2012年5月9日水曜日

p-t音の英語


p-t音擬声・擬態語と音象徴(3

日漢英のコトダマくらべ(9)

「文字の歴史」第17




abc字形の起源
前回漢語の項で、漢字最古の字形とされる甲骨文をとりあげましたので、こんどは英語表記に使われている表音文字=アルファアベット=abcの起源について、すこし考えてみることにします。
いま英語・フランス語・ドイツ語などで使われているローマ字の字形は、ギリシャ文字やロシア文字と一部字形がちがいますが、いずれももとは古代エジプトの象形文字からはじまったと考えられています。
ここでは、『文字の歴史』(A. C.ムーアハウス著。ねず まさし訳。岩波新書234)の17アルファアベット文字の後継者」を参考にしながら、ローマ字p, b, t, dの字形や音形などについて考えてみましょう。

P, p17段)…もともとエジプト語ro(クチ[口])を意味する象形文字でした。やがてこの字形を受けついだフェニキア人たちが、フェニキア語po(クチ[口])の表音文字として使ったことから、ラテン文字、ローマ字でも、音素文字pとして使うことになりました。
この歴史経過から、二つのことが分かります。
①表意文字の発音は、その文字を使う民族言語の音韻感覚に合わせて変化すること。
漢字の場合でも、たとえば漢語でカンと読まれていた表意文字[間]は、ヤマトコトバの文脈でマ・アイダなどと読まれることになりました(訓読法)。
②表意文字は、さまざまな事情から表音文字に変化する傾向があること。
たとえば漢字の造字法は、象形指事の方法だけではまかないきれず、大量の形声文字(音符をもつ文字)をつくることで補充しました。また、日本では表意文字の漢字を表音文字として使う「万葉仮名」の用字法が生まれ、さらにすすんで、「カタカナ」「ひらがな」という表音文字が発明されました。
B, 2段)…もともとイエ[家]やヘヤ[部屋](間仕切りのある構造物)を意味する象形文字でした。おおくの民族言語の表音文字として使用されるあいだに、意味用法の抽象化がすすみ、音素文字としての用法が定着しました。イズミの私見では、ヤマトコトバのヘ[家・戸・重・方]・ベ[]や漢語ブ[部]などとの対応関係が感じられる音形・字形です。
T,(22段)…エジプト文字の字形は、1本の線をもう1本の線でタチ切る姿です。もう1ツケタス[付足]姿、もう1本の線でカラメトル(まとめる)姿にも見えます。漢字のジュウ](全部一本に集めて一単位とすることを丨印で示す指事文字)にも近いです。ローマ字tの字形は、ツルギ[剣]をツキタテル姿に見えます。
D, (4段)エジプト文字の字形はオリド[折戸]ドアを表わす象形文字でした。ドアは、デイリ[出入]するトコロであり、またデイリをトメルトザストコロ。やがて、doorなどの語頭子音を表わす音素文字d-として使用されるようになりました。

p-t型英語の擬声語
このまえp-r型英語擬声語の例として、babble, bubble, flap, flop, plop, splashなどを採集することができました。それでこんどもp-t型英語擬声語をさがしてみましたが、ほんのわずかな例しか見つかりませんでした。
pat パタパタ・パラパラ。パタリとアタル、軽くブツカル[]音。動詞・形容詞・副詞用法もあります。
patter同上。名詞用法(patするもの)や 動詞用法もあります。
pitapat パタパタ・パラパラ・ドキドキという音。また、そのような音を立てる姿を表わす名詞。さらに動詞・副詞としても使われます。pit-a-patのような構造だとすれば、pitは「クボミ。ヘコミ」、「クボミに入れて貯蔵する」の意味ですから、もとは「ピタリ、ブチアタル」(結果としてクボミができる)姿だったかもしれません。
putput パッパッ・ポンポン。小型エンジンの音。
 「擬声語は音を表わすだけで、意味とは関係ない」という説があります。いちおうは、そのとおりです。しかし、パタパタ・ピタピタというp-t音は「パタリ、ブツカル」、「ピタリ、ヒッツク」などの現象にともなって発生するものです。いうなれば、原因と結果の関係です。したがって、結果(p-t音)から原因(p-t音をもたらした現象)を連想したり、推定したりできるわけです。その点では、p-t音そのものに、「p-t音をともなう現象」という意味がこめられていると考えてよいと思います。
日本語とは縁のなさそうな英語のp-t音擬声語ですが、そこはやはりp-t音同士。日本語、パタパタ・ポツポツやハタ[旗・畑・機・端]・ホト[陰]などとの対応関係をさぐる手がかりはゼロではなさそうです。

p-t音英語、語根と派生語の関係
A. H. D.フロク「インド・ヨーロッパ語の語根と派生語」をたよりに、p-t音英語をまとめてみました。語根・基本義・派生語の順。日本語訳をそえ、各項ごと(⇔印以下)に「対応関係が推定される日本語・漢語」を付記させていただきました。ご教示をお願いします。
bheid-( to split割る、裂く) beetleカブトムシ/ biteかみつく/ bitハミ[銜]/ bitter苦い/ baitえさ、おとり/boat小舟/ fission分裂。  ⇔ハツル・ヘツル[剥]。ハ[刃・歯]でカミツク姿。ハミ[銜]。
bheidh- (to trust信用する, confide打ち明ける) bide住む/abideとどまる/ fiancé婚約者/ confide信用する faith信頼.  ⇔(内心を)ブッチャケルハツ[發](ヒラク)。
bheudh- (to be aware気づく, to make aware気づかせる) bid指示する/ forbid禁止する/ bode1予言する/ Buddha仏、正覚者。  ⇔パッハタクハタと気ヅク。
ped- (foot.) foot足/ pedalペダル/ pioneer開拓者 octopusタコ fetch取って來る。  ⇔バタバタブツ[打]。足でフミツケル
pet- (to rush突進する.) feather appetite食欲/ compete競う repeatくりかえす pen1ペン.   ⇔パッとツキデル。
pete- (to spread広がる) patent特許/ pace1歩調/ pass通りすぎる/ compassコンパス/ expand広げる petal花びら pan1なべ. パッとツキデル、ヒロガル。ボッテリ・ポッテリ・フト[]
peter- (father) father父/ padre神父/ paternal父親らしい patronパトロン/ patriot愛国者.   ポツリ、ツキタツ人。
poti- (powerful力強い; lord主人.) possess所有する powerちから possible可能な potent有力な/ impotent無力な.   ⇔ポツリ・ポチッ、ツキデル。ハツ[] →発酵・活発。ボツ[勃]→勃興・勃起。

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