m-k音の擬声・擬態語はすくない
前回まで k-r音の コトバに ついて 考えて きましたが、今回から
しばらく
m-k音を とりあげる ことに します。m-k音の ヤマトコトバには、これまで
見てきた
k-r音や k-k音とは、かなり ちがった ところが あります。
たとえば、k-r音の 擬声語と いえば、カラカラ・ガラガラ・カリカリ・ガリガリ・キリキリ・ギリギリ・ケラケラ・ゲラゲラ・コロコロ・ゴロゴロ
など、はいて
すてる
ほど
ありますが、m-k音の 擬声語はと なると、メキメキ(物のこわれる音) 以外には 見あたりません。そのかわり、マゴマゴ・ムカムカ・ムクムク・ムグムグ・ムクリ・メキメキ・モグモグなどの 擬態語用法は 見うけます。
m-k音の 擬声語が すくないのは、ナゼ でしょうか?それは、自然界に
発生するm -k音が すくない からと 考えられます。たとえば、牛は モーと 鳴き、羊は メーと 鳴く ことに なっています。かりに mogやmegの ような 音として ききとる人が いても、そう簡単には 擬声語として 認定されません。
ただ 一つm-k音擬声語と される メキメキに ついても、「客観的に メキメキと いう オト[音]が 実在するか」、「メリメリと どこが ちがうか」など、いろいろ
問題が
ありそうです。「物が
こわれる」、「板が
はがされる」ばあいの
擬声語と
しては、むしろ
p-k音のバキバキ・パキパキなどの ほうが 適当で ないか、などと いう 意見も ある でしょう。
いずれに しても、m-k音とは どんな 語音 なのか、もう すこし さぐって みましょう。
マク「娶・巻・負」姿、ムク[向・平]姿
m-k音語の 基本義を さぐる ために、まず 上代の 2音節動詞の 意味用法を たしかめ、その まわりに ある 2音節名詞 など との 関係を しらべる ことに します。
『時代別・国語大辞典、上代編』に よれば、マク・マグ・ムク、3種の 音形で 2音節動詞が 成立して います。イズミ式の
分類法で
いえば、mak-, muk- 2音タイプの 動詞が成立している だけで、mik-, mek-, mok- 音タイプの 動詞は 成立して いません。
ところが、具体的に 意味用法を しらべて みると、合計 13個もの 2音節動詞が 成立して いる ことが 分かりました。
マク①[娶]四。②[巻・枕]四。③[蒔]四。④[罷]四、自。⑤[任]四、他。⑦[任・罷]下二、他。⑧[負]下二。⑨[設・貯]下二。
マグ①[求・覓]下二。②[勾・枉]下二。
ムク①[向・平]四、自。②[向・平]下二、他。
ここで、とりあげた 13個の m-k音 動詞 相互の 関係を 整理して おきましょう。男と 女が たがいに マぎ求める 姿が マク[娶・巻・枕]・マグ[求・覓]です。もっと 一般化して、Aと Bが 相互に(もしくは一方的に) 求める 姿が マク[巻]。イネ・ムギ などの タネを 地面に おろし、土を マキつける 姿が マク[蒔]。マキついて 任意の 方向に 向かわせる 姿が マク[任]。マキつかれて、降参する 姿が マク[負]。マキつける、ムキを 変える など、目的に あわせ、あらかじめ 用意する 姿が マク[設・貯]。また、男と 女が たがいに マぎ求める 姿は、そのまま マキつく 姿で あり、やがて マグ・マガル・マゲル姿、ということに なります。
このように 見てくると、マク・マグの11語は すべて マク[巻] 姿を 共有する 同源同族の コトバと 考えられます。
ムク[向・平]に ついても、おなじ
ことが
いえます。年ごろの
男の子の
目が
女の子に
ムク
のは、「いっしょに
いたい」という
ひそかな
願いが
あり、まずは
視線を
ムケ、相手の
心に
マキつく
行為
です。ここで、相手の
目が
ムキあって
くれれば
成功。目をそらして
シカト
されれば
失敗。くりかえし
視線を
マキつけて
いる
うち、相手が
根負け
して、まともに
ムキあって
くれる
かも
しれません。ぎゃくに、ストーカー行為だと
訴えられ、マケて
しまう
おそれも
あります。
マカふしぎ、マガタマのなぞ
さて、m-k音語に ついて 考える 資料と して、勾玉の 画像を かかげました。むかし
読みふけった
『勾玉』 (水野裕著、学生社、1969) 表紙カバー からの 借用です。表紙カバー
折り返し部分に、こう
書かれて
いました。
鏡が日神の神霊のヨリシロ[憑代]とすれば、勾玉は月をシンボルとする像をあらわし、月を読みとることが生活のもっとも必要な条件であった古代航海者たちの間にひろまった信仰ではなかったろうか。
わたしは 考古学に ついては まったくの 門外漢 ですが、石器・土器・化石 などを 見るのは すきです。そして、関連用語や品名・人名・地名の由来を 考えるのが たのしみです。
マガタマ[勾玉・曲玉]は、マガリタマとも
よばれ、装身用の、まるく曲がった玉。野獣の牙・ガラス・翡翠・瑯玕などで
作られたと
いいます。マガタマの
マガは、形状言
マガ[曲・禍]で あると ともに、動詞マグ[求・覓]の 未然形 兼 名詞形と 考える ことが できます。つまり、マガタマの 形が 曲がって いる のは、そこに 人びとの 「マぎ求める心」が こめられて いる から という わけ です。
<おわび>
中途半端ですが、時間切れで、今回は ここまでと させて いただきます。
このあと、「マギ求めた ムギが やって 来た」、「マキムクの 日代の 宮」、「マク・マグ・マガル」、「マガフ[乱・紛]と マジフ[交・雑]」など、m-k音 日本語に かんする 問題を とりあげ、つづいて
m-k音の 漢語や 英語との 対応関係を とりあげる 予定です。
その ココロザシや、良し。ただし、この 年齢、カラダが ネ[音]を あげて います。とりわけ、「右顔面マヒ」の 後遺症で、右目が パッチリ 開いて くれません。左目も、かなりくたびれて
きた
ようです。ブログの
文面も
トボトボ・ヨタヨタ
した
ものに
なりがちです。それでも、まだ
しばらく
止める つもりは ございません。お許し
ください。