ダイ[大]の甲骨文
タツ[達]の 甲骨文
トツ[突] の甲骨文
シ[至] の甲骨文
シチ[七] の甲骨文
シツ[室] の甲骨文
シュツ[出] の甲骨文
t-t音漢字の甲骨文
そこで、甲骨文と上古推定音と現代音をならべて比較することによって、その漢字(語)の発想法、つまりどんな音でどんな意味を表わそうとしたか推定できるはずです。
『古文字類編』(高明編、中華書局発行)からt-t音の甲骨文例をえらんで、画像としてかかげました。日本語の場合とも比較しながら、t-t音の基本義をさぐってみたいと思います。
語例は、日本漢字音・上古音・漢字・現代音の順で表記します。また参考までに、⇔印のあとにt-t音のヤマトコトバを付記します
タイdad大da 人間が手足を広げて、大の字に立った姿を描いた象形モジで、おおきく、タップリとゆとりがある意。達・泰・太と同系。タツ[立]姿。⇔タツ[立]・タチ[立・舘・達]。
タツdat達da 「辵(しんにゅう)+羊+音符大)」の会意兼形声モジで、羊のお産のようにすらすらととおすこと。大・泰と同系。タツ[立]・トドク[届]・タドリツク姿。⇔タツ[立]・タチ[立・舘・等・達]。
トツduet突tu 「穴(あな)+犬)」の会意モジで、穴の中から急に犬がトビだすさま。凸・出(つき出る)と同系。ツキデル姿。⇔ツツ[伝・筒]。
シtied至zhi 「矢が下方に進むさま+一印(目ざす線)」の会意モジ。目標線までトドクさま。⇔トドク・イタル[至・射垂・射足]。
シチts’iet七qi 縦線を横線で切り止め、端を切り捨てるさまを示す指事モジ。七は切の原字。
ごらんのとおり、甲骨文は[十]に近い。また、現行漢字[十]の甲骨文は[丨](タテ線1本)。つまり、[七]はタテ線をヨコ線でチギル・タチキル姿。
シツthiet室shi 「宀(やね・いえ)+音符至」の会意兼形声モジ。奥の行きヅマリのへや。窒・膣と同系。
シュツt’iuet出chu 足が一線の外に出るさまを示す会意モジ。突・凸と同系。
t-t音漢語の擬声語
わたしが不勉強のせいかもしれませんが、t-t音漢語の擬声語はつぎの3例しか見つかっていません。きわめて少ない感じです。
duoduo咄咄 驚きいぶかる声。おやおや。これはこれは。
tutu突突 モーターなどの蒸気や煙が噴き出す音。ダッダッ。シュッシュッ。
dadada
噠噠噠 エンジン音、銃撃音など。ダダダッ。
擬態語としての用例については、まだご報告できるほど整理できておりません。
t-t音漢語の基本義
上古音がt-t音と推定される漢字をとりあげ、その基本義をさぐります。主として『学研・漢和大字典』を参考にしています。
シtied至zhi前述。
シチts’iet七qi前述。
シツtiet質zhi 「斤二つ(重さが等しい)+貝(財貨)」の会意モジ。Aの財貨と匹敵するだけ中身のつまったBの財貨。室・實と同系。→性質・質量・質権。
シツthiet室shi 前述。
シュツt’iuet出chu 前述。
ゼイthiuad税shui ダ兌は「八(はぎとる)+兄(頭の大きい人)」の会意モジで、人の着物をはがしてぬきとるさま。税は「禾(作物)+音符兌」の会意兼形声モジ。収穫の一部をぬきとること。脱・奪と同系。⇔タツ[絶・断]・タチキル。
ゼイthiuad蛻shui 「虫+音符兌」の会意兼形声モジで、虫がカラをぬぐこと。ヌケガラ。
セツts’et切qie 「刀+音符七」の会意兼形声モジで、刃物をぴったりと当ててキルこと。⇔タツ[絶・断]・タチキル。
セツtiuet拙zhuo 「手+音符出」の会意兼形声モジで、標準より後ろにさがって見劣りすること。
セツthiuat説shuo 「言+音符兌」の会意兼形声モジで、コトバでしこりをときはなすこと。脱・税などと同系。
ゼツdziuat絶jue 「糸+刀+卩(節の右下)」の会意モジで、かたなで糸や人を短い節に切ることを示す。⇔タツ[絶・断]・タチキル。
タイdad大da 前述。
タイtad帯dai 「ヒモで物を通した姿+巾(たれ布)」の会意モジ。長い布のオビで、いろいろな物を腰につけることをあらわす。蛇(長いヘビ)・移(横に伸ばす)と同系。
タイdiad滞shi 「水+音符帯」の会意兼形声モジで、帯が長くのびて腰にまといついているように、水が定着して動かないこと。⇔トドム・トドコオル・タドル・タドタドシ。
タツdat達da 前述。
ダツt’uat脱tuo 「月+音符兌」の会意兼形声モジで、骨から肉をはなすこと。転じて、広く、はなす、ぬけてとれるの意。奪・悦・蛻などと同系。⇔タツ[絶・断]・タチキル。
ダツduat奪duo「大(ひと)+隹(とり)+寸(て)」の会意モジで、人がワキにはさんでいる鳥を、手ですっと抜きとるさま。脱(ぬける)・兌(ときほぐす)と同系。⇔タツ[絶・断]・タチキル。
チtied致zhi 「攵(あし)+音符至(いたる)」の会意兼形声モジで、足で歩いて目標までとどくこと。自動詞の「至」に対して、他動詞として用いる。⇔イタス[致]・トドク[届]。
チtied躓zhi 「足+音符質(ぴったりと当たる。いっぱいにつかえる)」の会意兼形声モジ。ツマヅク姿。⇔ツク[突]・ツツク。
チツtiet窒zhi 「穴+音符室(行きヅマル)」の会意兼形声モジ。穴の奥で行きづまって、その先に進めないこと。至・室・致・膣などと同系。トドのツマリ。⇔トドツク[突]
チツtiet膣zhi 「月+音符室(行きヅマル)」の会意兼形声モジ。
テツdiet姪 zhi 「女+音符至」の会意兼形声モジ。血縁の末端。行きヅマリの意。⇔
ツツ[伝]・ツヅク・トドク。
テツt’et鉄tie 「女+音符失シツ・テツ」の形声モジ。徹(つきとおす)と同系。
テツtiuad綴zhui 「糸+音符叕(ツヅル)」の会意兼形声モジで、糸でつづりあわせること。掇(ひろう)・啜(すする)・畷(あぜ道・なわて)と同系。⇔ツツ[伝]・ツツク[啄]・ツヅク[続]・ツヅル[続]・トヂㇽ[綴]。
テツt’iat徹che 「彳+育+攴)」の会意モジで、するりと抜け出る、抜きとおすなどの動作を示す。育は「子の逆形+月」で、お産のとき、頭から赤子がうまれるさま。達(するりと抜ける)・中(草の芽が地上に抜け出る)・撤(さっと抜きとる)などと同系。⇔ツツ[伝・筒]・ツタワル[伝]・トオル[通・徹・透]。
トツduet突tu 「穴(あな)+犬)」の会意モジで、穴の中から急に犬がトビだすさま。凸・出(つき出る)と同系。⇔ツツ[伝・筒]・ツツク[突・啄]・トツグ[交・嫁]。
トツt’uet凸tu 中央が突き出た姿を描いた象形モジ。突・出と同系。
トツtuet咄duo 「口+音符出」の会意兼形声モジで、突然に舌打ちや声を出す擬声語。また、驚きいぶかる声。突と同系。
日漢t-t音語の対応関係
まだまだ不十分ながら、ここまでいちおう日漢のt-t音語をひろいあげ、音韻面からの対応関係を考えてきました。基本的な面では国語辞典や漢和字典の解説にしたがいながら、⇔印以下のところでイズミ独自の解釈をこころみました。この部分は、例によって「誤解と偏見にもとづく独断論」の可能性があり、なんの権威もありません。それでも本人はますます自信をふかめてきています。オメデタイ人間なんですね。
しかつめらしい理屈は別として、漢語音ダツ[脱・奪]のイメージ(衣服や金品と持主の関係が断絶する姿)がヤマトコトバのタツ[絶・断]にそのまま通じることに気づいたときは、正直なところ「ヤッタ」と思いました。トツ[突・凸]とトヅ[綴・閉]・トツグ[交・嫁]の対応関係に気づいたときは、「これは話がうますぎる。ユメではないか」と思いました。
とどのつまり、このような発想法や言語観自体、どこかまちがっているかもしれません。ご教示をおまちします。
0 件のコメント:
コメントを投稿