…t-n音の 漢語③…
「漢字物語」133イラスト
デン[殿]の解字(『学研・漢和大字典』)
「漢字物語79、団の字編」
t-n1音の漢字は いろいろ たくさん ある ので、簡単には まとめきれ ません。これまでトン[屯]・スン[寸] の字形を ふくむ 漢字を 中心に とりあげて まいりました。今回も まず「スン[寸]の 字形を ふくむ 漢字」として、ダン[団]グループを とりあげます。
「漢字物語79、団の字編」(解説、小山鉄郎さん。イラスト、はまむら ゆうさん。北日本新聞連載)の
イラスト部分を 画像として 引用させて いただきました。団の字
グループの
漢字[ 団・轉・傳・專]に ついて、小山さんは 要約 つぎのように 解説して います。
漢字ダン[団]・テン[転]・デン[伝]の 旧字形 [團・轉・傳]には、すべて セン[專](専の旧字形)の 字形が 含まれて
いる。[專]の [寸]は テ[手]の 形。その上部は「袋の中に 物を
入れた 形」(イラストの
古代文字を 参照)。
つまり、[專]は「袋の中に 入れた 物を 手で うって まるい かたちに した もの」。ひたすら、うち固める ので、やがて「もっぱら」の 意味と なる。[傳]は、物が 入った 袋を人が 背負って 行く 姿。やがて「はこぶ」「つたえる」の 意味に。袋に 入れ、手で うち固めて 丸く した ものを、さらに 外から 包んだ 形が [團]。[轉]は「まるめた もの」なので、回り やすく、また コロビ[転]やすい。
つまり、[專]は「袋の中に 入れた 物を 手で うって まるい かたちに した もの」。ひたすら、うち固める ので、やがて「もっぱら」の 意味と なる。[傳]は、物が 入った 袋を人が 背負って 行く 姿。やがて「はこぶ」「つたえる」の 意味に。袋に 入れ、手で うち固めて 丸く した ものを、さらに 外から 包んだ 形が [團]。[轉]は「まるめた もの」なので、回り やすく、また コロビ[転]やすい。
ツンツン、ツキデル・ノビデル姿。
小山さんは 漢字の 字形 から「寸・団・轉・傳」などの
意味のツナガリを
追求して
います。ここで、しばらく
字形を
はなれ、t-n音という 音形を 中心に 意味の ツナガリを考えて
みま
しょう。
まず、この グループの 漢字の 語音を たしかめて みると、こう なります(日本漢字音・上古音・現代音の順)。
スンts’un寸cun// ダンduan團tuan// テンtiuan轉zhuan//
デンdiuan傳chuan, zhuan// センtiuan專zhuan//
ごらんの とおり、もともと
t-n音と しての ツナガリを もつ コトバ ばかり です。
[寸]の 日本漢字音は スン ですが、漢語音は
上古音
から
現代音
まで
一貫して
ツン。ツンツン、ツキデル
もの=ツノ[角]の
姿です。いっぱんに「手の指の形」と
解説されて
いますが、もともと「手の指」は「手の
さきに
ツキデル
もの=ツノ[角]」の姿。
5本の 指は それぞれが 1本の ツノ ですが、5本 そろええれば、さらには 両手で10本そろえれば、サラ・ザル・タルの 役割を はたします。その「ソロエル・集中する」姿がセン[專]で あり、5本・10本の 指で にぎられた ものの 姿が ダン[團](ダンゴ)という ことに なります。
テン[轉]と デン[傳]は、字形も 音形も よく にて います。それだけ、意味の 面でも ツナガリを もって います。テン[轉]は、クルマ[車](車輪)が クルクル・コロコロ・コロガル姿。デン[傳]は、「ツナで ツナガル」、「ツタ[蔦]が壁をツタウ[伝]」ように、「コトバが 口 から 耳へ ツナガル・ツタワル」姿 です。
デーンと
ツキデル トノ[殿]=デン[殿]
t-n音 日本語と t-n音 漢語が 対応関係に ある 例と して、トノ[殿]と デン[殿]について 考えて みましょう。日本語の
トノ[殿]は、もと「貴人の
住む
御殿」の
ことで、やがて「貴人・主君を
さす
敬称」と
なった
もの。漢語の
デン[殿]も、「宮殿・殿堂・殿下」など、「広壮な
邸宅」や「貴人への
敬称」と
して
用いられ
ますが、もともとは「殿軍(軍隊の最後部)」の[殿](シンガリ)や 同音の デン[臀](シリ)を 表わす 語音です。いまどきの
音感覚で
いえば、「デーンと ツキデル 姿」(お尻・ご殿・殿さま)と いって よい でしょう。この点に
ついて、『学研・漢和大字典』から「デン「[殿]の解字」イラストを 画像として 借用させて いただきました。くわしくは、直接 字典を ご参照 ください。
まえに「ヤマトコトバでは、t-n音語は 少数派」と 指摘しましたが、その 半面で タナギラフ[棚霧合](一面にかき曇る)・タナグモル[棚曇](一面に曇る)・タナビク[棚引]や トノグモル(=タナグモル)・トノビク(=タナビク)などの 上代t-n音語が 成立して います。
この ような 状況は、これらの
t-n音 ヤマトコトバが t-n音 漢語に 対応して 成立し(?)、発達した という 歴史経過をしめす もの かも しれません。タナ・ツナ・トノ
だけ
では
ありません。タナ[店]・タニ[谷] などに ついても、漢語テンtam店dianや ダンduan段・断duanなどと、音義とも
対応関係が
あり
そう
です。
ついでに いえば、テンtian展zhanなども 「ツキダス・ナラベル」姿を もって います。
ただし、くわしい
議論は、つぎの
機会を
待つ
ほか
ありません。
ツヌガと
ツルガは 子音交替の
関係
「t-n音の ヤマトコトバは 少数派」と いう ことの 背景に、「t-r音語が 多数派」と いう 事実が ある ことにも 注目したいと 思います。つまり、理論的には
t-n音語と して成立しそうな コトガラが t-r音語 と
して成立し、流行したと 考えられる 例が たくさんある と いう ことです。
たとえば、『古事記』応神天皇の くだりに 「ツヌガの蟹」の 歌が でてきます(記、43)。この ツヌガは 原文では [都奴賀]、いっぱんの「書き下し文」では ツヌガ[角鹿]と 書かれ、その後 ツルガ[敦賀]と 書かれる ように なりました。[敦]には、トンtuen敦ddn (屯と 同系)と
ツイtuer敦dui(堆と 同系)の 両音が あったと されて いる いるので、この時期に
t-n音 から
t-r音に 変化した ことが 考えられます。
ツヌ[角]から ツル[敦・蔓・弦]に 変化したと すれば、イナリ[稲荷]に ついても、イナ[稲]ニ[荷]の ニ[荷](もしくは ナニの ニ)が n子音 から r子音へ 変化した ものと 解釈してよい でしょう。
n-音 から r-音 への
子音変化の 現象は、漢語でも
見られます。
ニチniet日ri// ニャクniak若ruo// ニャクniag弱ru//
ニョniag如ru// ネツniat熱re// ネンnian然ran//
ごらんの とおり、いずれも
上古音
n-から 現代音r-に 変化して います。
漢語
t-n音と t-m音との 関係
現代漢語では、t-nの 音節は ありますが、t-mの 音節は ありません。上古漢語と
しては存在して
いた
t-m音語が、その後 すべて -n音語に 合流して しまった からです。もとt-m音と される のは、たとえば つぎの ような 語です。
サンts’em惨can// ザンtsam斬zhan// ts’iam塹qian// dziam漸jian//
シンts’iem侵・寝qin// tsiem浸jin// thiem深shen// ジンdiem尋xun//
センtiem占zhan// ts’iam籤qian//
タンdem湛zhan// tam站zhan// t’em探tan//
チンtiem沈zhen// thiem枕shen//
テンtam店・点dian//
ごらんの とおり、かなり おおくの t-m音語が 成立し、独自の 基本義を もつ 単語家族を 組織して いたと 考えられます。たとえば、サン[惨]・ザンtsam斬 などは 日本語 タム[矯]やツム[摘]に 通じる 姿が あり、タン[湛]は そのまま タム[溜]と 対応する コトバ かと 思われます。ジン[尋]や タン[探]は、トム[止・留・尋・求]に 通じる姿。テン[店]は、商品を タメル[溜] タナ[棚・店]。テン[点]も、(火を)トモス
姿です。
t-n音漢語に ついて 分かった
こと
3回に わたってt-n音漢語の 基本義を さぐって きましたが、まだまだ 分からない ことだらけ です。それでも いくつかの 問題点が 見えてきました。
①
日本語では t-n音が 少数派 なのに たいして、漢語では むしろ 多数派で ある。
②
上古漢語のt-m音が 現代漢語では t-n音に 合流して いる ので、t-n音漢語の 基本義を とらえる 作業が 複雑に なって いる。
③
t-n音日本語は、t-n音漢語に 対応して 発達し ながら、途中 なんらかの 事情で 発達が 停止した 可能性が ある (たとえば、t-n 2音節動詞が ゼロ)。
このへんで いちおう クギリに して、次回は 「t-n音の 英語」を とりあげる ことに します。
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