「カード64」s-m音
「カード64」m-t音
画像について
ヤマトにかかる枕詞アキヅシマの意味・用法を考えるための参考資料として、「カード64」の中からs-m音とm-t音の2枚を引用してかかげました。アキヅシマのシマ[洲・島]は、シム[占]マ[間]であり、スム[住・澄]・スミ[住・澄・炭・墨]などとともにs-m音語としての基本義を共有すると考えるからです。またヤマトについては、これを「ヤマ[山]+ト[処]」と解することもできますが、「ヤ[矢]+マト[的]」と解することもできます。この場合、マトは「マ[目・間]+ト[処]」もしくは「動詞マツ[待]の名詞形」と解釈することができます。したがって、動詞ミツ[満]・モツ[持]や名詞マタ[又・股]・マチ[待・町]・ミチ[道]・ミツ[三]・ミヅ[水]・ムツ[六]・モチ[持・餅]・モト[本・元・基]などとの同族関係が推定されます。
ほんとうはアキヅやヤマの語音についても分析が必要ですが、あまりややこしくなるので、ここではとりあげません。
枕詞の意味・用法
これまで「ハルヒのカスガ」(10月23日号)、「アマザカㇽ…ヒナ」、「タカヒカル…ヒ」、「アキヅシマ…ヤマト」、「トブトリのアスカ」(以上11月3日号)、「シラヌヒ…ツクシ」(11月14日号)、「シナザカル…コシ」(11月23日号)、「ツギネフヤ…ヤマシロガハ」(12月3日号)などで、枕詞の意味・用法について考えてきました。
「タカヒカル…ヒ」の場合は、ヒカル(派生語)にヒ(語根)がふくまれているので、枕詞タカヒカルとヒ[日] のツナガリについて、だれも違和感をもちません。しかし、ハルヒ・トブトリ・シラヌヒなどの場合は、ツナガリ先のカスガ・アスカ・ツクシとのあいだに語音の面でのツナガリがありません。もっぱら意味の面からのツナガリをさぐることになります。そこで、一方で枕詞の語音から意味(事物の姿)をさぐり、もう一方でツナガリ先とされるコトバの語音から意味(事物の姿)をさぐり、双方の一致点をたしかめることでようやく枕詞としての意味用法が分かったということになるわけです。
「64音図」方式を応用する
枕詞の意味・用法をたしかめるために、これまでもいろいろな方法がくふうされてきました。それでも、「語義およびかかり方未詳」とされている枕詞がたくさんあります。また、国語辞典などにのっている「語義およびかかり方の解説」の中には、客観性・合理性の面で疑問がのこるものもあります。こうした問題を解決するには、ヤマトコトバにかんする言語観や音韻感覚の研究がもう一歩前進することが必要条件なのかもしれません。
わたしは、「ヤマトコトバはもともと世界各地・各民族言語をよせあつめたチャンポン語」、「現代日本語は、ヤマトコトバと漢語(もともと外来語)とカタカナ語(もと英語など)のチャンポン語」と考えています。日本語も漢語も英語も、それぞれが人類語の一方言だという言語観です。
そこで「コトバの発音と意味の対応関係をさぐる」実用的な試案として「64音図方式」を提唱し、『現代日本語音図』(試案)を発表したりしました。『現代日本語…』といっていますが、基本的には古代日本語にも、漢語や英語などにも応用できるものになっています。
枕詞アキヅシマの意味・用法
今回は「64音図方式」にしたがって枕詞「アキヅシマ…ヤマト」の意味・用法を考えてみることにします。
アキヅシマは、どうしてヤマトにかかるのでしょうか?両者のツナガリを考えるまえに、まずそれぞれのコトバの意味をたしかめておきましょう。念をおしておきますが、ここでコトバの意味といっているのは、アキヅシマやヤマトを漢字でどう書くかではありません。
アキヅシマやヤマトという語音が、どんな事物の姿を表わすことができるかということです。どちらもヤマトコトバであり、漢字・漢語とは関係のないコトバです。もちろん現実には、千年以上ものあいだ、ヤマトコトバに漢字を当てて表記してきた歴史があります。
アキヅを[秋津・蜻蛉]、シマを[島・洲・山斎・縞]などと表記してきた事実は、たしかに重要な参考資料になります。しかし、それだけでアキヅ・シマというヤマトコトバの意味・用法がすべて分かるというわけではありません。
たとえばシマは普通[島]と書きますが、[洲・山斎・縞]とも書きます。漢語としてはそれぞれ発音も意味・用法も別系統のコトバです。漢字はもともと漢語の意味をあらわすためにつくられたモジですから、ヤマトコトバのシマに100%ピッタリの漢字を求めるのはムリな注文というものです。
シマ[島]は、シム[占]マ[間]
ここであらためて「カード64」s-m音の画像をごらんください。s-m音のヤマトコトバは大体こんなふうに、音のツナガリで単語家族が組織されています。
シマ[島]は、シム[占]マ[間]…シミこんで、シミをつける。自分のシマをつくる。やがて対抗勢力をシメだす。地下からシミでる水がシミヅ。その水がシミゆく先がシモ[下]。地面や草木の葉の表面にシミでたツユがそのままこおりつく姿がシモ[霜]。
スミ[墨]は、マスミ[真澄]のスミ[炭]…スム[澄]は、ス[素]の姿になること。スッキリ・スリムなので、どこでもスミ[住]つくことができる。スミ[住]つくものがスミ[墨]。その場所がスミ[隅・角](スマとも)。
s-m音のコトバとしては、このはかに動詞サム[冷・覚・醒]・セム[迫・攻・責]・ソム[染・初]を中心にした単語家族も生まれています。
つまるところ、ヤマトコトバの語彙体系はヤマトコトバ独特の音韻感覚にしたがって組織されたものであり、その中でs-m音語も一定のシマ(地位・役割)をシメているわけです。
ヤマ[山]ト[処]か、ヤ[矢]マト[的]か?
どちらとも解釈できますが、ここではヤ[矢]マト[的]説の可能性について考えてみます。
あらためて「カード64」m-t音の画像をごらんください。
m-t音の動詞には、マツ[待] ・ミツ[満]・モツ[持]があり、それぞれ単語家族が組織されています。
マタは、マツ・モツところ。ミタス・ムツブところ。
マタ[股・叉・又・亦]は、左右の手や脚、木の枝などがマチあう、モチあう姿。動詞マツ[待]の未然形兼名詞形・副詞形と考えることができます。
マチ[町・街]は、人々がマチあうところ。
マト[的]は、「マ[目・間]+ト[処]」もしくは「動詞マツ[待]の名詞形」と解釈することができます。つまり、矢が当たるのをマツ・トコロです。
ミツ[満・三]は、マタ(左右2個)のあいだに3個目をタス・ミタス姿。ムツ[睦・六]は、ミツ[満・三]の母音交替。
以上総合して、アキヅシマは「アキヅ(蜻蛉。矢の姿)がシメル[占]シマ[島]」であり、やがてヤマト(矢のマト[的])の姿と一致します。アキヅがヤ[矢]の姿、シマがマト[的]の姿ということになりますが、ここで気づかされるのは、当時は弓矢が生産手段の主流であり、鉄器スキによるイネ農耕がはじまったばかりの時代だったということです。20世紀後半に新幹線や高速道路建設などの先進技術による「日本列島改造論」が流行しました。枕詞「アキヅシマ…ヤマト」が生まれた背景として、古代版「日本列島改造論」(「弓矢による日本列島統一計画」)のようなものが流行していたかもしれません。