2013年4月7日日曜日

カカル・カギル・カケル・カコム姿 


ネオ・漢字ものがたり③

 
 

[]の字形 (『漢字の世界Ⅰ』による)
 
 
 
[]の字形について
白川静さんはコク[]の字形にふくまれるコウ[]についいて、クチ[]ではなく、ノリト[祝詞]を収めた器だとしておられます。おなじくコウ[]をふくむキチ[]についても、「祝詞の器である口の上に、鉞形の器をおいて、これを守る意」としています(『漢字の世界Ⅰ』p.86)
また、このキチ[]とならんで、コ[]は「タテ[]形の器をおく形」であり、キチ[]が「詰める」意であるように、コ[]は「固く閉ざす」意としています。
 
コウ[]・コ[]は、もとk-k音語
ここでまた、コウ[]・コク[]・キチ[]・コ[]の音形について考えてみましょう。上古音・漢字・現代音の順にならべると、こうなります。
k’ugkou  kokgao  kietji     kaggu
つまり、コウ[]・コク[]・コ[]k-k音語で、キチ[]だけがk-t音語です。ごらんのとおり、現代漢語ではすべて語尾の子音が脱落して母音に変化してるので分かりにくいのですが、コク[]やキチ[]の場合は日本漢字音としてk-k, k-tの音形がのこっています。
白川説にしたがって、コク[]・キチ[]・コ[]などの字形にふくまれる[]を「ノリト[祝詞]をいれる器」と解釈する場合、その容器をk’agkouのようなk-k音で呼んでいたかもしれません。人間や動物のクチ[]も、飲食物をうけいれる容器であり、コトバを発声するときのカゴ(ユリカゴ)でもあります。
カゴといえば、漢語のキョウk’iuangkuang(かご)などもk-k音のコトバです。
 
[]から[固・苦・枯・故]まで
[]を音符とする漢字について考えてみます。
[]は、「固く閉ざす」ことによって「呪能を維持する」姿とされています。
 
kaggu は、「カコイ囗+音符古」の会意兼形声文字で、周囲をかっちり囲まれて動きがとれないさまと解されています。この点について白川さんは、コ[]の字形がもともと「呪能を維持する」ために「固く閉ざす」というカタクナナ姿勢を表わす字形であり、「古・固はもと同字であった」としています。[]がフルイ・ムカシの意味に専用されるようになったので、さらにカコミ[]をつけて、kagguが分化したというわけです。
k’agkuは、水分がカレて、かたくなった木。
k’agkuは、口がこわばってツバが出ない感じ。ニガイ味がする植物のこと。
kagguは、「攵(動詞の記号)+音符古」の会意兼形声文字で、かたまって固定した事実となることと解されています。この点についても白川さんは、古が「呪能を守る」のに対して、故は「故意にその呪能を破る行為であり、これを事故という」と解説しています。
 
 
日漢k-k音の対応関係
ヤマトコトバでも漢語でも、k-k音のコトバはそれぞれかなり多数の単語家族を組織していることが分かっています。日漢の両言語は、たがいにまったく別系統の言語といわれていますが、語彙の面では単語家族まるごと対応関係にあると思われるものが多数あります。
日本語(ヤマトコトバ)の単語家族研究がおくれているため、客観的・合理的な比較資料がとぼしく、まだ断定はできませんが、ほぼ見当だけはつきます。現代日本語音と現代漢語音を比較してみてもどうにもなりませんが、上古漢語音(詩経・論語など)や上代日本語音(古事記・万葉集など)まで時代をさかのぼれば、相互にかなりの対応関係があったと考えられます。そしてそのなごりが、現代語の中にまるで化石のようにころがっているわけです。ただ毎日の生活におわれて、どのコトバがどんなコトバの化石なのか考えるヒマもなく、無意識にコトバをしゃべっているのが現実です。
たまにはコトバの化石さがしをしてみるのもおもしろいと思います。
k-k音語なども、その例です。
カク(ヒッカク・ヒッカカル)[掻・書・画・懸・掛] カクhuek劃・画hua(カギル。ハカル)ケイkueggua(カケル)k’akke(ヒッカカル人)。huakhuo(カキ集める)kogjiao(カキまぜる)
カグ[](カキ集める)⇔キュウhiog臭・嗅xiu
カクム・カコム[] カクkuakguo(くるわ)
カゴ[篭・駕篭](まわりをカギル・カコム・カクマフ姿、またカク・カケル[懸・掛]、あるいはカク・カツグ[舁・担]道具)。⇔キョウk’iuangkuang(かご)
キク[]は字音語。⇔キクkiok菊・掬ju。キュウkiogjiugiogqiu(カコミとる)
クク[]・クグル[]。クギ[](ククル・クグルもの)。⇔コウkung工・攻gong(クグル姿=ツキヌク姿)。
クキ[](クッキリ、クギルもの) ケイhengjing
コク[](シゴク) コク[告・酷・梏・谷・穀](前号参照)
ほんとうは まだまだ たくさん あるでしょうが、ざっと調べただけで、これだけに なりました。まちがいが ありましたら、ご教示ください。
 せっかく ここまで来たので、次号でk-k音英語との関連もさぐってみたいと思います。


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