2016年4月3日日曜日

タニ[谷]と サワ[澤]の 基本義を さぐる (1)


t-n音と s-p音との チガイが 意味する もの…                               

 

(画像の 準備が できて いません)

 
2図 本州・四国・四国・九州における谷(T)と沢(S)分布図

7図 奥秩父・奥武蔵地域

 

隈田論文との 出会い 
325() 開かれた 日本海文化悠学会 総会の 席で、関屋 克己 さん から「地形用語と しての 谷と 沢の 分布 ついて 研究して いる」と お聞き しました。総会が 終わった あと もういちど 関屋 さん から 具体的な 研究内容を 教えて いただき ました。そのうえ 研究資料と して、 即日 メールで、隈田 さんの 論文 日本列島に おける、地形用語と しての 谷と 沢の 分布…古代民族の 文化圏との 接点を 探る」を お送りください ました。ありがとう ございます。

隈田 論文は、国立研究開発法人産業技術総合研究所発行の「地質ニュース563」に掲載された論文です。その要旨をご紹介します(くわしくは、ネットでこのタイトルをご検索ください)。

 日本語の地形用語として、タニ・サワ・タキ・カワなどがあげられる。谷と沢については、すでに古代語の研究書や辞典に解釈や定義が述べられている。しかし本稿の目的は、これらの内容とはいささか異なる。○○谷、○○沢と呼ばれる、○○に相当する名前には全く関係なく、単に谷、沢の分布状態を調べ、それから古代民族の勢力圏や文化圏との関係を推理することになるからである。

 筆者は1952年、同和鉱業()に入社し、秋田県花岡鉱山で資源探査に従事して以来、東北地方で14年間、中国地方で5年間を鉱山および野外調査に費やした。また、北海道は卒業論文のフィールドでもあり、その後もしばしば訪れた。この体験の中で、地形用語谷と沢の分布状況に興味をもつようになった。

 筆者の歩いたフィールドの資料に基づき、谷と沢の分布を本州・四国・九州の主要な山岳地帯に記入したものを第2図に示した(谷をT、沢をS表わす)。まず目につくのは、日本の背骨と呼ばれる飛騨山脈を境として、西側は谷、東側は沢に、ほぼ統一されていること。この地名の分水嶺は、地質学的には、糸魚川~静岡線(大地溝帯あるいはフォッサマグナ)の東側に平行して走っており、南端は御岳南麓まで続いている。

 ややくわしく見ると、飛騨山脈の中央部と北部、東京都・埼玉県・山梨県の境界付近、および新潟県の全域の四地域で谷と沢が入り混じっている。北海道の場合には、谷はなく、河川を意味するアイヌ語のナイ・ベツのあてじである内・別が多く、沢もおおい。

 おなじ地形をあらわす用語として、タニ[谷]とサワ[沢]があり、日本列島を東西に分断する形で分布していることから、さまざまな推測がうまれる。

    タニ[谷]:水のタリ[垂]の意。朝鮮の古代地名に、谷のことを旦tan・頓ton・呑tonと書いてある。日本でも、谷をタン(富山県立山地方)、ダン(同県五箇山地方)という。

    イル[入]:東京都西部(奥武蔵地域)にイル[入]という凹地形が集中している。地形的にはタニや沢と変わらないのに、これは何を意味するのか。入の字音はニュウ・ジュなどで、字義は「外から内へ入れる」こと。筆者としては、外来人による言語とモジの移入を考えている。

    沢の元の字は澤で、潤沢・ゆたか・うるおいなどの意。水や食料が豊富にある場所の意からの当て字と思われる。

    カワ[川]を表わす漢字にはセン[]・カ[]・コウ[]などがある。日本語のカワは、そのうちのコウ[江]からきたともいわれる。また、アイヌ語のコウからの轉ともいわれている。

    端的に私流にいえば、谷族と沢族が長い年月にわたって本州を二分していたが、その後沢族(=土着先住民=縄文人)は関東から東北へ、さらに北海道へと追いやられていった。しかし、コトバは地名やハナシコトバとしてのこった。

    地名表記には、当て字がおおい。語源をさかのぼるには、いちど漢字をすべて取り払い、音名を一字一字こまかく分解・分析して、アイヌ語・韓国語。中国語など、周辺地域の古語と対比することが必用だろう。

 

一読しての 感想
 「地質 ニュース」に のった 論文と いう こと なので、わたしども 門外漢には すこし ムリかなと 思って いた のですが、いざよ みはじめて みると、「内容は 理学的でも工学的でも なく、本来 言語学・民俗学・考古学 などの 諸分野が 関連して いる 問題であり、筆者の 仕事と して きた 地質学とは かなり 距離が ある ことを 承知の うえで書いた」と いわれる とおり、分かりやすく、おもしろく、9ページに わたる 論文を 一気に 読ませて いただき ました。

 なにより まず、「日本列島に おける、地形用語としての 谷と 沢の 分布」に かんする調査や 分析の 作業に たいして、こころ から 敬意を 表します。日本語の 発生。発達・交流の 問題に ついて 考える うえで、貴重な 資料として 利用させて いただきたいと 思います。

 あわせて、地名の 漢字表記に 「当て字」が おおい ことを 指摘し、「いちど 漢字を すべて とりはらい」、「語音を 一字一字 こまかく 分解・分析し」、「周辺地域の 古語と 対比する」ことを 提唱して おられる ことに 同感です。いまこそ、日本人 自身が まず 日本語を 客観的・合理的な 目で 読みなおす べき 時だと 考えます。

 地名に かぎらず、さまざまな 用語に ついて、周辺の 外国語と 比較する 作業は 必要ですが、その 場合も 客観性・合理性が 必用です。たとえば、イルマ川の イル音に ついて、「外来人に よる 言語と 文字の 移入を 考えて いる…おそらく ニュー などの 発音に 解答が 隠されて いる」と いう だけ では、説得力の ある 解説に ならないと 思います。ヤマトコトバの イル[入]は もともと イル[射・鋳・煎]などと 同源の 語音であり、漢語音 ニフ[入]は 上古音niep、現代音ru、イルとは まったく 関係の ない語 音です。もし、「外来人に よる 言語と 文字の 移入」を 論証しようと なれば、まず その外来人が その 語音 イル(iru)を(入の 意味で)常用して いた ことを たしかめ なければ ならないと 思います。その 点で、タニ[谷]と 漢語 ダン[段]の ばあいは、対応関係が つかみ やすいかと 思われます。

 もう 一つ、教えて いただき たい ことが あります。この 論文では 地形用語と して谷・沢・カワ などを あげて いますが、イチガヤ[市ヶ谷]・クマガヤ[熊谷]・シブヤ[渋谷]・ヨツヤ[四谷] などの [] ついては 論及されて いない よう です。わたしの 解釈では、この [] もともと ヤ行音の コトバ。ヤ[] 同源で、ユミで イラレ、イク・ユク ものが [] です。市ヶ谷・熊谷の 地形は タニ[渓・谷] 姿でも ありますが、視点を 変えれば、「タニマ[谷間] 飛び 走る []」の 姿でも あります。枕詞 トブヤトリの なども、詠嘆の 助詞と 解釈するのが 普通の ようですが、イズミは 「飛ぶ 矢の 鳥」(=不死鳥=太陽=仏法) 解釈する ほうが よいと 考えて います。いかが でしょうか。

 

次回は、t-k音、s-p音の 擬声・擬態語から はじめて、単語家族 構成の 実態 しらべ、語音と 語意の 対応関係 さぐる ことに したいと 思います。

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