詞ネムル[]の用例がないかわりに、ネブル[](眠る。寝入る)ネバフ[根延]などの用例があります。これらのコトバがnep-音の同族語を形成していたことが考えられます。
ここで、枕詞ツギネフのネフの用例をとりあげてみます。
ツギネフ山背女の木鍬持ち打ちし大根…(記.仁徳)
ツギネフ[次嶺経] 山城道を人妻の馬より行くにオノヅマ[己妻]しカチ[]より行けば…(万.3314)
国語辞典は「地名ヤマシロ[山背]にかかる。語義およびかかり方、未詳」としながら、「ツギネフ[次嶺経]の字面は、その表記者の理解、すなわち次々に続いた峯を経て行くという意味に解する新しい解釈であろう」としています。
枕詞ツギネフについては、ツギネフヤという形でも成立しています。イズミ流の解釈では、このは詠嘆の助詞ヤであるまえに、まず名詞ヤ[]であったと考えます。その点からいえば、ツギネフヤは「ツギツギ、つきすすむ矢」の姿。したがって、ヤマシロ[山背]のヤにかかるのが当然ということになります。
ここでヤ[]の表記法について、ひとこと説明しておきます。ヤマトコトバのは「イクもの。ユクもの」の姿を表わすコトバ。その代表として漢字[]を当てただけです。たとえばヨツヤ[四谷]・クマガヤ[熊谷]などでは、ヤを[]と表記しています。谷スヂ・川スヂなどの地形を「矢がユク」姿に見立てた地名と思われます。
 
まだのこるn-p音語のナゾ
ここまで、n-p音のヤマトコトバについて考えてきました。ニフカハ[丹生川]とニヒカハ[新川]、ニヘ[]とニエモン[仁右衛門]、ネヒ[婦負]とメヒ[婦負]とメヒ[]など、いろいろおもしろそうなテーマがのこっていますが、きょうはここで一区切り。あとは、次回のお楽しみとしましょう。

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