2015年4月22日水曜日

日漢英 s-k音の 基本義

『古事記』解釈の キーワード⑰



日漢英 s-k音の 基本義を さぐる
 前回は 古事記』の 中の s-k音語を 中心に、「s-k音に こめられた メッセージ」を さぐって みました。いいかえれば、「s-k 日本語 (ヤマトコトバ) 基本義」を さぐる こころみ でした。その 結論を オサライして みると、なんとなく「ヤマトコトバ でも、漢語 でも、s-k音の 基本義は 基本的に 共通」という 感じ でした。
 
今回は すこし 具体的に、漢語・英語の s-k もって いる 基本義 さぐり、日本語と 比較してみる ことに しました。漢語 ついては 主として 学研・漢和大字典』、英語 ついては 主として アメリカの遺産・英語辞典(略称 A,H.D.) 解説を 利用させて いただきました。

漢語 s-k音の 基本義
日本語 (ヤマトコトバ) ばあいは、2音節動詞 して サク・シク・スク・セク・ソクなどが 成立して いる こと から、その 活用形との 対応関係などを 参考に しながら、s-k音が あらわす 基本義を さぐる ことが できました。
 
   漢語 ばあい、現代漢語では s-kタイプの 音節 ありませんが、上古漢語では 主要な音タイプ 一つ だった ことが 分かって います。その 上古漢語音を (日本語の 音韻感覚に あわせて) 忠実に 記録した ものが 、いわゆる「日本漢字音」(サク[削・索]・シキ[色・式]・ソク[息・束・足] など)です。
 
 コトバは イキモノ なので、漢字の 字形は そのまま でも、音形 (発音) 変化する ことが あります。上古漢語の s-k音は、現代漢語 までの 過程で、語尾子音 -k すべて 脱落して しまい ました。この 現象は、s-k音語 だけの もの では ありません。上古音の語尾子音は、-n, -ng のぞき、-k, -p, -t などが すべて 脱落し、「子音 終わり」から「母音 終わり」の 音節に 変化して います。重要な 問題 ですが、ここでは ふれません。

 現代漢語音 から s-k音の意味 さぐる 手がかりは とぼしく なって いますが、漢字の 字形 たよりに 古代の 音形を さぐる などの 方法が あります。また、「日本漢字音」を てがかりに s-k音の 上古漢語を さがす という 方法も あります。この 方法は たいへん 簡単・便利 なの ですが、「日本漢字音」として 記録される 以前に 語尾子音 -k 脱落した ものに ついては、別の 方法で 採集する ほか ありません。

 ここでは、まず「日本漢字音」を てがかりに s-k 上古漢語を 採集し、つぎに あらためて それ 以外の s-k 上古漢語を 採集する ことに します (日本漢字音・上古音・漢字・現代音の 順に 表記)

(1)  日本漢字音が s-k音に なって いる

サク:
siokxiao *ソグ[](けずる)姿。
saksuo *(もつれる 糸を) サキ[裂・割] 分ける 姿。
tsakzuo *サ[箭・矢][] 姿。やがて、ツク・ツケル・ツク      ル など、動作一般の意に 変化。上古漢語音tsak 日本漢字音で サクと 表記されて いる こと などについて、「ツク(t-k)から スク(s-k)へ 変化の 表われ」と 解釈する ことも できそう です。今後の 宿題と して おきましょう。

サク・シャク・ジャク:
tsiokque *チイサキ[] トリ[隹・鳥]。すずめ。
tsiokjue *スズメの 形を した 酒器。
dziokjue  *小さく サク[裂・割](噛み 砕く)姿。
 
シキ・ショク:
siokse, shai *かがんだ 女性の 上に 乗った 男性が、スキ  コム・シケコム・シコム 姿。イロ=イル[入・射] ところ=イレモノ (容器)。イロイロな 形体や 色彩が ある 中で、やがて 色彩の 意に 集中。
 
thiekshi *道具を 使って 工作する 姿。やがて、道具の 使い方や シゴト シカタ[仕方] 意と なる。
 
シャク:
thiakshuo *鉱石や 金属を 加熱し、微粒子に なる まで サク[裂・割] (鎔かす) 姿。また、「赤々と かがやく」「元気が よい」姿。→カクシャク[矍鑠]

シャク・セキ:
sekxi *オノ[] 木を サキ[裂・割] 分ける 姿。
siakxi *日を シキ[] 重ねる 姿。むかし。
tsiakjie *A もって いる 金・物・力の 一部を ソギとり (カル[借])、不足している B ツケ足す (カス[])タスケル[] 姿。カスと カリルは 同一事実の 両面。
 
thiakshi *シコリを サキ ほぐし、一本の 線と して 連ねる こと。ときはなす。ゆるす。
 シュク:
thiokshu *小さい 豆や ソバの 実を 手で ひろう 姿 から、やがて 細く サキ 兄弟の 意に 用いる。
 
siok宿su *せまい 部屋で、身を スクメ[] 休む 姿。やど。やどる。

sioksu, suo *ヒモを 引き締め、チヂメル・スクメル 姿。
sioksu *筆を 持って 深い フチ[] ほとりに 立ち、身を スクメル さま。シュク[]・ソク[] などと 同系。→粛々・粛清・粛然。
 
ソク:
siekxi *鼻と いう セキ[]所を スクスク 通り ぬけて イキ[] して いる 姿。休息・生息する 姿。やがて、子孫を 生む ムスコの 意とも なる。ソク[] 同系。
 
siukshu *たき木を 集め、ヒモで 束ねる(ヒキシメル・スクメル)姿。ソク[速・捉]・シュク[]・ショウ[] などと 同系。
 
suksu *ソク[] 同系。スキマ フサグスクメル 姿。スクスク 歩む こと。
tsiukzu *足の 筋肉を 縮める、スクメル姿。
ts’iukcu *ソク[束・足] 同系。セカセカ、ツキ動かす。うながす。
tsukzhuo *ソク[束・足] 同系。スクメル姿。ツキとめる。ツカム。とらえる。
 
ソク・サイ:
seksai *屋根の カワラの 下に スキマ でき ない ように、カワラと 土を ぴったり ツケル 姿。いいかえれば、セキとめる こと。ソク[即・則](ぴたり ひっつく)などと 同系。

(2)  日本漢字音で、語尾子音 -k 脱落して いる
シャ・ショ・ジョ・ソ:
ts’iagqie// (tsiagju) *ツギツギ ツケル[]、積み 重ねる 姿。かつ。しばらく。
tsagzu *世代の 積み 重ね。
tsagzu *組みひも。ツギツギ・ツグ[継・接] 姿。
thiagzu *通路を フサグ、セキ[堰・塞] 止める。
dziagzhu *力をツケ足す 姿。タスケルタスク[手・田] スク[助・鋤]
 
dziagchu *=鋤。田を スク[鋤] 姿。ツキ棒 たよって いた 農民に とって、スキ[鋤] 発明は 画期的な タスケ[助力]と なった。
 
ショウ:
siogxiao *サク[裂・割]ソグ[] 姿。
thiogshao *同上。⇔ソグ[]スコシ・スクナシ
siogxiao *素材を ソギトル ことに よって、カタドル。にる。
siogxiao *ソギとり、小サク する。けす。
siogxiao *太陽の 光が ソガレル 時間帯。よい。
sogshao *木が のびて ゆき、サキ[] 細く ソガレル 姿。こずえ。
sogshao *作物の 穂先が 細く ソガレル 姿。すこし。やや。
siogxiao *細い 竹の 姿。やがて、スコシ だけ 口を サク[裂・割] 姿で わらう こと。
siogxiao *同上。
siungsong  *二本の 足を 細く 束ねた ように 棒立ちと なる 姿。ソク[] 語尾 -k -ng 転じた コトバ。ジュウ[](タテに 細長い)・シュク[] (細く 引きしめる)などと 同系。
 
ソウ:
siogsou *部屋の スミズミ まで、灯火を かざして サガス こと。また、サグリ 出し、ソギとる(押収する) こと。

 
英語s-k音の 意味
  上古漢語まで さかのぼって たしかめて みると、s-k 漢語と ヤマトコトバ 双子の兄弟 かと 思われる ほど 共通の 基本義 もって いる ことが 分かって きました。
 
 それでは、s-k音の 英語 どんな 基本義を もって いる でしょうか?ここでは まず、A.H.D. フロク「インド・ヨーロッパ語の 語根と 派生語」(一覧表) 中から、関係項目を引用させて いただきます。項目の 選択、日本語 訳、*印 以下の 解説 などは、すべて引用者の 責任 です。お気づきの 点は、ご教示 くださる よう おまち します。

s-k音英語の 語根と 派生語
Sag-(to seek out探し出す) seekサガス, sagacious賢明な 嗅覚の するどい。*サク[裂・割]サガス[探・捜]サグル[] 姿。⇔サク[]・ソウ[].

Sak-(to sanctify神聖に する) sacred神に ささげられた, saint聖人, sanctify. イケニエを サク[裂・割] 姿。

Segh-(to holdつかむ) scheme計画。政策, scholar学者, school学校. 時間・空間・知識などを タシカメル サク (サキ分ける)セク(セキとめる。ためる)姿。

Sek- (to cut 切る) scythe草刈りガマ, saw1ノコギリ, skin皮膚, section区画, segment区分, insect昆虫, sickle円形カマ. サク[裂・割] ための 道具が scythe , saw¹。身体の 表面に サキ[裂・割] 分かれる 部分がskin. サケメ・シキリsection, segment. いくつものsectionにシキラレル昆虫がinsect.

Sekw-¹ (to follow~に続く) sect宗派, sequence連続, second²第2の, signしるし, social社交の, society社会, associate結びつける. アイジルシ[合印] つける 姿。この 印をツケル ことは、味方に ツク[] こと、たがいに スク・スケル[] ことを 意味する。

Sekw-² (to perceive気づく, see見る) see¹, sight視界. 視界が サケル、ヒラク 姿。

Sekw-³ (to say言う) say, saw²see 過去形), scoldシカル. くちびるが サク・サケル 姿。

Skand- (to leapとびはねる, climbよじ登る) scan精査する, ascendのぼる, descendサガル, scandalスキャンダル, scale²等級(<ウロコ=サケルもの。キザミ)。*サケ目・キザミ目を つける 姿。

Skei-(to cut切る) science科学, conscious気づいて いる, shitくそ, schism             分裂, skiスキー. *サク・サケル[裂・割]姿。

Skel-¹ (to cut切る) shell貝ガラ, shale頁岩, scale¹ウロコ, scalp人の 頭皮, shield, skill技量, shelfたな, half半分, scalpel解剖刀, sculpture彫刻. *サク[裂・割]キル[]姿。

Sker-¹ (to cut切る) shear切りとる, share¹共有する, score得点表, shortみじかい, shirtシャツ, skirtスカート, screenスクリーン, carnationカーネーション, carnivalカーニバル, sharpするどい, scrapスクラップ, scrapeこすりとる, scrubこする, screwネジ。 サク[裂・割]キル[]」の 姿。

Sker-² (to turn曲げる, bend曲げる) shrinkスクム, circleサークル, searchサガス. *一点を 中心に 円・circle えがく 姿=[箭・矢] クル[] 姿=サグル・サガス 姿。

   日本語訳 でも、日漢 s-k との 関連に かんする 解説 でも、かなり おおくの 「誤解・独断・偏見」を ふくんで いる かも しれません。その点を 割引きして みても、日漢英 3言語の あいだに これだけの 共通基本義、いいかえれば 共通の 音韻感覚 見ら
れる という こと は、ためして みた 本人に とって、まさに オドロキ でした。
 
 まだまだ 序の口に すぎませんが、てごたえは 十分 です。